第43話「信用を落とせ」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
続けざまにマイトランドはポンっと手を叩き、ライナー調略の作戦を説明した。
「いいか、ライナーの悪い噂を流せ。どんなことでもいい。こちらの意図を悟られないように、ヤツの信用を地の底に落とせ。これは延々と模擬戦前日まで続けるんだ。」
「はあ?なんで味方にするのに悪い噂を流すんだ?」
「順を追って説明する。まず、ライナーは前回の模擬戦で遊兵15騎をライアネン隊に突撃させて壊滅したよな。あれは指揮官としては最悪の結果だ。本人も自覚してるだろう。そこに悪い噂が重なれば、グレンダ軍の中での信用は更に落ちる。」
「まあ、そりゃそうだろうな。」
「信用が落ちれば、防衛戦で重要なポジションには付けられない。壁の上でも門の守備でもなく、予備か雑用に回される。すると戦功を上げる機会がなくなる。」
「それで不満が溜まると。」
「そうだ。だが、ただ不満を溜めるだけじゃ足りない。大事なのは、ライナーの周りからも人が離れるようにすることだ。噂のせいで誰もライナーに近づかなくなれば、ヤツは孤立する。孤立した人間は、手を差し伸べてくれる相手に弱い。」
マイトランドは指を一本立てた。
「不満がピークに達して、周りに味方がいなくなったところで、仲間に引き込む。負け戦に乗り続けるか、こっちに来て戦功1位の指名を受けるか。選ばせるまでもないだろう?」
「…………。」
ジェラルトはしばらく黙った。それから、心底感心したような、それでいてどこか背筋が寒くなるような顔で口を開いた。
「はああああ、良く考えてんなぁ。さすがマイト!相変わらず気持ち悪いぜ。そんなんじゃ、俺もどこかで操られてるって思っちまうぞ?」
「お前に限っては、操る必要がないだろ。作戦の内、1を伝えれば、10を理解してくれるからな。それにお前に関しては、操らなくても勝手に動いてくれるしな。」
「まあ確かに。言われてみれば……。でもよ、他はどうするんだ?」
ジェラルトが聞き返すと、マイトランドは少し考えて答えた。
「うん、新貴族3班のヨーゼフ・アルファイマーっていただろ。あいつがこっちに付くんじゃないかと思ってる。」
「なんでだ?」
「あいつさぁ、一回目の模擬戦の時は、何もしないで終わってるんだよな。前回はクリスト達と、戦いもせずに降伏していただろ?あの場面で、クリスト隊を足止めされていたら、もう少し戦闘は長引いたと思うんだよ。」
「つまり?」
「会ってみる必要があるってことだ。フレデリカ、ヨーゼフと会えるか?」
マイトランドは、話の途中で急にフレデリカに話を振ると、フレデリカはそれまで話に参加できていなかった為か、苦笑いで答えた。
「難しいだろう。彼は独特な空気を持っている男だ。私自身はおろかグレッテ卿ですらも喋ったことが無いだろう。」
その言葉を聞いたフリオニールが、少し困ったような顔をした。
「フレデリカ、いい加減フリオニールと呼んでくれないか。この場にいるのは皆仲間だろう?」
フレデリカは一瞬きょとんとした後、嬉しそうに頷いた。
「わかった。では……ふ、ふり……フリオニール、様……。」
「様はいらない。」
「だが、ロンベルト達もフリオニール様と呼んでいるだろう?」
「我々は家臣ですから。フレデリカ殿はアルドリック家のご令嬢だ。様を付ける道理がない。」
ロンベルトがあっさりと答えた。フレデリカは「なるほど」と納得すると、もう一度深く息を吸い込んだ。
「フリオニール。……フリオニールですらも喋ったことが無いだろう?」
「ああ、無い。だが、会う機会を作れるかどうかは別の話だ。」
マイトランドは顎に手を当てて考え込んだ。
