第24話「変わったヤツ」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
「君はなんで平民の俺に頭を下げるんだ?」
「君ではなくフリオニールだ。フリオニールと呼んでくれ。他の者と同じ様に呼び捨てで構わない。ところで平民に頭を下げるのはいけない事なのか?協力を依頼したのは私だ。頭を下げるのは当然の事だろう。」
「そうか、変わったヤツだな。フリオニールの班はフリオニール以外も平民に対して皆同じ考えか?」
"変わったヤツ"マイトランドがそう思うのも無理はなかった。貴族は平民から搾取するというのが世の常だ。頭を下げるなんて事はあってはならないのだ。
「そうだな。私の班は志高い貴族しかいないはずだ。ロンベルトはどうか?」
「は、フリオニール様の仰せの通りかと。」
ロンベルトはそう言うと、ジェラルトにチラチラと目をやった。
ジェラルトは、ロンベルトの視線に気付くと、
「なんだよ、護衛のおっさん。俺に文句でもあるのか?」
「いや、文句などない。私を覚えていないのか?」
「ああん?おっさんの知り合いはいないぜ。」
「私は君と同じ16だ。年上ではない。それに私と決闘をしたではないか。」
ジェラルトはロンベルトと模擬戦で対峙していた。通常、騎兵は顔全体を覆うタイプの兜を着用しているが、ロンベルトの兜は鼻まで覆うタイプの兜の為、どちらも顔の把握はできなかった。
ジェラルトの柄頭がロンベルトの顎をとらえたのも、口より下を兜が露出させていたためだった。口を隠すという事は、防御力という面では利点があるが、反面、息のあがりなどの欠点もあった。
また、決闘の際名乗り合うのも、家名、身分、後の戦功、武勇、それにお互いを知らしめるためであるとも言われていた。もちろんのことだが、名乗っている際に攻撃してはならなかった。
「決闘?決闘・・・。決闘ねぇ。あ?ああ、そんな顔してたのか!すげえ怖いし、老けた顔だな。子供は2人くらいいるのか?」
「話を聞いていたのか?16だ、まだ婚姻はしていない。一人身だ。」
「そうか、その顔じゃなぁ。うん。すまん。ところで何の用だ?」
「用と言う訳ではない。お互いの見識を深めようと思ってな。」
会話になっているのか、なっていないのか、2人は仲良くお互いの話を始めた。
ライト家はヴェルタで、代々続く武門の家柄。ロンベルトは傍系5代目で、騎士・騎兵としての個人の評価が入隊前から高かった。その腕を買われ、本家に養子として迎えられ、フリオニールの護衛を務めていた。
フリオニールはヴェルタ議会、貴族院20名家の内の一つ、グレッテ家。グレンダのロンメル家程ではないが発言力と影響力の高い貴族であった。
貴族院は2大派閥に分かれていた。帝国から渡ってきたフォンの貴族を中心とするライヒ派と、ヴェルタの古参貴族であるドの貴族を中心とするロワイヤル派である。ライヒ派は軍備の拡充と領土の拡大を掲げ、ロワイヤル派は外交と交易による国益を重んじた。もっとも、同じ派閥の中にも考え方の違いはあり、フリオニールのグレッテ家とグレンダのロンメル家は同じライヒ派に属しながらも、その姿勢は対照的であった。
「マイトランド、あちらの2人も話を始めたことだし、私達も今後の事を話し合おう。」
「ああ、そうだな。でも今話をしたほうがいいのか?模擬戦まではまだ一ヶ月半もあるじゃないか。」
「そうではない。私達から申し出た協力の話だ。何をすれば良いか?」
協力を申し出るフリオニールにマイトランドはにやりと笑うと、
「なんでもいいのか?」
「もちろんだ。二言はない。」
そう言い切るフリオニールに、マイトランドは一度大きく息を吸い込むと、続けた。
「では、羊皮紙と、フレデリカ達とは別に、貴族用の教材を人数分用意してくれ。」
この時代、動物の皮を加工して作る羊皮紙は、非常に高価であり、入手することも難しかった。
先の模擬戦の金一封でも人数分は集めることは不可能であっただろう。
だがそこは貴族だ、フリオニールは少し考えると口を開いた。
「それくらいなら、容易いものだ。任せてほしい。それで、グレンダ嬢に勝てる見込みは?」
「まあ勝てる。だが駒が足りない。なんとかしてみようか。」
「そうか。相手は騎兵5個班だ、それに対してこちらはロンベルトがいるとはいえ2個班、それに歩兵がほぼ同数ときたら、必ずとは言い切れぬのではないか?」
「ああ、だが、騎兵が戦況を左右する時代は、間もなく終わりを告げる。魔法も何も使えない平民が、貴族を打ち取る時代になる。なんとなく分かっているんじゃないのか?」
「何を言っているかは皆目見当もつかないが、マイトランドが言うならそうなのであろう。そうフレデリカ嬢も言っていたからな。」
「ああ、楽しみにしてろ。」
この時まだ貴族や議会、軍上層部や、配属された銃士と呼ばれる銃歩兵しか銃の存在を知らされておらず、知る者は少なかった。フリオニールも聞いたことはあるが、実際に目にする機会も入隊前ではあまりない為、それが騎兵をも凌駕するものだとは知らなかったのであろう。
大多数の貴族がまだ騎兵優位を信じきっていた。
マイトランドはフリオニールに笑いかけると、フレデリカ達の戻りを待った。
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