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第29話「最高の作戦立案所」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

「これは・・・。マイトランド、私から軍上層部に掛け合おう。不正でないことは私が証明する。」


 どこから来たのか、フリオニールが掲示板を見てそう言うと、マイトランドは笑いながら答えた。


「いや、何もしなくていい。事を荒立てる気はないし、貴族に力を借りて貴族に勝つのでは本末転倒だろ?まぁこれ位は最初から織り込み済みだ。知り合いが言ってたよ、貴族連中に勝つのは並大抵の事ではできないってな。皆の努力が結果として反映しないのは残念だが、別に努力が無駄になった訳じゃない。今回学んだ事は、皆の身についているだろう?それなら厳罰ってヤツも甘んじて受け入れるさ。」


「マイトランドがそう決めたのなら、私がとやかく言うことではないな。だが一つだけ聞かせてくれ。これから模擬戦の準備がある。君なしでどうするんだ?」


「ああ、それなら大丈夫だ。俺だけでよかったよ。」


 そう言ってマイトランドはフリオニールに今後の予定を伝えた。


 部隊の行軍速度を上げる訓練をすること、重装歩兵用の大盾を400枚揃える事、平民班400名にそれを装備させ、ファランクスを構成する事、そのファランクスに攻撃ではなく、機動力を上げ前進後退などの前後運動と、隊列の開閉が容易に出来る様、訓練を実施させる事。旗信号による部隊運動の訓練をさせる事、旗の振り方と、それに対応する前進、後退、隊列の開閉の動作を全員に覚えさせる事。


 400名に余ってしまった残りは長槍か、異能のある者は弓を用意し装備させ訓練をさせる事、マイトランド班には馬を用意する事、それに伴い各員の拍車も用意する事。騎兵60名には馬に鎖とその先に杭を付けすぐに歩兵戦に移行できる様に訓練する事など、模擬戦前の準備事項を伝えた。


 フリオニールにそれら一通りの準備を頼むと、処罰を受けに自ら班長室へ出頭した。


 班長室に着くと、あのドワイト班長が待っており、班長は他の部屋にまで響くような大声でマイトランドを罵った。


「貴様ぁ、やってくれたな。俺の顔に泥を塗りやがって。この不正野郎が!」


 ドワイト班長の怒声に、マイトランドは思わず身を竦めた。覚悟はしていたが、想像以上の迫力だった。


「営倉行きですか?」


 営倉とはいわゆる軍隊の懲罰房のことである。軍規によれば通常1日から14日間営倉に入ることになる。マイトランドは最長を考慮してフリオニールに準備を頼んだのだろう。


 マイトランドがそう言うと、班長はマイトランドの襟を掴み、マイトランドが抵抗しないのを見ると、そのまま地面へ叩きつけた。ドスンと言う音が響き渡ると、


「おお、良く知ってるな。地獄を味わって来るといい。」


 そう大声で叫ぶと、マイトランドの耳元で囁いた。


「あとでコリンズをやる。巡回は朝2回と昼1回、夜2回の計5回。営倉は1階だ。3日間我慢しろ。すぐに出してやる。」


 マイトランドが驚いて、班長に目を向けると、班長はまた怒鳴り声を上げた。


「貴様ぁ!なんだその目は。貴様のやったことがわからんのか!」


 班長は終始怒鳴り声を上げると、そのままマイトランドを数発殴打し、引きずりながらマイトランドを連れて行き、営倉へと放り投げた。


「死ぬまでそこで反省しておけ!この最底辺の蛆虫野郎が!」


 そう酷く罵るとマイトランドの前から去って行った。


 マイトランドは腫らした顔をさすりながら呟いた。


「班長のさっきの言葉はなんだったんだ。もしかして・・・。」


 そこまで言うと考えるのをやめた。


 今は他に考えることが沢山あるからだ。


 営倉は大人一人が横になれる程度の広さしかなかった。壁は冷たい石造りで、天井は立ち上がると頭がつきそうなほど低い。木でできた小さな格子が一つだけあり、そこからわずかに光が入ってきた。床には藁が申し訳程度に敷かれていたが、湿って黒ずんでおり、前にここに入れられた者の痕跡が残っていた。部屋の隅には穴を掘っただけの便所があり、臭いの原因はすぐに判明した。水は壁に据え付けられた小さな桶に溜まっているだけで、いつ汲まれたものかもわからなかった。


 虫が這う音が、やけに大きく聞こえた。


 だがマイトランドは何故か清々しい気分であった。その理由は、日中は何もしなくて良く、営倉は他人に邪魔されない最高の作戦立案所であったからだ。だが、飯がないというのは困りものだった。脳に栄養が行かなければ正常な思考でなくなるためだ。


「正常な脳のウチに考えられることは考えるとするか。」


 マイトランドは巡回を気にしながら、作戦を練ることにした。


 巡回の足音の回数からして、昼の巡回がマイトランドの様子を見に来た後で、


「おい、おい」


 とかすれた様な小さな声がするのに気付いた。


「おい、こっちだ。」


 マイトランドは声がする格子に近寄ると、この声の主は言った。


「私だ、コリンズだ。ドワイト班長に言われて来たんだが・・・。」


 顔は確認できなかったが、コリンズはマイトランドに続けた。


「用意してほしい物はあるか?」


 マイトランドは少し考えて、コリンズに返答した。


「はい、物って訳じゃないんですが、ジェラルトに異能を使って夜ここに来るように言ってください。」


「ジェラルト?ああ、ランズベルク2等兵か。わかった。」


 隠密ならポエルの方が適任だが、残った班員達やフリオニール、フレデリカとの調整をつけられるのはジェラルトだけだった。


「夜の巡回は2回と聞いています。巡回の時間もできれば教えてあげて下さい。」


「わかった。食事はどうする?腹は減ってないか?」


「食事はいりません。水がありますから。営倉から出て食事をとっているとわかれば怪しまれます。」


「あくまでも懲罰を受け入れるのか、わかった。あまり無理はするなよ。ではな。」


 そう言うとコリンズの声は足音と共に遠ざかっていった。

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