第42話「手をお取りなさい」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
しばらくすると、ポエルに連行されライアネンがやってきた。
「軍師殿、こいつなんとかしろよ!無理矢理腕引っ張ってここまで連れてきやがったぞ。んで?何の用だ?俺達は今回敵のはずだぞ?」
「ああ、まあ、率直に話をさせてもらうが、俺達に寝返らないか?」
「俺達に寝返れだぁ?なんでまた?」
「ああ、攻略する方法を思いついたからだ。ライアネン達に敗軍にいて欲しくなくてな。どうだ?それに裏切るのはお前達だけじゃないぞ?」
ライアネンは少し考えると、口を開いた。
「見返りは?」
「ライアネン、お前、金は好きか?」
「好きも何も、嫌いなやつぁいないだろう?」
「では見返りはある。礼の金一封は全部やろう。前回の金一封は、先日の飯でもうないだろう?」
「おい、マジかよ。」
「ああ、ただし条件がある。前回、ライアネン隊に参加した班、全てを味方に付けろ。それとこれは他言無用だ。後はグレンダ軍の情報は逐一こちらに持ってくることくらいだな。いいな?」
「そんなの簡単だ。任せておけ。でもなんで俺達が情報を持ってこなきゃいけないんだ?他にもいるんだろ?裏切るやつがよお。」
ライアネンが話の矛盾に気付くと、マイトランドはすかさず答えた。
「誰が、どこに、どの情報を持っているかなんてわからないだろう?それに平民に全てを伝える貴族なんて、ここにいる変人どもだけだ。」
「ってこたぁ、あれか?貴族も裏切るのか?お前やっぱすげー奴だな、軍師殿。また軍師殿と呼ばせてもらうぜ。今回もよろしく頼む。」
「ああ、追って指示を出す。こちらこそよろしく頼む。」
マイトランドがそう言うと、ライアネンはスキップをしながら自室へ戻って行った。
「なんかすげえ喜んでたな。ライアネンってあんな気持ちの悪いヤツだったか?」
ジェラルトがマイトランドに尋ねると、マイトランドは笑って答えた。
「それだけこっちに、勝つ可能性を見い出せたってことだ。良い事だろ?まあ、地獄の沙汰も金次第って言うだろ?」
「ペテンじゃねぇか。ウソばっかり言いやがって。誰が他に裏切るんだよ!」
「これからどんどん増えるさ。まぁ、見てなって。」
今の所、ライアネン以外に離反する者がいないのだから、ジェラルトの言は正しかった。
しかし、フリオニールとフレデリカはライアネンとのやり取りを目の当たりにして、理屈では理解していたはずの「正攻法以外」の正体を突きつけられていた。頭で納得することと、目の前で仲間を金で買う光景を見ることは、全く別だった。
「離反をさせるとは卑怯極まりないではないか!私達貴族までそんな卑劣な作戦に巻き込むとは!」
「そうだ!グレッテ卿の言う通りだ!いかに負け戦であっても、卑怯者と後ろ指は差されたくはない!」
マイトランドは二人の言葉に頭を抱えると、大きく息を吸い込み、それを吐き出すように言った。
「おい、お前ら、いいか?貴族貴族と声を大にして言うなら、貴族だけで戦争をしてみろ。実際戦うのは、いっつも平民である俺達だろう?お前らの言う騎士道精神だか、貴族精神だか、なんだか知らんが、それを敵も守ってくれるのか?守ってくれないだろ?考えろ!どうやったら勝てるかを!任せるな!頼るな!俺達は戦争してるんだぞ!!」
マイトランドが叫び終わると、フレデリカは黙ってしまった。
フリオニールは思うところがあったのか、しばらく黙り込んだ後、絞り出すように言った。
「だが……。私は、それでも正々堂々と戦いたい。この様な戦い方で誰が私に付いてこようものか。後ろ指を差されてまで勝利にこだわるのは違うのではないだろうか。」
「そうか、それなら今回は負けよう。大将たるフリオニールがその調子じゃ、勝てる訳がない。俺は降りる。解散だ。帰ってくれ。」
マイトランドがそう言ってフリオニールに背を向けると、今まで黙っていたロンベルトが口を開いた。
「フリオニール様。子供の様な事を言ってはなりません。フリオニール様は、平民をお守りになるという志がありますね?その守るべき平民であるマイトが、フリオニール様の軍を勝たせるために、奔走しているのです。なぜその手を振り払う様な真似をなさるのですか。マイトの手をお取りなさい。彼はフリオニール様の大事な作戦参謀でしょう。それに調略は立派な計略です。お忘れになりませぬな。」
フリオニールはロンベルトに言い諭されると、少しの間、下を向き沈黙した。そして上を向き、マイトランドに正対し、深々と頭を下げた。
「私が間違っていた。ロンベルトの言う通りだ。マイト、また私に力を貸してはくれぬだろうか。」
マイトランドは振り返った。その口元には、既にニヤリと笑みが浮かんでいた。
ジェラルトは、その笑みを見た瞬間に全てを悟った。こいつは最初から怒ってなどいない。フリオニールに自分の口で「何でもする」と言わせるために、芝居を打ったのだ。
「ああ、いいぞ。その代り、勝つためには何でもするぞ?それと参加した全員に恩賞を出せよ?もちろん俺にはいらない。宗教上の理由でな。」
フリオニールは目に涙を浮かべながら、マイトランドの手を取ると、答えた。
「方便か?」
「宗教のところは方便だ。よし、作戦会議をするぞ。」
そう言うと、マイトランドはまた不敵な笑みを浮かべて言った。
「次の目標はライナー・クリシュマルドだ。こいつを調略する。」
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