第31話「全軍の先鋒」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
「マイトランド、本当にこの陣形で臨むのか?営倉でおかしくなったんじゃないのか?」
重営倉から戻ったマイトランドが提案した作戦と陣形に、フリオニールが驚きを隠せず尋ねた。
「ああ、変更はない。安心しろ。この作戦は、営倉入り以前に考えていたものだ。」
「だが、この様な陣形は見たことが無い。なぜ戦列中央部分を突出させるのだ?これでは左右の敵ファランクスからの的ではないか。」
フリオニールが疑問に思うのも無理はなかった。マイトランドが示した部隊配置は異様な物であった。歩兵部隊の戦列中央を過度に突出させ、その両翼の部隊もそれに合わせて上がる、逆V字の様な陣形であった。
フリオニールがもたらした情報によれば、敵の訓練はファランクスを横一列に配置し、その後ろに弓兵、魔導砲撃騎兵などを配置、両翼は騎兵が固めており、1個騎兵隊は遊兵となり、いつどこへでも突撃ができる様な陣容であったと言う。
「大丈夫だ、こちらの中央部隊の左右も中央部隊の突出に合わせ上がっている。左右のファランクスは攻撃すると部隊の側面をこちらの部隊に晒すことになるだろう。そんな危険を冒して中央部分に拘るか?通常であれば全軍で戦列を保ち前進してくるはずだ。ジェル、お前の見立てで、この危険な中央部分を任せられる部隊はいるか?」
「うーん、そうだな。今ヘクターが見ている、ライアネン兄弟が指揮する部隊がいいと思うぜ。なんせ動きがいい。前回の模擬戦で貴族連中にやられたってのも疑わしいくらいだぜ。金で解決したと思わせるくらいにな。」
そう言ってジェラルトは、フリオニールにちらりと目をやった。
「わ、私はその様な事はしない!金で買収などするものか。全ての戦いにおいて、正々堂々と正面決戦を挑んださ。」
少し動揺するも怒りながらフリオニールが反応すると、ジェラルトが笑いながら答えた。
「いや、そうじゃねえ。それに関しちゃ全く疑ってないぜ。またグレッテ家の家名どうのこうの言われたら、話が長くなって面倒だしな。ライアネン兄弟の部隊を中央部隊に配置するっていう同意を求めただけだぜ。」
「そうか、よかった。仲間に疑われているでは、グレッテ家の名折れとなろう。中央部隊か・・・。ライアネン兄弟は分らんが、たしかに動きの良いファランクスはあったな。」
フリオニールはそれだけ言うと、ホッと胸をなでおろした。
マイトランドは、ジェラルトとフリオニールの会話に、冗談が言い合える仲にまで信頼関係が構築できていることを確信し、2人に笑顔で言った。
「じゃあ、2人の言う、ライアネン兄弟の部隊を見に行くか。」
訓練場に到着すると、マイトランドはジェラルト、フリオニールを伴いライアネン兄弟の部隊が行っている訓練を観察した。
兄弟のどちらかが指示を出しているのだろうか、後退、前進の指示で64名が正規軍ほどではないが、規律正しく迅速に行動する様は、他の部隊行動を遥かに凌駕していた。特に最前列と、最右列は一糸乱れぬ行動で、明らかに平民とは思えない行動であった。
マイトランドはその様を見るなり部隊の前に進み出ると、
「指揮官は誰か?指揮をしている者は前に出てほしい。」
そう言って、指揮官の登場を待った。
「俺だ!」
マイトランドの言葉に訓練を中断し、勢いよく飛び出てきたのは、ヘクターと並ぶ長身で、筋骨隆々、頭はスキンヘッドという、とてもマイトランドと同世代とは思えない男であった。
「俺はマイトランド・ラッセルだ。名前は?」
「ソルド・ライアネンだ。お前がマイトランドか。で、何の用だ?」
「ああ、そうだ。2、3質問したいんだが、先ず、お前の部隊は何故そんなに動きが良い?その動きが最初からできたら、先日の模擬戦でも貴族の部隊の一つや二つ攻略できたろう。何か理由でもあるのか?」
「なんだ。そんなことか。俺の家は木挽き職だった。戦士でもなんでもねえ。弟もそうだ。俺達木挽き職は、そのほとんどが領主様の為に木挽きをしている訳だ。それが貴族に勝てるとか思わないだろ?」
「領主の為に仕事をしていることが、模擬戦で貴族班に勝つこととは、何の関係もないと思うのだが?」
マイトランドがそう聞き返すと、ライアネンは腕を組み答えた。
「いや、そうじゃねえ。そうじゃねぇんだ。覚悟とか根性の話だ。今まで貴族様に従ってたのに、それが勝てるとは思わないだろ?だから仲間がけがをしない程度に、適当に負けただけだ。それが終わってみたらどうだ?平民班のお前達が、実質優勝したじゃねえか。だから俺達も貴族連中を倒せるんじゃないかと思ってな、皆で相談したわけだ。」
「相談しただけで動きが良くなったら、どこの国のどの軍も最強だ。相談以外にも理由があるだろう?」
「そうだな、木挽き職ってのはな、高いところにも上る。2人でだ。連携が大事になってくるわけよ。だから仲間の事も考えられるってもんよ。それにな、ランズベルクってのが来てな、最前列は盾を膝の高さまで下げて槍を構えろ、2列目は盾を胸の高さで構えて隙間から槍を出せ、後退する時は最後列から一列ずつ下がれ、絶対に背中を見せるな、ってな。あいつ平民のくせにやたら詳しいんだよ。」
「そうか、理由になっているとは思えないが、では、全軍の先鋒を任せて良いか?」
「俺達がか?いいのか?」
「ああ、全軍の先鋒だ、状況によってかなりの被害が出るぞ。大丈夫か?」
「名誉なことだ。それぐらい皆覚悟している。大船に乗ったつもりでいろよ。」
マイトランドはフリオニールの耳元で囁いた。
「ここはお前が言え。平民に名を与えられるのは、総大将のお前だけだ。」
フリオニールは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに理解すると、一歩前に出た。
「ライアネン隊、全軍の先鋒を任せる。頼んだぞ、ライアネン隊長。」
総大将であるフリオニール自らが、平民の部隊に名を与え、その指揮官を隊長と呼んだ。それがどれほどの意味を持つか、ライアネンの部隊の者達にも伝わったのだろう。隊列がわずかに揺れた。
「俺の班からアダムスを幕僚に付ける。前進後退の指示、タイミングはアダムスから出るようにする。頼むぞ。」
マイトランドが続けると、ライアネンは頭を下げた。
「は、わかりました。」
ただそれだけ言うと、隊列に戻り、中断していた訓練を再開した。
ライアネンが頭を下げ、隊列に戻り訓練を再開した後、フリオニールは小さく息を吐いた。平民が自分の言葉に応え、誇りを持って戦おうとしている。自分が与えた名に、これほどの重みがあるとは思わなかった。
この光景を後ろから見ていたジェラルトが、小さく呟いた。
「・・・いい貴族じゃねえか。」
その言葉はフリオニールの耳には届かなかった。
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