プロローグ第七話「戦いは数ではない」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
マイトランドが袋から首を1つ出す。グレイグの顔がわずかに曇った。
2つ目を出す。
グレイグの顔色が青ざめ始めた。判別はできない。だが将軍クラスの首がこれだけ出てくるということが、何を意味するかはわかった。
3つ目を出す時には、グレイグの顔は羊皮紙さながらに青くなっていた。
「これは……誰だ。」
「暗殺者たちの会話から、こちらが軍司令アルドリック将軍と副司令ベルナード将軍、こちらが参謀ラーム将軍の首です。」
「待て。暗殺者の会話……だと?」
グレイグは眉をひそめた。
「さっきも建物がどうとか言っておったが……首は打ち捨てられとったんじゃないのか?どういうことだ、説明してみろ。」
マイトランドは少し躊躇してから、口を開いた。
「……暗殺者たちが会合を開いた場所に、俺たちがいたんです。」
「……いた?」
グレイグは一瞬絶句した後、小さく呟いた。
「……あらかた近くを通りかかったとか、そんなところだろう。」
それ以上は聞かなかった。
グレイグはしばらく黙って首を見つめた。
それからフランツに向き直った。
「フランツ。外の将校に参謀本部へ事実を確認するように伝えろ。急げ。」
フランツ軍曹が素早く扉を開け、廊下の将校に指示を伝えると、すぐに部屋へ戻ってきた。
「伝えました!」
グレイグは部屋の中を歩き回りながら、独り言のように続けた。
「お前達、戦場を見てきたと言ったな。……いや、子供に戦場がわかるはずもない。司令や副司令が死んだとしても各師団長がおる。それに共和派は2正面作戦を展開しているはずだ。こちらにそれだけ戦力を割けるはずもない。だが首席次席参謀までおらんとなると……いや、こちらは18個師団2個旅団投入しておるしな。」
マイトランドはそんなグレイグを見て、自分達よりも先に戦況報告が軍本部に届いていると思い込んでいたことに気づいた。
先にオルメアの首だけ出したことを後悔した。
「あの、第1軍の情報伝達手段は書簡と馬だけですか?開戦後1〜3日でしたら、戦場を見てきました。お伝えしましょうか?」
考え込みながら部屋中を歩き回っていたグレイグは、ハッとしたようにマイトランドに向き直り、
「……頼めるか。この際子供の視点でも構わん。勝っていたか負けていたかどちらかでもよい。」
「はい、結論から言えば負けたでしょう。」
すると、直立不動の姿勢に戻ったフランツ軍曹が口を開く。
「中将閣下!子供の戯言に耳を貸す必要はないと具申致します!我が軍の勝利は間違いないでしょう!」
「うるさい!フランツ!黙っておれ!わしがいいと言うまで口を開くな!」
「失礼いたしました!」
グレイグに叱責され口を閉じたフランツ軍曹を尻目に、グレイグはマイトランドの発言に何か含むところを感じ、続けた。
「で?マイトランド。先程の話からすれば、2人は戦場から離れていたはずだ。どの様に我が軍が負けたか説明できるか?」
「中将閣下でいらしたのに、失礼なことばかり申し訳ありません。階級章を拝見しておりませんでした。」
「そんなことはどうでも良い。説明できぬか?」
マイトランドは机の上にあった地図を手に取り、目を閉じた。
あの夜の光景が、まぶたの裏に蘇る。
ジェラルトはそのマイトランドの横顔を見て、思わず息を飲んだ。
あの目だ。
路上でシャトランジを指していた時の、あの目。
盤面の全てが見えているような、静かで鋭い目。今マイトランドは、戦場をシャトランジの盤面として見ている。
鳥の視点から見たゼーテの村は、無数の松明に照らされた巨大な陣地だった。
整然と配置された部隊——だがその「整然さ」が、すでに綻び始めていた。
司令部のあるべき場所に、人の動きがなかった。
夜明けが近づいた頃、閃光が走った。
複数の方角から同時に。炎が上がり、陣地が揺れた。命令は来なかった。部隊は固まり始めた。
やがて陣地前面に2個歩兵師団と1個重装歩兵師団が残された。
捨て石だ。
その間に本軍は後退を図った。退路を切り開くために1個騎兵師団が突撃を敢行した——そして、散っていった。
東の敵陣が薄くなった瞬間——新兵器が火を噴いた。
マイトランドは目を開けた。
「第1軍はゼーテの村に陣地を構築していました。上空から確認したところ、歩兵師団を正面に、重装歩兵、騎兵、弓兵師団、魔導砲撃旅団を配置していました。翌日、正面にイスペリア軍が現れます。6個師団ほど、旅団がいくつかついたとしてもわが軍の半分にも満たない数でした。2日間はにらみ合いが続きます。我が軍が伏兵を警戒していたのでしょう。」
「良くわからんが、面白い力だな。異能というやつか……。わしにもあるぞ?ふむ、それで?」
「2日目の夜、暗殺が起きました。司令部を失った軍は統制を欠いたまま砲撃を受け、密集陣形をとらざるを得なくなりました。」
グレイグは腕を組み、目を閉じた。
指が机を静かに叩く。
「……続けてくれ。」
「半包囲された状態で東の敵陣が薄くなりました。そこに歩兵が突撃を敢行しました。」
「ふん。」
グレイグは鼻を鳴らした。
「密偵の報告では敵の総数は最大で6〜7個師団、旅団がいくつかついたとしてもわが軍の1/2ほどにしかならん。どの様にしたって負けるはずもあるまい。戦いは数だぞ?戦場に出たことがないからわからんかもしれんが、ちがうか?」
「はい。戦いは数です。ですが司令官不在では、数の優位を活かせません。陣地前面に2個歩兵師団と1個重装歩兵師団が捨て石として残され、その間に本軍は後退を図りました。退路を確保するため1個騎兵師団が突撃を敢行しましたが——そこで敵の新兵器が正面の歩兵を壊滅させました。」
「新兵器!?まさか……。それは大きな音のする手持ちの兵器か?」
「鳥の視点では音は聞こえません。ただ、こう両手で構えるような兵器があったことは確かです。実はこれはジェルにも話していなかったんですが——先生から聞いたことがありました。ハイデンベルク帝国にはすでにそのような兵器があると。」
「あ、それってもしかしてドルトン銃ってやつか?先生がよく書いてくれてたやつじゃないか!」
マイトランドが銃を構えるようなポーズをとると、グレイグの顔色が変わった。
「ちょっと待っておれ。事実なら一大事だ。」
そう言い残し、大慌てで3人を置いて部屋を出て行った。




