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第35話「道を作れ」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

 弓と魔法の攻撃も、最初はうまく退けられたものの、2回、3回と回数を重ねるうちに、ライアネン隊にも損害が出始めた。


「被害状況は?」


 アダムスが確認すると、大盾を上に構えたままライアネンは言う。


「ファランクス後方で矢を貰ったヤツがいるが、軽症だ。部隊全体には支障はない。」


「そうか、ならよかった。それにしてもすごい数の矢だな。」


「ああ、俺達は突出している分、敵の後方部隊がいる全方向から飛んでくるからな。飛んできた矢だけで商売が出来そうだぞ。司令官殿はなんて言ってるんだ?」


 アダムスは念話でイブラヒムに確認を取ると、ライアネンにマイトランドの命令を苦笑いで伝えた。


「て、敵ファランクスと接触まで前進だそうだ。それと、ジョディー隊とフラン隊、シュウ隊に射程に入り次第、敵後方部隊と敵ファランクス後列への一斉射を開始するよう命令が出ている。もう少し持ちこたえてくれ。」


「おう、早くしてくれよ。しっかしこりゃあ、"苦しい戦い"なんて生優しいもんじゃないぞ。お前の持ってる隊旗なんてもうボロボロじゃねぇか。」


 そう言いながらライアネンは矢を大盾で受けた。稀に敵部隊との距離を確認するため、覗いた時に生じる隙間から入ってくる矢が頬をかすめるも、しばらく前進を続けた。


 しばらくして、ライアネン隊の後方からジョディー隊の弓と魔法が敵陣に向けて放たれた。フラン隊、シュウ隊もそれに続く。


 狙いは敵のファランクス後列と、その後方に控える弓・魔法部隊であった。


 ライアネン隊への射撃が目に見えて鈍ったのはもちろんだが、それ以上に効果があったのは、敵ファランクスの後列が防御に回ったことであった。後列が盾を上に構え足を止めれば、前列を押す力が弱まる。前線で接敵している敵の前列はそのまま前進するが、後方が遅れ、敵の陣形は前後に間延びし始めた。


 ガン、ガン、ガン、ガン、


 という大盾と大盾がぶつかり合う音と共に、ライアネン隊最前列が敵と接触すると、最前列を守るため二列目と三列目の半数が最前列の補助に回り、三列目の残りと四列目がそれらをカバーするように上方の防御に徹した。


 接触前にはかろうじて正方形を維持していたファランクスが、接触した瞬間、一気に前後に圧縮され長方形へと崩れた。


「命令があるまで、押されるな。持ちこたえろ。」


 ファランクスとは密集陣形であり、過度の密集状態になった時の圧力は中心の者が圧死するほどであった。最前列の負担は計り知れない。


 ライアネン隊が接触した直後、イブラヒムを通じてマイトランドが最初の後退命令を出した。


「全隊後退!」


 ライアネンが大声で叫ぶと、アダムスが軍旗を回すように振った。


 ライアネンの号令で、まず五列目が上に向けていた大盾を敵の方向に向け構えなおした。それと同時に六列目が五列目の対空防御のためカバーに入り、そのまま後方4列が後退すると、前方の4列も併せてじわりじわりと後ろに下がった。


 目の前からいきなり敵が引くと、ぬかるんだ足元に足を取られ、敵の数名が転倒し始めた。


 ライアネン隊はそんな敵に目もくれずに敵との距離を広げると、敵は敵で転倒した者を踏みつけながら前進した。


 重装歩兵は基本的に鎧の重さから転ぶとなかなか起き上がれない。これは重装騎兵でも同様で、ここでは足元がぬかるんでいるため、その泥が付着し、余計に起き上がることができないのであった。


「前後列交代!」


 ライアネンが敵がもたつく隙を見て命令を出すと、前の4列と後の4列を入れ替えた。


 矢や魔法が飛び交う中での交代は非常に危険であったが、規律と統制のとれたライアネン隊は難なくやってのけた。


 敵との距離が一定まで来ると、アダムスがライアネンに伝えた。


「ライアネン、全軍前進だ!」


「全軍前進!」


 アダムスが軍旗を左右に振ると、敵も近くに寄っていたため、


 ガン、ガン、ガン、ガン


 という音と共に両軍は再び接触した。


 これを3回、4回と繰り返すうちに、グレンダ軍は河の中央にまで到達していた。


 戦列を維持するため横一直線に部隊を展開していたグレンダ軍は、前進速度が上がらないことにしびれを切らし、奇策に打って出た。


「ライナーの予備騎兵を中央突破に使いなさい。」


「は、かしこまりました。ですが15騎で敵のファランクスを正面から突破するのは困難かと。」


「わかっているわ。中央の歩兵を左右に開かせて、その隙間から突っ込ませるのよ。騎兵の突撃で敵の陣形を崩せればよし、仮に失敗しても、開けた穴からこちらの歩兵がなだれ込めば同じことよ。どちらに転んでも中央は崩れるわ。」


「なるほど、かしこまりました。」


 グレンダが命令すると、副官はライナー・クリシュマルド率いる予備騎兵15騎に突撃を指示し、中央歩兵部隊には騎兵通過のため隊列を左右に開くよう命じた。


 だがこの行動は、すぐにマイトランドの知るところとなった。


 戦線中央後方に移動を始める敵予備騎兵15騎を、水色の鳥で確認していたためであった。


「イブ、ライアネン隊に騎兵の突撃が来る。無理に抵抗せず、大盾で道を作り、後方へ受け流すよう伝えてくれ。突撃してくるタイミングは、接敵中の敵歩兵が離れて、矢が止んだ頃くらいだろう。」


「わかった。」


 イブラヒムはすぐさま念話でアダムスにそれを伝えると、マイトランドは続けた。


「エリオット、ジョディー隊に行って騎兵突撃が来ると伝えてくれ。」


「了解だ!」


 エリオットは先の模擬戦から馬術の異能のみが発現し、馬に乗れるようになったので、伝令役に抜擢されていた。


 エリオットがジョディー隊に到着すると、マイトランドの読み通り、ライアネン隊に接触していた敵歩兵が左右に開き始め、矢が止んだ。その隙間からライナー率いる騎兵15騎が突撃を敢行した。

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