第27話「すぐ上の奴」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
学科試験前日。
その日の課業を終え、フレデリカ達の試験前最後の授業が始まった。
「皆よく頑張った。明日は頑張って欲しい。」
授業が終わりフレデリカがそう伝えると、マイトランドが自身の作った問題で、模擬試験を開始しようとした時だった。
「ねえ、ランズベルク2等兵。明日の試験、私と勝負しない?」
クレアが腕を組みながらジェラルトに声をかけた。
「ランズベルク2等兵って気持ちわりぃな。ジェラルトでいいぜ。で、勝負?負けた方はどうする?」
「負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く。それにこの間の立ち合いも無効よ!どう?」
「おもしれえ。乗った。」
ジェラルトが即答すると、クレアは不敵に笑った。
「後悔しても知らないから。」
「それはこっちのセリフだ。」
マイトランドは二人のやり取りを横目で確認すると、口元を緩めながら模擬試験の開始を告げた。
「明日はいよいよ、学科試験だ。試験当日だと思って、皆解答欄を出来るだけ埋める様に。では模擬試験はじめ!」
マイトランドの合図で全員が問題を読み、答案を書き込んだ。
予定よりも早く全員の手が止まったので、そこでマイトランドは終了の合図を出し、各員の答案の採点に入った。
「よし、最初の学科試験にしては上出来だ。俺の予想以上だな。ではジェル以外の上位3名のみ結果を発表する。」
ジェラルトは最初からマイトランドと一緒に学んだ知識があり、25/25で満点だったため、列外とし、その他の者の上位3名を発表した。結果は11/25でルークが1位、9/25でクリスが2位、8/25でヘクターという順番であった。
マイトランドが模擬試験を25問にしたのには理由があった。一つは、過去の出題を網羅するには15問では足りず、25問程度が必要だったこと。もう一つは、制限時間内に25問を解く訓練をしておけば、本番の15問が楽に感じられるからであった。
「おい、俺はどうだったんだよ。結構できたと思うぜ?」
「ジェイクは5/25だな。」
マイトランドが答えると、ジョディーが笑いながらジェイクをからかった。
「なんだいあんた、あたいの自己採点と一緒じゃないか。最初から読み書きできた割にだらしないねぇ。」
「うるせえ!」
ジェイクは悔しそうにすると、マイトランドに尋ねた。
「順位なんて何の意味があるんだ?晒しもんじゃねえか。」
マイトランドはジェイクの問いに全員に聞こえる様に答えた。
「順位ってのは大事なんだ。遥か上の奴には勝てる気がしないだろう。だが、すぐ上にいる奴になら勝てそうだと思わないか?そいつに勝とうと思えば努力する。その繰り返しが、気付いた時には大きな差になる。だからあえて順位をつけてるんだ。」
マイトランドは班員達の顔を一人ずつ見渡すと、続けた。
「明日の試験は、俺達全員で貴族用の上級学科試験を受ける。受験費用は全員分支払い済みだ、心配するな。上級学科試験の結果は、貴族も平民も関係なく全員の順位が張り出される。つまり、貴族に勝てば名前が貴族より上に載るということだ。全員が全員に勝てるとは言わない。だが、一人でも多く貴族を抜け。お互いがライバルだと思って臨んでくれ。それと、解散したら今日の模擬試験をもう一度解いておけ。25問解ける奴に15問は楽勝だ。では奮闘を期待する。解散!」
マイトランドの言葉に、班員達は湧きたったが、ヘクターだけは浮かない顔で、
「なあ、マイトランド、受験費用一人銀貨1枚のはずじゃなかった?僕達そんなお金持ってないよ。払ってあるって言ったけど、誰が払ったんだい?」
マイトランドはヘクターの問いにジェラルトに目をやった。正直に言うか、それとも隠すか。ジェラルトはゆっくりと顔を横に振った。お前が言いたいことはわかっている、だが言うなと、その目が語っていた。
「ああ、それならフレデリカ達が生徒の成長を見たいからと払ってくれたんだ。あいつら金があるだろ?期待に応えないとな。」
実際の所はマイトランドが払ったのだが、それを明かすつもりはなかった。恩を感じた者は、恩を返そうとする。だがそれは戦場では判断を鈍らせる。マイトランドが欲しいのは感謝ではなく、結果だった。恩を返す為ではなく、自分自身の為に貴族を超えてやると思って試験に臨んでほしかった。全員が自分の為に、自分の力で生き残ろうとする。それが一番強い部隊だとマイトランドは考えていた。
ヘクターはフレデリカに直接教えてもらった経緯もあり、
「フレデリカさんに後でお礼を言っておかなきゃね。」
そう言うとその場を去った。
「ありゃ惚れたな。」
「ヘクターか?」
「ああ、美人だろフレデリカ。」
「まあな、美人だ。ジェルも惚れてるのか?」
「まさか、俺はジョディー一筋だぜ。」
「うそだろ?」
「うそだ。さすがにアレは無理だ。」
「じゃあ誰だよ。お前好みのタイプは。」
「そうだなぁ、クレアなんかいいよな。あの負けず嫌いな感じがたまらねえ。」
「クレア?フレデリカの護衛の?あいつまだフルプレートに着られてるだろ。」
「うるせえな。成長期だっつの。お前はどうなんだよ。」
「俺?俺は今のところ戦争のことで頭がいっぱいだ。」
「つまんねえ奴だな。まあいいや、明日の試験、頼むぜ軍師殿。」
「ああ、任せろ。」
二人は消灯時間まで笑い、他愛ない話を時間と共に終えると、眠りについた。
学科試験当日。
午前中の課業を終了すると、マイトランド達はヘクターの引率のもと、試験会場に移動した。
移動を終えると、不正防止の為か、班員は一人ずつバラバラに分けられ、他の班の者と混ざった10名程の部屋にそれぞれ振り分けられた。
羊皮紙で作られた試験問題を全員が受け取った。平民班の試験は口頭で行われると聞いていたが、貴族用の上級試験は一人一枚の羊皮紙が配られる。銀貨1枚の受験費用は、この羊皮紙の代金なのだろう。
「はじめ!」
試験官の開始の合図で試験が開始された。
問題は極めて簡単な問題であり、マイトランドの作成した模擬試験問題からも、7問は同じ問題が出題された。
マイトランドは、試験会場から聞こえてくる、他の者達の筆の音から全員の手ごたえを感じると、試験終了を待った。
試験時間が終了すると、ジェラルトがいの一番に声をかけてきた。
「マイトランドどうだった?全部いけたか?俺は全問解けたぜ。」
「ああ、びっくりするほど簡単だったな。同率一位が何人もいるだろうよ。結果発表が楽しみだな。で、クレアとの勝負はどうだ?勝てそうか?」
マイトランドはにやにやしながら聞いた。
「楽勝だぜ。負ける気がしねえ。・・・なんだよその顔。変な意味はねえからな。」
「何も言ってないだろ。」
「結果はいつだ?」
「明日だったはずだ。2人並んで1位かな。」
結果は明日。2人は他の班員とも合流すると、自己採点がてら試験について話し合った。
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