第76話「同期会」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
「マジかよ。俺、第2軍に行きたかった!!」
「お、おう、簡単に手柄を立てられそうだしな。俺はジョディーと一緒に、ロンベルトの随伴騎兵になる予定だぞ。まぁ、でも近衛師団配属になるから、戦死はないな。手柄は無いけど、第1軍じゃないだけよかったわ。」
「ぼ、僕は、アーシュライトさんの所で働くよ。シュウと一緒にね。勝ってるって言っても戦場は怖いからね。助かった思いだよ。」
「あたいはジェイクと一緒。ロンベルトの随伴弓騎兵になるつもりさ。だから第1軍には行かなくて済むってもんさね。」
『ヴェルタ第2軍、圧倒的優勢。破竹の勢いで進軍中。我が軍の損害は極めて軽微なり。』
とだけ新兵教育隊に第2軍の戦況が発表されると、明日に控えた修了式と部隊配置を、皆が思い思いに話した。
行き先が決まっている者は良いが、そうでない者は皆、先のイスペリアの内戦干渉で損害が出た第1軍に補充の為、配属が決まるのではないかと、内心ひやひやしていた。
そんな中、マイトランドだけは違う思考でいた。
「なんだ、第1軍に配属されたら武功を立て放題じゃないか。俺は行きたいけどな。」
「皆マイトランドの様に考えられないぜ。変な上官に当たったら、変な命令貰って、それだけでお陀仏だろ?」
「確かに。指揮官次第ってとこだな。無能に当たればそれで終わりだ。せいぜい良い部隊に配置されるよう、祈るか。」
消灯を過ぎても、そんな話を全員がやめることはなかった。
それからしばらく長い話が続き、皆がそろそろ眠くなってきた頃、ヘクターが切り出した。
「な、なあ皆、僕達、2年に一度で良いから集まらないか?手紙で連絡を取り合って。僕達兄弟みたいなもんじゃないか。手紙は一番死ぬ確率の低いマイトランドが全員に。部隊が変わっても、マイトランドにその変わった部隊名を送るんだ。ど、どうかな?」
「そりゃあいい。ヘクター、お前、初めて部屋長らしい仕事をしたな。同期会か!やろうぜ!みんないいだろう?」
ジェイクはヘクターの提案を皆に確認した。
「ああ、誰かが死んだら葬儀の連絡も俺がしよう。」
マイトランドがそう言うと、一同は黙り、重い空気が流れた。
「だ、誰が一番最初に死ぬのかな・・・。」
クリスが言った一言で、更に重い空気が流れると、ジェラルトが場を和ませた。
「まあ、あれだ!同期会楽しみにしてるぜ!マイトランドも余計な事言うなよ。」
「ああ、すまなかった。善意のつもりだったんだが。何にしても、葬儀の棺桶の中には死体は入っていないことが多い。行方不明程度で、死んだなんて誰も思わんさ。」
「かああ。こいつは。おお!そうだ!ライアネンも呼ぼうぜ。」
皆が全会一致で同期会を約束し、新兵教育最後の夜の眠りについた。
翌朝、修了式は拍子抜けするほどあっけなかった。
教育隊長が壇上に立ち、簡潔な訓示を述べた。戦時下ゆえ、来賓も祝辞もない。首席の名が呼ばれることもなかった。
訓示の後、配属部隊が読み上げられた。名前と部隊名が淡々と続き、呼ばれた者が一歩前に出て敬礼する。それだけだった。
正式な軍服と兵科徽章、軍靴が支給されると、新兵達はそれぞれの荷物を整え、見慣れた教練服を脱いだ。
配属部隊について知っているところで言えば、フリオニール、グレンダ、フレデリカ、クレア、エルンスト、ヨーゼフは、士官学校へ入校。
ロンベルトは、首都ヴェルテブール防衛の任につく近衛師団、第105騎兵連隊本部中隊へ。
ジョディー、ジェイクはロンベルトと同じ第105騎兵連隊へ。
アーシュライトは、同じく首都防衛の任につく近衛師団、第210重装歩兵連隊本部中隊へ。
シュウ、ヘクターも同じように第210重装歩兵連隊へ。
ライアネン兄弟は第1軍の第2軍団、第16歩兵師団へ。
トッド、ルーク、フィン、アルベルト、クリスは第1軍の第4軍団、第901後方支援連隊へ。
