第77話「泣かなかった」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
新兵教育最後の機会だと、フレデリカがマイトランドに近づいた。
「や、やあマイトランド。もう行かなければならないんだが、もしよかったら2人で話さないか?」
「ああ、いいぞ。」
「あの、その、私が士官学校を卒業したら、け・・・。」
フレデリカがそこまで言いかけた時、ポエルとフランの話に聞き耳を立てていた盟主が、突然大声で割って入った。
「あああああああああ!ああああああああああ!ああああああああ!」
「なんだどうした?フラン?」
「あっちで第1軍の前線部隊に配属になったライアネン君が出発するそうです!早く送りに行きましょう!」
「もう送り出しただろ。まあいい、フレデリカ、すまんな。またいつか話そう!」
「あ、ああ、またいつか・・・。」
フレデリカは泣かなかった。
その代わりに、近くに立っていたアツネイサの肩をそっと叩いた。
「アツネイサ。手紙を書けるようになったのだから、私に手紙を書きなさい。命令だぞ。」
「ハイ。ワカッタ。フレデリカサマ。カナラズカク。ヤクソク。」
「様はいらんと言っているだろう。まったく。」
フレデリカはそう言って、一度だけマイトランドの方を振り返ると、クレアと共に士官学校組の列に向かった。マイトランドはそれに気づかなかった。
第3軍の出発が近づいた。
「スナイダー、いい物を荷物に入れておいたぜ。困ったときは使うんだ。」
「通りで、荷物が重いと思ったら。ランズベルクありがとう!」
何も知らないスナイダーが礼を言うと、マイトランドがジェラルトに尋ねた。
「ジェル、お前、何入れたんだ?」
「あ?ああ、フリオニールの鎧だぜ。さっきそこに置いてあったからな。」
「お前・・・。それ泥棒って言わないか?」
「まあ俺が持ってるわけじゃないし、いいだろ?フリオニールも鎧くらいで怒らないぜ。」
「それもそうか。」
2人が笑っていると、フランがマイトランドに近づいてきた。
「マイトランド君。行ってきます。同期会楽しみにしていますね!」
「ああ、フランにも手紙を書こう。それと、移動中に皆に伝えてくれ。第3軍は次期に戦闘になる。我々ヴェルタは海洋国家なのに、海軍を持っていない。辛い戦いになるだろう。」
「ええ?そうなんですか?」
「ああ、間違いない。イドリアナがハイデンベルグ領に上陸できなければ、十中八九あるな。今はまだいいが、覚えておいた方がいいだろう。それに状況次第では、ガリア同盟も敵に回る可能性もあるぞ。」
「わかりました。伝えておきます。」
フランはそう言ってポエルにチラチラ目をやると、両の手の平を合わせて挨拶し、他の者を伴い出発した。
最後にヨーゼフがやって来て、マイトランドにこう伝えた。
「出来上がった物は、配属部隊にそのまま送ればいいですね?」
「いや、グレイグに預けてくれると嬉しい。士官学校は首都だから大丈夫だろう?」
「はい、わかりました。グレイグ中将にお渡ししましょう。マイトランド君、約束は覚えていますか?」
「もちろんだ。いつになるかはわからんが、士官学校を卒業したら召集しよう。」
「ふふ、約束ですよ。私の夢は、マイトランド君の隣にあるのですから。」
ヨーゼフはそう言うと、他の新貴族と共に出立した。
「フリオニール来なかったな。」
「ああ、いいんだ。忙しいんだろう。それより俺達第2軍は、明日の出発だ。時間もあるし、グレイグの所に武器を取りに行くか。成績は発表が無かったから、約束は守れていない。とりあえずグレイグの所だけだな。」
「ようやくアレが使えるのか。馬はどうする?」
「馬は要らないな。初陣だ、部隊に配属されればもらえる馬を使おう。俺達は騎兵兵科だしな。それに気になることもある。」
「気になる?何がだ?」
「昨日の大本営発表だ。他の者の手前、話せなかったが、何かおかしいと思わなかったか?まぁグレイグのところについてから話そう。」
そう言うと、二人は雑談を交えながら基地営門に向かった。
その夜、もう誰もいなくなった部屋で、ポエルがアダムスとイブラヒム、アツネイサに向かって、フランとの同盟について語り始めた。
「同盟?」
「フランと約束した。同期会までは、告白しちゃダメって同盟。正々堂々ね。」
「エ?ポエル、マイトランド、スキナノ?」
アツネイサが目を丸くして聞くと、ポエルは顔を真っ赤にした。
「なんでみんなそういうこと言うの。」
「いや、今自分で言ったよね・・・。」
アダムスが呆れた顔で指摘すると、イブラヒムが腕を組んで真面目な顔をした。
「つまり、ポエルはマイトランドのこと好きで、同じ部隊で毎日一緒にいるわけだ。アニキ、これはカルドナとの戦争より重大だぜ。」
「お前はいちいち大げさなんだよ。」
「あとは部隊で、マイトランドに変な虫がくっつかないように見ておく。皆、協力してね。」
ポエルが真顔でそう言うと、アダムスは深いため息をついた。
「俺達、戦場に行く前に味方の監視任務かよ。」
かくして盟主フランの知らないところで、ポエルによる第2軍支部が結成された。
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