第34話「私の兵だ」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
隊列、陣形を無視した強行軍で、先に戦場中央の河に到着していたのは、マイトランド指揮するフリオニール軍であった。
マイトランドは、各方面に飛ばした斥候からの接敵情報をまだ受けていなかったことから、全軍に休息の指示を出した。
その間に、まだ塞き止められていない河の全容と、主戦場と決めた場所を、フリオニールと各隊長を伴い見て回った。
マイトランドが選んだ戦場は、河を中心とした狭い地域で、狭いと言っても9個部隊は展開できるであろう地形であった。
南北へ伸びた河の、フリオニール軍布陣側南部には、背の高い草が腰のあたりまで生えており、その草叢をもう少し南へ行くと、そこはもう森林地帯であった。
その森林地帯は西へ湾曲した河に沿うように伸びている。マイトランドはアツネイサに指示を出し、アツネイサの部隊の長槍兵10名をその草叢の中に潜ませた。アーシュライト隊への増援を兼ねた伏兵であった。
続いて北部になるが、木々が鬱蒼と茂っており、伏兵を配置するにはもってこいの地形であった。だがマイトランドはあえて伏兵を配置しなかった。
戦場各地域の観察を終えると、全隊の隊長を集め、フリオニールが通達をした。
「今回の模擬戦も金一封が出るであろう。勝利の暁には平民班で分けると良い。だが金だけではない。この戦いで名を上げた者には、身分に関係なく、私が直接その名を覚える。この戦いは貴族の戦いではない。ここに立つ者全てが、私の兵だ。全軍に周知してくれ。」
フリオニールの言葉は、全軍を鼓舞するであろう大将らしい言葉であった。
戦場の確認を終え、各隊が陣形を整えると、ジェラルトが塞き止めに成功したようで、河の水位が下がっていくのがフリオニール軍の全員に確認できた。
水位がある程度下がると、マイトランドは全軍の先鋒であるライアネン隊を、戦域中央部、もとあった河のラインぎりぎりに配置し、他の部隊もそれに合わせて移動させた。
敵の到着まで全軍に再び休息とし、隊形を維持しつつ、食事や水を取らせた。
自身の異能と斥候からの報告で、おおよそ接敵する時間は掴んでいたものの、
「敵だ!敵が見えたぞ!」
戦場中央のライアネン隊から、敵斥候の騎兵を確認する報がもたらされると、少し早かったが、全軍を戦闘準備に移行させた。
グレンダ軍が到着したのは、そこからしばらくしてからであった。
砂埃を上げて、ゆっくりと行軍してくる様は、数の優勢を感じさせる堂々とした行軍であった。
マイトランドはロンベルト隊から敵陣を注視した。敵右翼の騎兵は予想通りだったが、自分たちの正面に展開しつつある敵左翼騎兵の数が、事前の見立てと合わなかった。
「……30じゃない。35はいる。」
マイトランドは小さく舌打ちした。水色の鳥でしっかり確認したつもりだったが、どこかで数え間違えたか、あるいは直前に編成を変えられたか。
50対30の圧倒的有利で一気に撃滅する算段だったが、50対35となれば話が変わる。それでも数的有利には変わりない。だが、撃滅に要する時間が延びる。その分、左翼のアーシュライト隊が耐えなければならない時間も延びるということだった。
「ロンベルト、敵の左翼は30じゃなく35だ。初撃で勢いを殺さなければ長引く。一撃目に全てを懸けろ。」
「35だろうが50だろうが、やることは変わらん。」
ロンベルトは歯を見せて笑った。
「あら、斥候の報告だと、ここに河があったんじゃなかったかしら。」
「はっ。どうやらグレッテ卿の指示で河を塞き止めて、決戦をしやすくしたのかと。」
「関を切られたら大変じゃない。どう考えてるの?」
「はっ、この河の水位では、関を切られても問題にはならないかと。ですが、一応こちらで抑えられるよう、小規模ですが部隊を出しております。こちらが関を抑えるのも時間の問題でしょう。したがって、長時間河の中央にとどまるのは危険です。歩兵、騎兵ともに数が有利ですので、早期決戦がよろしいかと。」
「そうね。では全軍に戦闘準備をさせなさい。さっさと終わらせるわよ。お風呂に入りたいのよ。前回みたいに、2日もここにいるなんて耐えられないわ。」
「はっ、全軍前進攻撃準備!」
グレンダ軍は全軍の攻撃準備が整ったところで、副官がグレンダに耳打ちした。
「グレンダ様、敵の陣容にリザードマンの姿が見えません。前回の模擬戦で目立っていたあの大きな個体です。どこかに潜んでいる可能性があります。」
「あら、そう。伏兵ってこと?あんな大きいのを隠すなら北側の森しかないわ。南側はたった10騎よ。あそこに隠す余地なんてないわ。戦場に出てきたところを叩けばいいだけよ。」
「はっ、仰る通りかと。」
「気にしすぎよ。それよりさっさと始めなさい。」
グレンダと副官は関を切られることを考慮して、早期決戦を決意すると全軍へ攻撃の準備をさせた。
マイトランドはイブラヒムを通じてアダムスに念話で、敵の前進攻撃に合わせてこちらもゆっくり前進するよう指示を出した。
そして自ら戦列正面に回り、ライアネン隊の正面に剣を突き出した。
マイトランドが剣を構えると、ライアネン隊最前列は各々の槍を盾の間から突き出し、穂先を揃えた。
全ての槍が出たところで、マイトランドは馬を駆り、ライアネン隊の左翼から順に槍の穂先へ剣を合わせていった。
カキン、カキン、カキン
と音を立てながら剣と穂先がぶつかり合う。最後に隊長のライアネンと槍を合わせると、
「では苦しい戦いになるが、頼んだぞ。ライアネン。」
「任せておけ。」
ライアネンが頭を下げると、マイトランドはロンベルト隊の位置する最右翼に戻って行った。
2人のこのやりとりは、まるで長年共に戦ってきた戦友の様であったと後にフレデリカは語っている。
「全軍前進せよ!」
というグレンダ副官の合図で、全軍が徐々に河であった場所へと前進を開始した。
足元がぬかるんでいるため、ゆっくりと前進していくと、それに合わせてマイトランドも全軍に前進の指示を出した。
アダムスが軍旗を左右に大きく振ると、ライアネン隊は河であった場所への進入を開始した。1番隊から6番隊も陣形を維持するためそれに続いて進入を開始した。
丁度、河の中央にライアネン隊がさしかかろうとしたところで、
「弓隊、魔法砲撃隊構え!」
グレンダ軍中央の弓部隊は、グレンダの副官の指示で矢を斜め上方に向け引き絞り、魔法砲撃隊が詠唱を開始した。続いて、
「放て!事後は歩兵が接触するまで各個に攻撃を開始せよ。いいか味方に当てるなよ!」
そうグレンダの副官が指示を出すと、すぐに第一射目の魔法と矢がライアネン隊に飛来した。
「弓が来るぞ!盾を構えろ!上方防御!」
ライアネン隊は三列目以降が盾を上に向けて構えた。待ってましたとばかりにジョディー隊が魔法障壁を展開する。魔法障壁は敵の魔法砲撃を弾いたが、物理の矢は障壁をすり抜けて音を立てながら降り注いだ。しかしそれも、ライアネン隊の盾が難なく退けた。
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