第20話「私だ」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
「装備を回収してくれ。特に、ロンベルト、フリオニール、アーシュライトの装備は多少壊れていても剥がしてくれ。ジョディーはポエルとアダムスの警戒場所へ行き、持ってきていない装備を受け取って来てくれ。」
マイトランドの言葉と共に、全員で装備の回収をした。
ジェラルトはロンベルトとの戦いにあまり手ごたえを感じなかったのか、この後の決戦が楽しみな様子だった。
「なあ、マイトランドよ、次はなんか考えてんのか?」
「ああ、フリオニールとロンベルトを見て思ったんだけどな、次はもっと姑息な手だ。敵の数が少ないからできる、大将だけを狙う作戦だ。その作戦の鍵はジェイクだ。できるだけ俺達の異能を隠して戦いたいからな。ジェラルトは——正直に言うと、決闘さえなければ休んでいる間に終わる作戦だ。」
「マジかよ。この模擬戦の俺の出番って、木を切って、貴族と決闘して終わりか?折角女の子がいるんだ。もっとかっこいいとこ見せたいぜ。なんとかしてくれよ。」
「いや、それ以外も沢山働いてもらっただろう。今回は本当にもう出番が無いんだ。あきらめてくれ。次の模擬戦、ジェラルトの見せ場いっぱい作るから。」
「あ、ああ。わかった。しょうがねえな。その代り次は頼むぜ?いっぱいだぞ?」
「ああ、約束だ。それより、装備の回収が終わったら皆を集めてほしい。」
最終戦で自分の出番がないことが、よほど不満だったのだろう。次の模擬戦の見せ場を約束されても、その不満は拭いきれず、ジェラルトは少し元気なく頷くと、皆を陣地中央に集めた。
警戒の交代に出たアツネイサとイブラヒム以外の全員が陣地中央に集まると、マイトランドは作戦の説明をした。
「今回はここにいる全員を2隊に分ける。貴族1班から回収した装備を着用した10名と、フレデリカ達の鎧を着た20名に。貴族1班から回収した鎧を着た隊は、馬術の異能がある者だけを集めて、敵を引きつけながら逃げるだけだ。ジョディー、ポエル、シュウ、ヘクター、スナイダー、フレデリカ、それと馬に乗れるフレデリカ班の四名。指揮は、スナイダーが執ってくれ。」
そこまで言うと、スナイダーが即座に反応した。
「ぼ、僕?マイトランド、間違ってない?」
「いや、間違っていない。フリオニールの鎧を着用してくれ。まず汚れを拭いてからな。」
マイトランドがそう言うと、フレデリカ、ジェラルト、ジェイクの3人が顔を見合わせ、同時に笑い出した。
「ほらやっぱり、皆して僕をからかっているんだね。ひどいよ。」
そう言って、下を向くスナイダーにフレデリカが声をかけた。
「すまない。そう言う事ではないのだ。スナイダーの声があまりにもグレッテ卿に似すぎていて、笑ってしまったのだ。本当に申し訳ない。」
事実スナイダーの声は少し弱弱しいものの、フリオニールの声によく似ていたのだ。
スナイダーは貴族に似ていると言われたのが嬉しかったのか、
「そ、そういうことならね。」
そう言うと、スナイダーはしばらく鎧を丁寧に拭き上げ、ぎこちなく袖を通した。
「僕、皆の為に頑張るよ!今回だって陣地を作る手伝い以外は何もしてないだもん。種の知識なんて役に立たないしね。」
それを聞いたマイトランドは笑いながら言った。
「"僕"じゃない、フリオニールは"私"だ。それに、誰にでも向き不向きはあるものだ。自分を生かせる分野で戦えばいい。俺だって今回は何もしていないだろう?全部皆にやってもらっているだけさ。」
自分を生かせる場があると言われたのが嬉しかったのか、スナイダーは目に力を込め、決意を固めると、それを確認したマイトランドは作戦の続きを説明した。
「ヘクターは体格が似ているロンベルトの装備を。それ以外は適当に着てくれ。スナイダー隊はスナイダー以外の装備を不自然なまでに汚しておくように。残りの者は俺と共にフレデリカ班を演じる。鎧を磨いておくように。この作戦の鍵は、スナイダーの演技と、ジェイクの異能にかかっている。ではスナイダーと、ジェイクにはそれぞれの行動を説明する。各員、持ち場にかかれ。」
作戦の概要が伝えられると、マイトランド、スナイダー、ジェイクを残し、他の者は鎧磨きと鎧汚しにとりかかった。
スナイダーへの演技指導はフレデリカに任せた。フリオニールの声音や所作を知っているのはフレデリカしかいないからだ。
マイトランドはジェイクに作戦の中核となる異能の説明をすると、
「それだけか?くっだらねえ。そりゃあ、まるっきり詐欺じゃねえか、やられた側の立場に立って考えたことはあるか?模擬戦のルール違反になるんじゃないか?相手もそんなことされるとは夢にも思わないからな。だけどよ、お前といると本当に飽きないな。」
ジェイクはそう言うと、腹を抱えて笑いながらマイトランドの肩を叩いた。
マイトランドも笑いながら答えた。
「これは戦車が部隊の先頭に出ないから考えられるんだ。それと異能は人に通じるなら馬にだって通じるだろう?」
「まあな。とにかく任せとけ。それにこんな簡単なことで、平民の俺達が最優秀班になれるんだ。失敗なんかしたら笑われちまう。」
「とにかく頼んだぞ。」
マイトランドはそう言って周囲を見回した。
貴族2班の軽騎兵は手強い。正面から当たれば分が悪い。だからこそ、こちらが重装騎兵に見えれば——相手は戦いにくいと感じるはずだ。
その場にいた誰もが笑顔で作業をしているのに気付いた。全ての班員が決戦前であっても士気を失っていないことを確認すると、自身も鎧磨きにかかった。
模擬戦も終盤、2日目の太陽が西へ傾き始めていた。
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