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第51話「軍師殿の指示通り」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

 第三回目の模擬戦場であったクリフィス演習場は、第一回目の模擬戦が行われたファルマース演習場のすぐ隣、攻城戦のみを想定して作られた演習場であった。


 ファルマース演習場のすぐ隣という事もあり、演習場全体の面積はとても小さく、演習場中央の砦の中央監視塔から、その全容を把握することが出来る程であった。


 もはや定番となった模擬戦の集結地点に、各班それぞれの位置に移動が完了すると、毎度お馴染みの査閲官の訓示であった。それを終えると、各軍、各班はそれぞれ所定の位置に移動し、模擬戦の準備に取り掛かった。


 準備を終えた頃に、模擬戦お馴染みであった、


 ドーン、ドーン、


 という銅鑼の音が、周囲の空気に衝撃を与え、戦闘開始を告げた。


「全軍前進!」


 マイトランドの指示で、フリオニールは最初で最後の指示であった前進を全軍へ命令し、上げた手を大きく振り下ろすと、フリオニール軍の12個班は隊列を維持しながら、ゆっくりと砦の門へ向け、前進を開始した。


 マイトランドは開戦と同時に水色の鳥を飛ばしており、砦内外の状況を常に把握していた。


 さて、一方のグレンダ軍だが、今回ばかりは、何も準備をしなかった訳ではなかった。


 当初の計画通り、砦南門に対攻城兵器用の油、火矢などを大量に配置した。


 門上の配置を決める軍議の際、ライアネンが手を挙げた。


「門上の守備は、俺たちに任せてもらえませんか」


 第二回模擬戦の最大功労者であり、全軍の先鋒として名を上げた男の進言であった。グレンダの副官もこれに異を唱える理由はなく、門上にはライアネン班23名を主軸とする3個班、計68名が配置された。


 門の上に立ったライアネンは、弟のクリードを監視台に送り込むと、信頼の厚い者を巻き上げ機構室に配置した。


 門上を完全に押さえた。


 あとは、軍師殿の指示通りに動くだけであった。


 門の裏手には余った大量の歩兵が配置された。これを束ねる指揮官には、統率力のある貴族3班のエルンストが指名され、副官には新貴族4班のゲシュハルトが就いた。


 エルンストは門裏の兵を見渡し、ゲシュハルトに尋ねた。


「随分な数だな。これなら正面から来ても押し返せる」


「ですが、問題は街側からの別働隊です。砦は四方を壁に囲まれていますが、街路から壁に取り付かれれば、この歩兵だけでは手が回りません」


「その為のアルファイマーだろう。魔導砲撃で壁に近づく奴を吹き飛ばせばいい」


 ゲシュハルトの懸念に対し、エルンストはヨーゼフ班の配置を根拠に一蹴した。


 実際、砦街側の壁にはヨーゼフ班が配置されており、壁に接近する敵を砲撃で迎え撃つ手筈となっていた。


 さらに、中央監視塔にはグレンダ班の光魔法を使用できる3名と伝令4名が配置され、この3名の光魔法により各班、各隊との通信手段が確保されていた。中央監視塔下には予備兵力であったライナー班が配置され、街側から回ってくる敵別働隊に備えていた。


