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第40話「馬鹿を作れ」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

 模擬戦が終わって2週間が経つと、マイトランド達も通常の課業に戻っていた。


「なんか、罰則も飽きたぜ。もう疲れもしないぞ?マイトはどうだ?」


「棒で叩かれるのが無ければ、罰則がお遊び程度には楽しいな。回数こなすだけだもんな。」


「ああ、今日は班長休日でいないんだったな。今日は模擬戦の配分が決まる日だな、ちゃんと考えてるのか?」


「うん?今日の課業外だったか?」


「ああ、そうだぜ?」


 午後の課業を終え、模擬戦の配分発表がされたら、その日の課業外の話題は決まった、次の第3回の模擬戦、攻城戦についてだ。


 兵舎に戻る途中、フリオニールがロンベルト、アーシュライト、クリストを連れて合流してきた。前回の模擬戦以来、課業後にこうして集まるのは、もはや自然な流れになっていた。


「マイトランド、配分は見たか?」


 フリオニールが開口一番に尋ねた。その表情には、怒りでも焦りでもなく、静かな確認の色があった。


「ああ、見た。随分と愉快な配分だな。それと、フリオニール。」


「なんだ?」


「マイトでいい。俺の仲間はみんなそう呼ぶ。」


 何でもないことのように言ったマイトランドの一言に、フリオニールは一瞬目を見開いた。だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべると、頷いた。


「わかった。ではマイト、改めて聞こう。この配分をどう見る?」


 ロンベルトが腕を組みながら「マイトか、いいだろう」と呟き、アーシュライトとクリストも小さく頷いた。


 攻城戦は前回の模擬戦と同じように、二つの軍に分け、それぞれ防御側、攻撃側に分かれて準備を進める。


 軍分けは既に決まっており、前回と同じく、フリオニール軍とグレンダ軍に分かれて攻城戦を行う。


 内訳として、貴族班の配置はフリオニール班、フレデリカ班はフリオニール軍、またしてもグレンダ軍はそれ以外の貴族達で構成される。


 重要なのはここからであり、攻撃側は通常防御側の、3倍の兵力が必要とされる攻城戦だが、なぜか攻撃側であるはずのフリオニール軍に配置される平民班は、たった10個班であった。


 貴族班2個班と、マイトランド班を含む平民班44~53班の10個班。


 対するグレンダ軍は防御側だと言うのに貴族班が5個班と、平民班が残りの43個班全て。


 実質12対48、グレンダ軍を勝たせようとする力が働いたとしか思えないような配置であり、攻撃側、防御側双方にとって、全くもって理解不能であった。


 唯一攻撃側に救われる点があるとしたら、今回の模擬戦は評定が無く、勝利した軍が戦功上位10名もしくは10班を指名できるという事だ。更にこの上位10名か10班は次回の筆記、学科試験の免除が約束されるという点だ。


「マイト、どうすんだよ。」


 多勢に無勢、敗戦色濃厚と見るや、ジェラルトがマイトランドに尋ねた。


「ああ、少し考えたんだけど、なんか勝てそうじゃないか?」


 マイトランドは、ジェラルトの問いかけに笑いながら答えると、フリオニールの持ってきた地図を広げた。


 地図には、中央に砦が描かれていた。


 砦の南側には川が流れており、川幅はおよそ30メートル。深さは腰ほどで流れも穏やかだが、対岸の砦側には高さ2メートルほどの石垣が積まれている。川を渡ったところで、濡れた装備のまま石垣をよじ登る間に、頭上から矢と魔法の雨が降る。泳いで渡るという選択肢は、実質的に無かった。


 唯一の渡河手段は、川に架かる石橋だった。橋の幅はせいぜい7人が横に並べる程度で、橋を渡り切った先には鉄の落とし格子を備えた正門がある。門の両脇には見張り塔が建っており、塔の壁面には矢狭間がいくつも穿たれていた。


