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第32話「50と10」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

 訓練所から戻り、再度陣容を考えながらマイトランドはジェラルトに尋ねた。


「次は騎兵だな。ジェル、騎兵は右翼を50名左翼を10名で編成したいが、左翼防衛を任せることのできる者はいるか?」


 通常、騎兵はフランキングといって、弧を描きながら歩兵を挟み込み攻撃する手法を取ることが多い。突撃を繰り返せば損害が嵩むからである。フランキングは側面攻撃であり、側面の防御力が薄い歩兵部隊には有効であった。


 したがって、騎兵の前面には同程度の騎兵を配置するのがセオリーであった。


「それ、変な配置だな。訓練通りなら相手は右翼35、左翼30だぜ、35対10じゃあ、左翼は一回の突撃で突破されるぞ?」


「そう思うだろ、ちゃんと考えてあるから大丈夫だ。で、どうだ?」


「ああ、防御を考えるとなると、アーシュライト辺りがいいんじゃないか?俺でもいいぜ。」


 フリオニールの班でロンベルトが攻撃であれば、アーシュライトは防御を得意とする。アーシュライトは目立たないものの堅実な部隊運用で、前回の模擬戦では撃破数22を記録しながら、マイトランド達と戦闘になるまで負傷者を出さなかった。それは彼の堅実な用兵技術があってこそであろう。


「お前はダメだ。別にやってもらうことがある。アーシュライトは、歩兵戦は得意か?」


「得意かどうかはわからねえけど、あいつ結構やるぜ。指揮もうまいしな。それにフリオニール様フリオニール様って言ってるんだ。フリオニールの為なら、アイツ死ぬ気で守るぜ。」


「そうか、左翼はアーシュライトに頼むとするか。」


 マイトランドがアーシュライトの元へ行くと、アーシュライトは二つ返事で了承した。


 模擬戦前日になると、マイトランドは各隊の隊長を呼び集め、最終確認と作戦指示を実施した。


 まずマイトランドは地図を広げ、全軍の作戦方針を説明した。


「敵の騎兵配置は右翼35、左翼30、遊兵1隊だ。こちらの騎兵は60。正面からぶつければ数で負ける。だから騎兵を二つに分ける。」


 マイトランドは地図上の左翼を指した。


「まず左翼。アーシュライト隊10名は、川べりの泥濘地に布陣する。干上がったぬかるみの上なら馬の機動力は大幅に落ちる。ここで馬を降りて歩兵として戦う。馬は鎖で繋いで防壁とし、長槍を泥の中に潜ませておけ。敵騎兵が突っ込んできた瞬間、先頭集団を長槍で叩く。初撃で敵の勢いを止めたら、あとは深追いするな。引きつけて、そこから動かさなければいい。援軍は必ず行く。」


 次にマイトランドは地図上の右翼を指した。


「右翼。ロンベルト隊50名は、敵左翼30に対して数的有利がある。これを一気に突撃し、撃滅する。敵左翼を潰した後は、その半数をもってアーシュライト隊の救援に向かい、背後から敵右翼騎兵を急襲、これを撃滅する。」


 マイトランドはアーシュライトに目をやった。


「アーシュライト、左翼10名は泥の中で重い鎧を着て戦える体力と、馬を降りても怯まない胆力のある奴を選んでくれ。騎馬戦だけでなく、白兵戦にも長けた者だ。人選は任せる。」


「承知しました。心当たりがあります。」


 アーシュライトは短く答えると、メモを取り始めた。


 続いてマイトランドは、歩兵の配置を説明した。


 全軍の中央に位置するのが、突出したライアネン隊64名。


 その左側後方に左翼1番隊64名、さらにその左側後方に左翼2番隊56名、そのまた左側後方に左翼3番隊56名。


 ライアネン隊の右側後方に右翼4番隊64名、さらにその右側後方に右翼5番隊56名、そのまた右側後方に右翼6番隊56名。


 計416名でファランクスを構成した。


 ライアネン隊の後方には、ジョディーとクリスが指揮する弓、魔法、長槍の混成隊、ジョディー隊40名を配置した。


 2番隊の後方にフラン指揮の混成隊30名、フラン隊を、5番隊の後方にシュウ指揮の混成隊30名、シュウ隊を配置し、後方支援と障壁などの魔法防御を担当させた。


 フラン隊の隣、3番隊の後方にはアツネイサ指揮の長槍・魔法のみの混成隊34名、アツネイサ隊を配置し、最左翼の騎兵支援と魔法支援を担当させた。


 戦線最右翼にはマイトランドも加わったロンベルト隊重装騎兵50名、最左翼にはアーシュライト隊10名が就いた。


 マイトランド班は21名おり、アダムスがライアネンの幕僚として参加していた。隊長として班を離れているアツネイサ、フラン、シュウ、クリス、ジョディーの6名分の穴が生じていた。これは馬術の異能がある者をライアネン隊以外から7名抜擢し、補充することで埋めた。


 なお、ジェラルトとポエルは別行動となるため、20名でのロンベルト隊参加であった。


 マイトランドは地図上のライアネン隊を指で押さえ、全体の動きを説明した。


「中央のライアネン隊は逆V字で突出している。開戦と同時に前進し、敵ファランクスと接触する。敵が中央突破を狙って兵力を集中させてくれば、ライアネン隊は前と左右から攻撃を受ける。だが、そこで踏ん張る必要はない。ゆっくりと後退し、敵を引きつけろ。」


 マイトランドの指が、地図上で左右両翼をなぞった。


「ライアネン隊が下がれば、両翼はそのまま前に残る。敵が深追いすればするほど、全軍の形は弓なりになり、敵を半包囲する形になる。左右から圧迫し、逃げ場を狭めていく。これが歩兵の仕事だ。」


 マイトランドの指が、今度は右翼の騎兵から弧を描くように敵の背後へ回った。


「同時に、右翼ロンベルト隊は敵左翼騎兵を撃滅した後、その半数をもって敵歩兵部隊の後方から突撃を敢行する。残りの半数はアーシュライト隊の救援に向かい、敵右翼騎兵を撃滅。合流ののち、敵の右翼後背から突撃し、敵主力歩兵部隊を一挙に殲滅する。これが今回の作戦の骨子だ。」


「ライアネン、隊旗をアダムスに持たせる。その指示に従ってくれ。事前に説明はしておくが、特に敵は中央突破を狙って来るので、敵ファランクスとの距離が開けば、遊兵である敵騎兵1隊が狙って来るだろう。その際は無理に突撃を受けず、先日伝えた通り、隊を二分して盾で道を作り、後方へ騎兵に突破させると良い。ジョディー隊で突破した騎兵を殲滅する。」


 マイトランドがそう言うと、ライアネンは敬礼した。


「はい、わかりました!」


 ライアネンは敬礼から直ると、直立不動の姿勢に戻り、作戦指示に耳を傾けた。


「フリオニールは、ジョディー隊に加わってくれ。フリオニールは全軍の総大将だ、くれぐれも軽率な行動はしないように。」


「了解だ。マイトランドの話を聞いている限り、最後まで何もせずに終わりそうだがな。」


「では明日、皆の奮戦を期待する。解散。」


 マイトランドの言葉で皆は解散した。


 翌日。全ての班が模擬戦場に到着し、査閲官の訓示を終え、2軍に分かれると、各軍は戦闘開始の合図を待った。

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