第33話「教科書通り」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
戦場は小高い丘が2つあり、その2つに両軍が布陣した。東側にフリオニール軍が、西側にはグレンダ軍がそれぞれ展開した。
丘と丘の間は、ところどころ森林地帯があるが、ほぼ平原であった。
特筆すべき点があるとしたら、平原中央を流れる河であろう。その河は北から南に流れており、平原中心部の南側で西に向かって湾曲していた。広く、浅く、流れの緩やかなその河は、渡河訓練にはもってこいと言ってよかった。
攻防戦ではない為、両軍が進軍し接敵する仕様の模擬戦であり、陣地構築の必要はなかった。
開戦の銅鑼を待つ間、マイトランドはジェラルトとポエルへ、戦場北側での任務の指示を出した。
敵斥候にわざと見つかるように移動し、敵の妨害を退けながら河を上流で塞き止めること。
それに伴い、斥候の2人に1人は、可能な限り脱落させること。
ある程度下流の水位が下がったら、河の関を切らずに敵に守らせ、決戦中の本隊方向へ移動し、無理のない程度に敵の側面をつくこと。
それらの指示が終わると、アダムスと各隊に、フォルカンが夜鍋して作成した隊旗を配った。
アダムスが持つ旗は、大きな真っ赤な生地にフリオニールの家、グレッテ家の家紋が刺繍されていた。その他の者が持つ旗は、白地に各隊の隊名、番号が書いてあるだけの簡素なものであった。
各隊の旗手に旗を配り終えると、マイトランドは全部隊の中央に立ち、大声で叫んだ。
「各隊に厳命する。隊旗を絶対に地面につけることの無いように。隊旗は隊の現在位置を示す。旗手が倒れそうになった場合には、近くの者がそれを支え、隊旗を維持せよ。旗が倒れた場合には、その隊は壊滅したものとみなす。」
マイトランドは隊旗の重要性を各隊に伝えると、それとは別に、白地に金色でグレッテ家の刺繍が編み込まれた大将旗を、フリオニールの馬に括り付けた。
「フリオニール、すまない、旗手を出してやる余裕はない。馬に付けておくから大将旗を落とされないようにしてくれ。最悪の場合、自分で持ってくれ。その旗の存在は全軍の士気に関わるからな。頼んだぞ。」
「ああ、わかった。旗手がいないことなど、私は気にしていない。勝利の為にはなんでもしよう。ではマイトランド、全軍の指揮を任せる。頼んだぞ。」
フリオニールは指揮権をマイトランドに委譲すると、ジョディー隊に合流した。
しばらくして、
ドーン、ドーン、ドーン。
開戦の銅鑼が戦場に響き渡った。
マイトランドは騎乗して全軍の先頭に立ち、右手を挙げ、戦場西側方向に向け振り下ろすと、号令を発した。
「全軍前進!接敵、もしくは、戦場中央の河が見えるまでは陣形を気にするな!」
アダムスがマイトランドの号令に併せて旗を左右に大きく振ると、それに合わせてフリオニール軍の全軍が前進を開始した。
マイトランドは前進を確認すると、最右翼のロンベルト隊に合流し、フレデリカ、クレア、ジェイク、アルベルトに指示を飛ばした。
「フレデリカ、クレア、ジェイク、アルベルト、斥候に出てくれ。方角、距離は、事前の打ち合わせの通りだ。敵斥候、敵小部隊を発見しても、出来るだけ交戦を避けてくれ。俺も水色の鳥で敵本隊は随時追う。頼んだぞ。」
4名は頷くと、それぞれ打ち合わせにあった方位へと、速歩で移動を開始した。
一方のグレンダ軍は、大将グレンダを後方に配置し、正面に歩兵ファランクスを7列、その後方に弓兵・魔法兵を展開した。
右翼にはグレンダ直属の騎兵とベルナー隊を合わせた35騎、左翼にはゲシュハルト隊を中心に編成された騎兵隊、そして遊兵としてクリシュマルド隊15騎を配置した。
マイトランド達の小部隊襲撃を警戒し、各方位に斥候を出す。まさに教科書通りの陣容であった。
グレンダは戦力の優位があるためか、
「全軍、陣形を維持しながら、ゆっくりと前進せよ。」
そう命じると、部隊を分散させずに一直線に戦場中央を目指した。
副官から、戦場中央の河の上流方向への斥候を強化するよう進言があったため、グレンダは進言通りに斥候を2部隊ほど間隔を短くして送ると、接敵の報を待った。
フリオニール軍、グレンダ軍の思惑が錯綜する中、両軍が相まみえるのは、両軍の前進からしばらくして、太陽が真上を通り過ぎた正午を回っての事であった。
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