 防備は整った。


 少なくとも、グレンダ軍はそう信じていた。


 そんな中、門の監視台で警戒に当たっていたクリードが、マイトランドの指示通り、まだフリオニール軍を発見してもいないのに、大きな声を上げた。


「敵発見!敵発見!全軍でこちらに向かっている模様!」


 理由としては、出来るだけ早く、そして出来るだけ多く、グレンダ軍の主力を門に引きつけたかった為に他ならなかった。


 クリードからの報告を聞いたエルンストは、ゲシュハルトと顔を見合わせた。


「全軍だと?たった12個班の全軍で正面から来るのか」


「愚策ですな。だが、あのラーケン卿がいるのです。何も考えずに突っ込んでくるとは思えません」


「考えすぎだ。12個班しかいない以上、分散させれば各個撃破される。正面に集中するしかないだろう」


 エルンストは門後方に待機していた歩兵全軍に通達した後、砦内指揮官のグレンダへ敵発見と敵規模の伝令を出した。


「敵は少数だ、全軍で打って出るぞ!監視に数名を残し、残りは準備しろ!」


 エルンストが大声で命令すると、門上からまたクリードが大声で報告した。


「お待ちください!ベルナー様、敵が奇妙な行動をしています!」


 当然ながらクリードは、荷馬車を引きながら接近するポエルの報告はせずに、罠を思わせるような報告をした。


「どんな行動だ?」


「前進後退運動です!波の様にその場で、突出しては後退しを繰り返しております!」


 無論、フリオニール軍は、そのようなことはしていなかった。


「前進後退だと?意味が分からん。何の為にそんなことを」


 エルンストが首を傾げると、ゲシュハルトが一歩踏み出した。


「ベルナー卿。やはり自分の目で確認すべきです。監視台に上がりましょう」


「分かっている」


 エルンストは門上への階段に足を向けたが、すぐに足を止めた。階段はライアネン隊の兵でひしめいており、押し分けて登れる状況ではなかった。


「おい、道を空けろ!通るぞ!」


 だが、兵たちは互いに顔を見合わせるだけで、誰一人動こうとしなかった。


「何をしている!命令が聞こえないのか!」


 エルンストが声を荒らげても、階段の上から見下ろす兵たちは、壁のように動かなかった。


 もしグレンダ軍に勝機があったとしたら、この時だったはずだ。ゲシュハルトの進言通り、エルンストが監視塔に登り、自分の目で状況を確認しさえすれば、クリードの嘘を見抜き、全軍で出撃し、フリオニール軍を撃破できていたはずであった。


 だが、現実には、エルンストは階段の前で怒鳴ることしかできなかった。


「……仕方がない。クリードの報告を信じるしかあるまい」


 ゲシュハルトは唇を噛んだが、それ以上の手段がなかった。


 エルンストは門下の兵に向き直ると、声を張った。


「よし、確かに罠かもしれん。門は開けるな。監視台に数名残し、それ以外は不測の事態に準備せよ!」


 さらにエルンストは、ゲシュハルトに確認した。


「西門と東門の状況はどうなっている」


「東門は開閉機構が壊れております。開けることも閉めることもできません」


「であれば東門は監視と最低限の人数だけ残せ。敵が全軍でこちらに向かっているなら、街側から回り込む兵力はない。だが万が一がある、西門には2個班を回せ」


「承知しました」


 指揮官としては当然の判断であった。正面が罠ならば、他の入口も警戒する。だが、エルンストが警戒すべき敵は、砦の外ではなく、既に砦の中にいた。


 そして再び門上を見上げた。


「門上の者は全員、降りてこい!門下の守備に合流しろ!」


 エルンストは何度も命令したが、門上が安全だと知っていたライアネン隊68名が降りてくるわけがなかった。


「貴様ら!命令違反か!」


 エルンストが再度命令しても、全く降りては来なかった。


 ゲシュハルトが低い声で呟いた。


「ベルナー卿。門上の連中、おかしくありませんか」


「ライアネンの部下だろう。あの男の隊は統率が厳しいと聞く。隊長の命令がなければ動かんのだ」


「そのライアネン自身が降りてこないのですが」


 エルンストは一瞬口を噤んだが、すぐに首を振った。


「前回の功労者だぞ。門上の守りを任されたんだ、責任感が強いだけだろう」


 ゲシュハルトはそれ以上何も言わなかった。だが、その目はまだ階段の上を睨んでいた。


 そうこうしている内に、ポエルは門に到着し、荷馬車を門前に横付けすると、一目散にその場を逃げ出した。もちろん、逃げるポエルを、ライアネン隊は弓で攻撃するようなマネはしなかった。


 門の上から荷馬車を覗き込んだ兵が叫んだ。


「おい、なんだこれは。ゴミだ!ゴミを持ってきやがったぞ!」


 火薬満載の酒樽はゴミの山の中に隠してあったが、門上からでは上面のゴミしか見えなかった。当の本人たちにしてみれば、ゴミを門前に置いて野戦に打って出るのを妨害されたとしか思えなかった。


「ふざけた真似を。誰か、この荷馬車をどけよ!打って出るぞ!」


 エルンストが命令すると、門の脇の扉を少しだけ開け、兵士が2人出てきた。


 水色の鳥で門前の一部始終を見ていたマイトランドは、即座にフランへ指示を出した。敵が打って出てこないと分かっている以上、フランは最初から部隊の最前衛に配置してあった。


「フラン、やってくれ!」


「はいです!任せてください!」


 フランは砦方向に正対すると、にっこり笑い詠唱を開始、得意の火魔法を荷馬車に向け放った。

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