第79話「楽勝じゃなかったのかよ」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
マイトランドとジェラルトは、参謀本部を出ると、そのまま新兵教育隊のある基地に向かった。
営門に到着すると、2人は思いがけない人物と遭遇した。
もう新兵教育隊を出て行ったはずの、フリオニールだった。
「おお、2人とも、今帰りか?出発は明日だったな?」
「ああ、それよりなんでまだここにいるんだ?まさか俺達を待っていたのか?」
「ああ、それなんだが、恥ずかしい話、自分の鎧を無くしてしまってね。探していたんだ。」
「なんだ。そうだったのか。で?あったのか?」
「うん。無いんだ。どこを探しても見つからなくてね。皆に迷惑をかけるといけないからね。もう行くことにしたよ。鎧は見つかったら送ってもらうことにした。」
ジェラルトがスナイダーにフリオニールの鎧を渡したのだ、当然ある訳がない。
だがこれに関しては止めなかったマイトランドも共犯だった。
「鎧、あるといいな。じゃあ俺達は行くよ。じゃあな。」
「なんだ、折角だ、もう少し話さないか?」
「何か話すことでもあったか?お前は偉くなって、平民を戦場で救うんだろ?こんなところで無駄話をしている暇があるのか?」
「そうだな。マイトランドの言う通りだ。すまなかった。もう行くことにするよ。すぐに会えそうだが、またどこかで会おう。」
「ああ、またな!」
フリオニールは寂しそうに肩を落とすと、営門から出て行った。
すぐに会えそうだ、とフリオニールは言った。マイトランドはその言葉を反芻した。士官学校から前線に出ることは通常ない。だが、もし辞令が出れば話は別だ。グレイグが手を回すと言っていた。フリオニールも、何かを知っているのかもしれなかった。
「マイトランド、危なかったな。でもスナイダーには悪いことしたぜ。」
「フリオニールにじゃなくてか?」
「フリオニールはいいんじゃないか?新兵教育にあんな家紋入りの鎧持ってくるバカがいるかよ。貴族様にはいい薬になったぜ。」
ジェラルトは欠片も悪びれていなかった。むしろ、よくやったと言わんばかりの顔をしていた。
「スナイダーは荷物に紛れていたとでも言うだろうさ。」
「だろ?第3軍に貴族院20名家の家紋入りの鎧があったら、それはそれで面白いぜ。スナイダーが着たらどうなるかな。不敬罪か?」
「着ないだろ。さすがに。」
「いや、スナイダーなら着る。あいつはそういう奴だ。」
ジェラルトは本気で楽しそうだった。マイトランドは呆れながらも、否定はしなかった。
アツネイサ、イブラヒム、アダムス以外は皆の居なくなった部屋に戻ると、ポエルが遊びに来た。
「今日、ここで寝る。ポエルの部屋誰もいない。」
「そうか、いいんじゃねえか?皆で話でもしながら寝ようぜ。」
ジェラルトが快く迎え入れると、ポエルは空いた寝台の一つに腰を下ろした。
部屋は妙に広かった。つい昨日まで満員だった47号室が、今は7人しかいない。
「なあマイトランド。さっきグレイグのじじいに何か聞いたんだろ?第2軍の話。」
ジェラルトがあっさりと切り出した。
アダムスが顔を上げ、イブラヒムも手を止めた。ポエルはマイトランドの方を黙って見た。アツネイサだけが、何の話か分からないという顔をしていた。
マイトランドは少し黙った。
グレイグから聞いた情報は、大本営が新兵に隠している内容だった。知れば、明日から共に戦場に向かう仲間の士気に関わる。
だが、知らないまま戦場に放り込まれる方が、余程危険だった。
「言っておく。大本営発表は嘘だ。」
マイトランドは静かに言った。
「第2軍は圧倒的優勢でも、破竹の勢いでもない。第1軍団は陣地を失い、司令部も急襲を受けた。物資集積所は全焼、軍馬もほぼ喪失している。第2軍はグルノブルットに留まるのが精一杯で、進軍も反攻も出来ていない。」
部屋が静まった。
イブラヒムが最初に口を開いた。
「・・・マジかよ。楽勝じゃなかったのかよ。」
「楽勝だと思って戦場に行く奴が一番先に死ぬ。だから今言った。」
「ア、アニキ、どうすんだよ、俺・・・。」
「どうもしないだろ。行くしかないんだから。」
アダムスは落ち着いていた。イブラヒムの肩をポンと叩くと、マイトランドに尋ねた。
「で、マイトランド。俺達に何ができる?」
「まず生き残ること。偵察中隊だ。主力部隊と違って、いきなり正面から敵にぶつかることは少ない。その代わり、少人数で敵の情報を取ってくる任務だ。頭を使わなければ死ぬが、頭を使えば生き残れる。」
「マイトランド、頭を使うのは得意。大丈夫。」
ポエルがそう言うと、イブラヒムは少しだけ笑った。
「ポエルに慰められるとは思わなかったぜ。」
「慰めてない。事実。」
「まあ、あれだ。マイトランドがいるんだ。俺達は模擬戦で勝ちまくった奴と同じ部隊だぜ。そう考えりゃ、他の新兵よりよっぽど恵まれてんだろ。」
アダムスがそう締めると、イブラヒムも頷いた。
「・・・そうだな。アニキの言う通りだ。マイトランド、俺、頑張るからよ。」
「ああ。頑張らなくていいから、死ぬな。」
アツネイサは話の内容を全ては理解できていなかったが、皆の表情から何かが変わったことだけは感じ取っていた。
「アツネイサ、ワカラナイコト、アッタラキク。ダイジョウブ。」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、寝台に潜り込んだ。
新兵教育最後の夜は、昨日とは違う静けさの中で更けていった。
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