第21話「おもいのまま」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
マイトランド達は、準備を終えると、作戦通り、汚れた鎧を着用したスナイダー隊重装騎兵10騎を、平野に向け進発させた。
これは事前にマイトランドが水色の鳥によって貴族2班の位置を確認しておいた為であった。
スナイダー隊はスナイダー、フレデリカを中央にすると、前衛にクリストの鎧を着用したジョディーが新貴族2名を率い、右翼にシュウと新貴族1名、左翼にロンベルトの鎧を着たヘクターと残りの新貴族1名、少し遅れて後衛にポエルと言った陣容で、湿地帯を速歩で前進した。
それは傍から見れば、満身創痍のフリオニールの部隊そのものであった。
少し違うとすれば、フリオニール達の馬の為に誂えた馬具が、フレデリカ達の馬に合っていなかったことであろう。
馬術の異能を持っていない者を中央に配置したこともあり、進軍速度は速歩と多少ゆっくりではあったが、それがまた、この隊が激戦を潜り抜けてきたことを想像させた。
スナイダー隊が湿地帯に到達した頃、遅れてマイトランドが指揮する本隊20名が出発した。
陣容はジェラルトを先頭にした、三角の魚鱗の陣形、騎兵10、長槍歩兵10という陣容であった。
こちらはスナイダー隊とは対照的に、覗き込むと顔が映るほどに磨かれた鎧に身を包んでいた。
フランの号令で、悠然と闊歩する部隊は、戦闘とは無縁だったのだろうと感じさせた。
半数の馬がなくなっていること以外は、どこにも不自然なところはなく、フランが号令をかけながら行軍するのも、女性主体のフレデリカ班を装っての事であった。
どの戦闘においても同じことだが、この模擬戦においては特に、疲労の蓄積、兵員の減少は、敗北の直接的な原因と言っても過言ではなかった。
スナイダー隊が平野に到着すると、日は落ちはじめ、辺りは薄暗くなりかけていた。
一方斥候を出していた、グレンダ率いる貴族2班19名は、斥候からの報告を受け取ると、満身創痍のフリオニール班の位置、移動方向を把握し、フリオニール班を迎え撃つべく準備を開始した。
フリオニール班が10騎に減っていたことを受け、騎兵5騎を遊撃部隊として、背後に回らせる為部隊から離れて行動させると、前衛を7騎、後衛を戦車をはさみ、左右に3騎ずつという陣容で、フリオニール班の戦場到着を待った。
「遅いですわね。」
グレンダが一言呟くと、副官であろう貴族が反応した。
「は、斥候をしていた者からの報告によれば、馬をうまく操れなくなる程の怪我人が出ており、その為、行軍スピードが速歩ほどであると申しておりました。」
「そうね。わたしも聞いたわ。フリオニール様は大丈夫かしら。」
「グレンダ様。まだそのようなことを仰せですか。我々が勝利すればグレッテ卿はグレンダ様の思いのままになりますよ。」
副官の言葉に、グレンダの息づかいが荒くなった。
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そうね。思いのままよねぇ。早く来ないかしらぁ。フフフフフッ。」
気持ちの悪い笑みを浮かべ、グレンダは戦車の手綱を握り締めた。
グレンダは非常に思い込みの激しい人間で、フリオニールは自分を好いていると思い込んでいた。
そう、グレンダは数回顔を合わせただけの思い人、フリオニールの為、親の反対を押し切り、入隊を志願した貴族令嬢であった。
両隊が対峙したのは、そこからまた少ししてからであった。
圧倒的不利の状況で対峙するとすぐに、フリオニール――もとい、スナイダーが、離れて布陣しているグレンダに大声を上げ提案をした。
「グレンダ嬢、すまないが貴族同士、決闘で勝敗を決めないか?我々は森林地域で、フレデリカ嬢の奇襲を受けてこの有様だ。こちらはロンベルトを出す。どうか?」
「少しお待ちになって下さるかしら。」
グレンダはこの提案を、副官と相談した。
「フリオニール様の提案に従っておくべきだわ。」
「はぁ、グレンダ様、あのロンベルトを知らんのですか。満身創痍とはいえ、並みの一個小隊の力を持った化け物です。我々の中に一騎打ちで勝てる者などおりませぬ。ここは我々にお任せください。グレッテ卿さえ打ち取れば我々の勝ちです。ロンベルトなど放っておけば良いのです。」
しばらくやり取りを続けた後、当然副官に拒否され、グレンダは返答した。
「フリオニール様、申し訳ありませんが、その提案お受けできませんわ。総力戦で雌雄を決したく思いますの。」
貴族は作法に拘るが故、名乗りも交渉もなく斬りかかるような真似を嫌った。
この問答そのものが、マイトランドの狙いであった。
副官の制止を振り切って突撃を命じるような指揮官の部隊が、その指揮官を失ってまとまれるはずがない。マイトランドの読みは、最初からそこにあった。
返答したグレンダに、スナイダーはマイトランドからの時間稼ぎの一計を伝えた。
「グレンダ嬢も伏兵を潜ませているのだろう?我々も伏兵はいる。」
スナイダーの言葉に、グレンダは動揺し、またしても副官に確認した。
副官は首を横に振るもグレンダは納得せず、結局話し合いになった。
「グレンダ様。なんの為の斥候ですか、お味方を信じて下さい。」
「でもフリオニール様は嘘をつきませんわ。」
そう、フリオニールは嘘をつかない。だがこの男はスナイダーであり、フリオニールではなかった。
結果グレンダと副官の話し合いが終わったのは、マイトランド達本隊が到着したことによる動揺によってであった。
ザッザッザッザッザッ
という足音と共に、夕暮れ最後の光を反射した無傷の兵20名が戦場南部の丘に姿を現した。
平地に伏兵を潜ませるために、丘陵の麓を選んだことが仇になり、マイトランド達本隊の侵入に気付かなかったのであった。
「フリオニール様!フレデリカ以下新貴族20名、盟約により助けに参りました!」
フランが到着早々叫ぶと、貴族2班に動揺が走った。
じりじりと歩み寄るマイトランド本隊。
最優秀班どころか、2位も危うくなった貴族2班を恐怖させるには十分であった。
「フリオニール様!騙しましたわね!全軍突撃!フリオニール様を倒した後で、あの足の遅い部隊と交戦しますわ。」
そう言うと、グレンダは副官の制止を振り切り、突撃を命じた。当然伏兵も含め全員での突撃であった。
少し遅れて、グレンダも突撃に続いた。
スナイダー隊はこれを見ると、戦場の南西方向に進路を取り、撤退を開始した。
それを追って、貴族2班もグレンダを最後尾に据えると、戦場を西方向へ移動を開始した。
だが、少しも時間を置かずに、突然状況は一変した。
丁度、貴族2班がマイトランド本隊の前を通り過ぎて、最後のグレンダが通り過ぎる時であった。
「タウント!」
ジェイクが異能を発動すると、戦車を牽く二頭のうち、片方の馬がマイトランド本隊に向け進路を変更した。つられてもう一方の馬もそれに続いた。
もちろんグレンダの前方にいた騎兵は、そんなグレンダの馬に全く気付かずに突撃をしていた。
「どうしたの。どこへ行くの?そっちは違うわ。こっちへ向きなさい。」
グレンダはそう言って外方の手綱を引いたが、馬は全く反応する気配がなく、焦るグレンダを尻目に、マイトランド本隊へと突っ込んだ。
同時に、スナイダー隊が反転した。
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