 破城鎚を通せる幅はある。だが、橋の上に兵が密集した瞬間、両脇の塔から一方的に撃たれる。正面から門を破ろうとすれば、相当な損害を覚悟しなければならなかった。


 遠投投石機やカタパルトで門を砕く手もあるが、この模擬戦で大型の攻城兵器が使えるとは考えにくい。上級魔法以上の威力も必要だが、フリオニール軍にそんな異能の持ち主はいなかった。


 南は正攻法だと厳しい。マイトランドはそう判断すると、すぐに次へ目を移した。


 砦の北側、西側、東側。三方はぐるりと街が取り囲んでいる。建物が密集し、通りは入り組んで狭い。騎兵が突撃できるような広い街路は一本もなく、歩兵が縦列で進むしかない細い路地ばかりだった。


「フリオニール、この砦の壁はどのくらいの高さがある?」


「8メートルほどだ。壁の上は歩哨が巡回できるだけの幅がある。四隅に塔があって、そこからは街の通りが全て見渡せる。」


 フリオニールが淡々と答えた。貴族は座学で築城術を学んでいるため、こういう知識は平民よりも遥かに詳しい。


「壁の上からの射撃は?」


「矢狭間と、壁の頂部に胸壁と狭間胸壁がある。防御側の射手は身を隠しながら撃てるが、攻撃側からは壁の上の兵がほとんど見えない。」


 マイトランドは地図の上に指を這わせながら、街側からの侵攻を頭の中で組み立てた。


 街路を進めば、砦の塔から丸見えになる。どの通りを選んでも、壁に近づく最後の50メートルは遮蔽物が無い開けた空間になっていた。仮にそこを突破して壁に取り付いたとしても、8メートルの壁を登るには攻城櫓か雲梯車が要る。だが細い街路では大型の攻城櫓は運べない。雲梯車なら通れるが、梯子を壁に掛けた瞬間、頭上から何でも落とされる。


「ロンベルト、この壁を力業で崩せるか?」


「無理だな。壁が厚い。仮に俺が全力でランスを叩き込んでも、穴は開かんだろう。」


 ロンベルトがあっさりと首を横に振った。ジェラルトが小さく舌打ちしたが、マイトランドはむしろ楽しそうに地図を見つめていた。


 南の橋は殺戮地帯。街側は丸見え。壁は高く厚い。正攻法の選択肢は一つずつ消えていく。


 だが、マイトランドにとっては、正攻法が潰れること自体が問題ではなかった。むしろ、潰れれば潰れるほど、敵が見落とす場所が浮かび上がる。問題は砦の堅さではない。砦を守る人間の方だ。


「訓練中に大体の配置がわかるよな?」


 マイトランドがそう言うと、ジェラルトは難しい顔で返答した。


「だからなんだよ。配置が分かったところで、勝てっこないぜ。無理だぜ、無理無理。いくらマイトでも、出来る事と、出来ない事があるぜ。」


「そうかな。ジェルとポエルがいれば大丈夫な気がするんだけどな。」


 腕を組み、首をかしげて答えるマイトランドに、ジェラルトは両手で机を叩きながら叫んだ。


「いや、お前、普通に考えてみろ。俺が敵だったら全軍で打って出るぜ。初めから勝ちは決まってるんだ。籠城してもしょうがないだろ。野戦だ野戦!」


「まあたしかに。でも野戦に反対する者がいたらどうだ?」


「そんなやついないだろ。馬鹿でもわかるぜ。籠城は愚策だってな!」


「馬鹿を作ればどうだ?」


「ああん?何言ってんだ?そんなことできんのか?」


「やれないことはないだろう。すまんが、ポエルにフレデリカを呼んで来いと伝えてくれ。」


「ああ、わかった。なんか面白くなりそうだぜ。」


 ジェラルトは、先ほどまでの剣幕はどこへやらと言った様子で、軽く返事をすると、ポエルにフレデリカを呼びに行かせた。

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