「……なあ、ヨーゼフの事なんだが、あいつの行動が引っかかるんだ。」
「引っかかる?」
「第1回の模擬戦では一度も戦わず降伏扱い。第2回でもクリスト達と戦わずに降伏。魔導砲撃騎兵20名を持っていながら、2回続けて戦闘を放棄する指揮官がいるか?しかもどちらも、戦わないという判断が一番損をする場面でだ。」
「最初はライアネン達に砲撃してきた事だし……臆病なだけではないのか?」
フレデリカが首をかしげたが、マイトランドは首を横に振った。
「臆病なやつは、降伏する時にもっと慌てる。ヨーゼフは違った。あいつは最初から戦う気がなかったように見えた。まるで、戦わないこと自体が目的みたいにな。」
「何が言いたい、マイト?」
フリオニールが尋ねると、マイトランドは正直に答えた。
「わからない。だから会って確かめたい。だが俺が直接会いに行けば警戒される。だから自然な形で接触する必要がある。フレデリカ、次から休日は外出が出来るんだったな。ヨーゼフをデートにでも誘ってみてくれ。」
「あ、は、わ、私がか?」
「ああ、フレデリカ、気付いていないかもしれないが、お前はどこからどう見ても絶世の美女だ。お前が無理なら他の誰でも無理だろう。なあフリオニール、そう思わないか?」
マイトランドに話を振られたフリオニールは即答した。
「ああ、マイトの言は正しい。フレデリカ嬢は世間一般で言う美女だ。好みはあると思うが、アルファイマーもそう思うだろう。」
「なんだ、調略は悪くて、色仕掛けはいいのか。変な奴だな。」
ジェラルトが呆れたように言ったが、フリオニールは否定しなかった。マイトランドはその反応に複雑な顔をしながらも、話を進めた。
「私が……。美女……。マイト、それは本当か?」
「ああ、本当だ。お前は黙ってさえいれば、間違いなく美女だ。」
「そうかそうか。美女か。うんうん。話の後半は聞かなかったことにしよう。ならばアルファイマーの事、見事に連れ出してみよう!」
「ああ、頼む。ただし、無理に口を割らせようとはしなくていい。ヨーゼフがどういう人間なのか、それだけ見てきてくれ。後から俺も合流する。」
「後は、うじゃうじゃいる平民班を。どうするかだな。」
「何か策はあるのか?」
フリオニールが尋ねると、マイトランドは答えた。
「完全な遊兵にしてしまえばいいと思ってな。火薬は用意できるか?金がかかるが、落とし格子のフレームを吹き飛ばせるくらいの量があればいいな。通れればいいからな。酒樽一個分ってところか。できなければ、他の策を考える。」
「酒樽一個分か、できないこともない。」
「銃があればいいんだがな。軍機となっている以上、使えば班長達に止められる可能性がある。装薬である火薬であれば使っても問題にならないだろう。」
フリオニールは"銃"と言う言葉が平民であるマイトランドの口から出たことに驚きを隠せず尋ねた。
「マイト、銃を知っているのか?」
「ああ、フリオニールが銃を知るかなり前にな、俺とジェルは銃を見ている。」
「そうか、それで先日騎兵の時代が終わると……。」
「うん、そうだな。でもまだ騎兵の時代は終わらないぞ。銃歩兵のドクトリンや戦術が確立するまではな。丸い弾だ、重装歩兵や重装騎兵であれば、弾くこともできるだろ?まあ、その話はおいおいな。」
「ああ、わかった。後ほどゆっくりと聞かせてくれ。」
マイトランドは頷くと、フレデリカに向かって言った。
「とにかく次はヨーゼフ・アルファイマーだ。次の休日は頼んだぞ。」
「ああ、任せてくれ!見事期待に応えよう!」
フレデリカはそう言って無い胸を叩くと、服を選びに自室へ向かって走り出した。
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