第45話「予知夢」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
「良くわかったな。どの辺りからだ?」
「そうですね。最初からです。フレデリカ嬢がデートの誘いを、あんまりにもしつこくするものですから、誰かにやらされているのだろうと、考えました。」
「実際棒読みだったしな。予想外の事が起こるとすぐ黙る。」
マイトランドがそう言うと、フレデリカは顔を赤くしたまま小さく唸った。
「……私だって、頑張ったのだぞ。」
「ああ、頑張ったな。噴水の話は特に良かった。」
「褒めているのか貶しているのか、どっちだ!」
「え、ええ、そうですね。私がこのような愚策を見抜けぬとでも?」
アルファイマーが会話を戻すと、フレデリカはばつが悪そうに一歩下がり、黙って二人のやり取りを見守ることにした。
「いや、誘い出す口実は何でもよかったんだ。実際来てくれただろ?お前と話せさえすれば何でも良いって感じだ。」
「フフフ、面白い人ですね。父の友人から変な平民がいるとは聞いていましてね、マイトランド君の事だとすぐにわかりましたよ。」
アルファイマー家は新貴族ではあるが、元は帝国からの移民だと聞いたことがある。父の友人とは帝国側の人間なのか、それともヴェルタの軍の上層部なのか。いずれにせよ、新兵の情報がそこまで流れているとなると、この男の背後にある情報網は無視できない。
「で?私を調略しに来たのでしょう?」
フレデリカは「調略」という言葉を聞いて、はっとした顔をした。自分がやっていたことの意味を、今になってようやく実感したのだった。
「話が早くて助かるよ。乗ってくれるか?」
「ええ、いいですよ。正直に申し上げますと、私はフレデリカ嬢のデートの誘いには、最初から興味がありませんでした。」
フレデリカが「ぐっ」と小さく呻いた。
「ですが、フレデリカ嬢の後ろにマイトランド君がいると確信していましたのでね。あなたと話がしたかった。だから誘いに乗ったのですよ。」
「……つまり、お前も最初から俺に会いに来たってことか。」
「ええ。2度の模擬戦であの作戦を組み立てた人間が、この配分を見て何もしない訳がない。いつか接触してくると思っていました。まさかフレデリカ嬢を使うとは予想外でしたが。」
マイトランドは思わず笑った。ヨーゼフの正体が、少しだけ見えた気がした。こいつは臆病でも無能でもない。全部見た上で、自分から動かないことを選んでいた人間だ。
「ただし、条件があります。」
「なんだ?」
「私は学者か発明家になって新兵器の開発をするのが、夢でした。それが今は徴兵制度の為に軍人です。なんとかしてくれますか?」
「……新兵器の開発?」
マイトランドは予想外の答えに、思わず聞き返した。
「ええ。魔導砲撃をご存知でしょう?私の部隊が扱っているものです。あれは既存の魔法を砲撃に転用しているだけで、効率が悪い。射程も威力も精度も、本来の設計思想からは程遠い。私にはあれを根本から作り直すための理論があるのです。」
ヨーゼフの目が、それまでの穏やかな光とは違うものを宿していた。
「だが軍では研究の機会など与えられません。新貴族の三男坊に、予算も設備も回ってこないのですよ。徴兵されて、兵を率いて、模擬戦で戦え。……馬鹿馬鹿しい。」
「それで2回とも戦わなかったのか。」
「戦う意味がないからです。勝っても負けても、私の夢には一歩も近づかない。ならば、兵を無駄に消耗させるより、降伏して全員を無傷で帰した方がよほど合理的でしょう?」
マイトランドは黙って聞いていた。臆病でも無能でもなく、戦場に価値を見出せなかった。だから戦わなかった。筋は通っている。
「それだけ約束してもらえば、一生君の下に付きますよ。マイトランド君、あなたは人を引き付ける何かがある。作戦も毎回君が考えているのでしょう?あなたの下であれば、いずれ私の研究に光が当たる日が来ると、そう思っています。」
「買い被りすぎだ。正直に言う。今の俺にはそんな力はない。」
「でしょうね。では、グレッテ卿は?」
「フリオニールか。あいつは志は立派だが、貴族院での影響力はまだ弱い。お前の望みを叶えるには足りないだろう。」
「ええ、同感です。軍にもっと影響力のある人物でないと。」
「じゃあ今回だけ手を貸してくれるってのはどうだ?その間に考えておくからさ。」
「マイトランド君らしくないですね。それではダメです。しっかりと答えを出して下さい。」
「うーん。俺の地位が上がってからのことか?」
「そうではありません。そうですね。今から3年以内に可能でしょう。」
実に、どちらが貴族かわからなくなるような会話であった。中々回答にたどり着くことができないマイトランドに、アルファイマーは助け舟を出した。
「では一つヒントです。マイトランド君は、新兵教育を終えたらどうするのですか?」
そう言ってマイトランドを見た。
マイトランドは少し考えると、答えた。
「全くわからん。降参だ。」
「そうですか、では回答です。マイトランド君は私の予定では、部隊に配属されてすぐに、士官学校に行くのですよ。そこで首席になれば中尉に任官です。そうなれば、私を、私の部隊を専属の技術部隊として組み込むことができる様になるはずです。そうなったら私は晴れて学者でも発明家でもなれますしね。」
「う、うん。アルファイマー家は代々預言者の家系だったりするか?」
「そうではありません。私の異能の事は?知ってますか?」
「知らん。全くわからん。貴族の異能を、平民が知れることはないだろう?」
「私の異能は開発、看破、それと中級魔法を3属性使えます。」
「開発か、珍しい異能だな。それとどういう関係があるんだ?」
「マイトランド君のそれには負けますがね。それとは別にもう一つ、予知夢と言う異能があるんです。これは発動が2年に1回で、なんとも使い勝手の悪い異能なんですが、その分効果は凄まじく、1年以内の身の周りに起こる事を、予知夢として見ることができます。」
「当然俺のこともその予知夢に登場したって訳だ。」
「そうですね。夢は長く見ることができないので、大半は予想になりますがね。」
「だから模擬戦で戦闘に参加していなかったのか?」
「ははっ。それもありますが、買いかぶりすぎですよ。君と敵になったので勝てないと踏んでいただけです。勝てないと分かれば、何もしたくなくなりますよ。」
「そうか、あまり気分の良い異能ではないな。自分の未来は自分で切り開くものだ。俺はそうしてきたし、これからもその予定だ。」
「ええ、ですから、こうしてお願いしているのです。私を君の部隊に加えてくれますか?そうすれば私の部隊はあなたに忠誠を誓いましょう。」
「なんかでかい話になったな。まあいい、力を貸してくれるなら、それもやむなしだ。忠誠と言う形でなく、仲間として、これからよろしく頼む。ヨーゼフ。」
「はい。こちらこそ。」
アルファイマーはそう言うと、片膝をつき、マイトランドに臣下の礼を取った。
「お前なぁ、貴族が平民にこんなことして大丈夫なのか?」
「ええ、私は貴族では無く、新貴族ですからね。これからの主君に、臣下の礼を取るのは当然でしょう。」
「あ、ああ、ちょっと言っている意味が解らない。」
「今は解らなくて大丈夫ですよ。」
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