第25話「宗教上の理由」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
フレデリカ達が教材を取りに戻ってくると、マイトランドは入口付近でフレデリカを引き寄せ、耳打ちした。
「スナイダーの事はフリオニールの耳には入っていないな?」
フレデリカは、驚いた顔で反応した。
「言えるわけがないだろう。まあ言ったところでグレッテ卿なら許してくださると思うが・・・。」
「ならいい。次の模擬戦か、次の次の模擬戦の後で、俺から伝えることにしよう。それまでは絶対に言うなよ。」
「わかった。大丈夫だ!」
そう言って、フレデリカは平たい胸当てをこぶしでポンと叩いた。
「ところで何を教えればいい?」
「ああ、先ずは文字だ、文字を理解した者には軍隊符号や兵科記号、部隊の規模を教えてやってくれ。あとは貴族用の試験科目を重点的にたのむ。」
軍隊符号とは、軍事上の作業において用いられる、文字、数字、略号、色といった記号の総称である。
簡単に説明すれば、作戦の立案時、地図上に1個騎兵師団と1個歩兵師団と書き込むわけにいかないので、騎兵は菱形、その上に×印を2個付ければ師団という様な簡略記号であった。騎兵を菱形に表すと言うのが兵科記号で、×印2個が部隊の規模であり、それらを総称して軍隊符号と呼んだ。
「わかった。任せてくれ。」
フレデリカは班員に指示を出すと、さすが上級教育を受けている新貴族と言ったところだろう。先ずはマイトランド班の全員をカテゴリー別に組み分けした。
文字の読み書きが出来ない者、文字を読むことは出来るが書けない者、文字の読み書きが出来て戦闘の異能がある者、更に魔法を使える者。4つのカテゴリーに組み分けすると、それぞれに教官を配置し、それぞれに合わせた教材で授業を開始した。
「それで?私は何をすれば?」
「ああ、まだいたのか、フリオニールに任せる作業は特にない。貴族が平民の隊舎にいるというのもな・・・。用が済んだら帰ってくれ。」
「あ、ああ。そうだな。迷惑だな。」
フリオニールは少し寂しそうに肩を落とすと、ジェラルトと楽しそうに喋っているロンベルトを待って部屋を後にした。
次の日も、そのまた次の日も、課業が終わると、フレデリカ達の授業が始まった。
1週間ほど経つと、アツネイサも簡単な文字なら読めるレベルにまで成長していた。
「やるじゃないか。さすがはフレデリカだ。」
マイトランドに褒められると、頬を赤くしながら飛び跳ね、少女の様に喜ぶフレデリカは、
「あ、あ、当たり前だ!」
そう言って照れを隠した。
「後3週間か、試験科目はわかったのか?」
「ああ、それならもうそろそろグレッテ卿が来るはずだ。」
フレデリカの言葉通り、しばらくするとフリオニールがロンベルト、アーシュライトを伴い大きな包みを抱えてやってきた。
「マイトランド!持ってきたぞ!」
その大きな包みに押しつぶされそうになりながら声を発するフリオニールに、
「なんだ、貴族なのに、従者の一人もいないのか。重そうだな。」
マイトランドがそう言うと、フリオニールは包みを置き、笑って答えた。
「自分で持てる物を、なぜ従者に運ばせる?それに私は、宗教上の理由で従者を持たないことにしている。」
「なんだ、その宗教は。聞いたことが無いぞ。」
「マイトランド、宗教と言うのは方便だ、そう言っておけば誰もが納得するだろう?とにかくだ、羊皮紙を持ってきた。これくらいあれば足りるか?」
マイトランドが包みを確認すると、中には人数分よりも遥かに多い量の羊皮紙が入っていた。
「こんなに?一週間で集めたのか?いいのか?かなり金が・・・。」
「ああ、他ならぬ友の頼みだ。有意義に使ってくれ。」
「友か・・・。」
「ああ、友の為にロンベルトも、アーシュライトも協力してくれたのだ。」
マイトランドは包みから人数分だけ羊皮紙を抜き取ると、残りをフリオニールに返した。
「私も宗教上の理由で、友からは羊皮紙を必要以上に受け取ることができないんだ。気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう。」
マイトランドがそう言うと、フリオニールは包みを受け取り、
「方便か?」
と言って大きな声で笑い出した。
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