ロブ、ダン、エリオット、スナイダー、フォルカン、フランは、第3軍の第5軍団、第92騎兵師団へ。
ポエル、アダムス、イブラヒム、アツネイサはマイトランド、ジェラルトと共に、第2軍、第2軍団、第198騎兵連隊、偵察中隊へ。
「アニキ、俺達第2軍団だ。こりゃ楽勝だよ。」
「考えろ、イブラヒム。トッド達に悪いと思わないのか。」
「まあ確かに。すまんな。みんな。」
アダムスとイブラヒムがそんな会話をしていると、ポエルがアダムスの頭を叩いた。
「大丈夫!みんな強くなった。異能も増えた。」
「いってえな。ポエル。お前はマイトランドが好きだから、一緒になって嬉しいんだろうけどよ・・・。」
「ポエルは、そんなことない。なんでそんな事言うの。」
顔を真っ赤にしたポエルは、少しムッとすると、更にアダムスをポカリと叩いて続けた。
「マイトランドに聞こえたら、敵より先に殺すから。」
「いや、分かったよ。マイトランドには内緒にしておくから叩くんじゃねえよ。」
配属が決まると、出発の順番がやって来る。第1軍の前線補充が最も早く、近衛師団、第3軍と続き、第2軍の出発は翌日だった。
ライアネン達の第1軍の出発は、名目が補充であるが故、他の部隊よりも幾分早かった。
「ライアネン、第1軍は過酷と聞く。絶対に死ぬんじゃないぞ。」
「おお、マイトランドの下で働くまでは死なないさ。お前こそ死ぬなよ。」
「俺が死ぬと思うか?誰に言ってるんだ?」
「ははっ、違いねえ。」
ライアネンは笑ったが、その笑い方は、演習場で先鋒を務めた時の豪快さとは少し違っていた。弟のクリードは黙って兄の隣に立ち、マイトランドに深く頭を下げた。
「軍師殿。兄をよろしくお願いします。」
「よろしくも何も、部隊が違う。自分の身は自分で守れ。だが、同期会には必ず来い。2人とも。」
「ああ、必ず行くさ。」
ライアネンはそう言って背を向けた。マイトランドはその背中を、見えなくなるまで見送った。
次はトッド達の後方支援部隊を送り出す番だった。
「クリス、あんた、あたいより先に死ぬんじゃないよ。あたいばっかり安全なところですまないね。」
「わかってるよ。姉さん。僕は大丈夫さ。」
ジョディーとクリスが抱き合い、兄弟の別れを惜しんだ。ジョディーは目を赤くしていたが、クリスの前では涙を見せなかった。
マイトランドはクリスに声をかけた。
「クリス、言っておいた件頼むぞ。」
「ああ、大丈夫。何かあったらすぐに連絡するよ。」
「トッド、ルーク、アルベルト、フィン、無事で。」
クリスの返事を聞くと、マイトランドはトッド達を送り出した。
続いて、近衛師団の出発だった。
「ロンベルト。フリオニールを頼む。」
マイトランドがそう言うと、ロンベルトは少し意外そうな顔をした。
「フリオニールは士官学校だ。私は近衛師団だぞ。」
「わかっている。だが、士官学校を出た後の話だ。あいつは変えようとしている。貴族の中にいると、足を引っ張る奴が必ず出る。お前がいなければ、あいつは潰される。」
ロンベルトは黙って聞いていたが、やがて口元を緩めた。
「マイトの口から、そういう言葉が出るとはな。盤の外の話もするようになったか。」
「盤の外も盤だろう。盤面は生きている。」
「ふっ。あの方は私が守る。心配するな。」
ロンベルトはそう言うと、ジョディーとジェイクを従え、近衛師団の列に加わった。
「アーシュライト。お前もだ。フリオニールの盾になってやってくれ。」
「はい。命に代えても。」
アーシュライトは簡潔に答えると、シュウとヘクターを伴い、第210重装歩兵連隊の列へ向かった。
ヘクターが最後に振り返り、ぎこちなく手を振った。
「ま、マイトランド、同期会の手紙、忘れないでね。」
「忘れるわけないだろう。お前が言い出したんだ。部屋長。」
ヘクターは嬉しそうに何度も頷くと、走ってアーシュライトの列に追いついた。
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