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第19話「守るべき平民」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

「これで残るは貴族2班だけか。」


ジェラルトは嬉しそうな表情でマイトランドに呟いた。


マイトランドは少し黙ると、真剣な顔で答えた。


「ああ・・・。」


その後の言葉を言いかけると、喉の奥に飲み込んだ。


穴から這い出る者があったからだ。


ランスと盾を捨て、フリオニールを担ぎ、3メートル程はあろう高さを登って来たのはロンベルトだった。


ロンベルトはフリオニールをそっと下した。


フリオニールの鎧は穴の壁面に擦れて傷だらけで、意識はあるものの顔色は蒼白だった。


「フリオニール様、少しここでお待ちください。」


そう瀕死のフリオニールに告げた後で、


「壊滅した我々がこんな事を言うのもおこがましいと思われるやもしれんが、一騎打ちをお願いしたい。貴族と新貴族の間には決闘の習わしも通用するであろう。もちろん勝敗には影響しない。」


そう言うと、腰のロングソードを抜いた。


「マイトランド、どうする?」


「ああ、受けよう。」


そう言うと、一歩ロンベルトに近づき、続けた。


「誰か、この勇者と決闘したい者はいるか?いたらその場で手を上げてくれ。もしいないのであれば、俺が受けよう。」


熟練の兵士を思わせるロンベルトは短髪で堀が深く、貴族とは思えない体のつくりで、身の丈はヘクターよりも少し大きい位だろう、首も腕も誰よりも太い。業物であろう腰のロングソードの刃は、研ぎ澄まされた光を放っていた。鎧は穴に落ちて汚れてしまっているが、その造りは明らかに一級品だ。


その風格に圧倒され、マイトランドの提案に、平民、新貴族誰もが挙手をする者はいなかった。


「さて、誰もいないようだし、俺がやるか。」


マイトランドは覚悟を決めると、もう一歩前へ踏み出した。すると、ジェラルトがマイトランドの前に出ると、自分の胸を拳で叩き口を開いた。


「ここはまだお前の出番じゃないだろう。俺に任せろ。」


そう言うと腰の剣を抜き、ロンベルトに正対した。


「礼を言う。お主の家名を聞いてよいか?私はロンベルト、ロンベルト・フォン・ライト、ライト家の次男だ。」


そう言ってロンベルトはジェラルトに頭を下げ、肩に剣を担いだ。


ジェラルトは平民であるが故、決闘のしきたりを知らない。当然だが、的外れの自己紹介となってしまった。


「ジェラルト・ランズベルクだ。長男だ!家とかはあんまりわからん。親父は真面目な良い親父だ。」


「そうか、どの家でも父は偉大だ。」


単なる世間話になりそうになったところで、ロンベルトが我に返った。


「う、ううん。では行くぞ。鉄壁!城塞!アンチアーマーブレイク!ベンジェンス!」


鉄壁と城塞は物理防御力を飛躍的に上げる異能。アンチアーマーブレイクは相手のアーマーブレイクを無効化する異能だ。


ここまでは知っていたジェラルトは、最後の異能が気になり尋ねた。


「マイトランド、ベンジェンスってなんだ?」


これにマイトランドが答えるよりも早く、ロンベルトが回答した。


「すまないな。少し卑怯だとは思うが、使わせてもらう。物理攻撃を受けた時にダメージの半分を跳ね返す異能だ。」


「ああ、そういう異能ね!わかったぜ!親切にありがとうな!てか、もう始めていいんだよな?」


軽い返事に戸惑いながらも、ロンベルトは口を開いた。


「では、参る!」


そう言うと、突進を敢行した。


ジェラルトは、異能を使う際は誰にも気づかれないようにというマイトランドとの約束を守り、剣を顔の前に持って行くと誰にも聞かれないように、風魔法を剣に纏わせた。


ジェラルトの剣が緑色の光を放つと、ロンベルトの突進に剣を構え、真正面から向かっていった。


それは一瞬の出来事だった。


ロンベルトの斬撃を光る剣で右肩方向に受け流すと、そのまま柄頭をロンベルトの顎に当て、のけぞるロンベルトの腹に強烈な斬撃を叩きこんだ。


ロンベルトはそのまま地面に倒れ込み、ジェラルトに顔を向けた。


「今、何をした。何故お主にダメージが無い。」


「うん、ダメージ?あるぜ!痛てぇ。普通に痛てぇよ。転げまわりそうだぜ。」


早口のジェラルトの言は、もちろん嘘である。風魔法を纏わせた剣が物理ダメージを魔法ダメージに変換していたからだ。ベンジェンスもアンチアーマーブレイクも、魔法ダメージには意味をなさない。


「そうか、単に私の能力がお主に届かなかったという事か、新貴族・・・。見事だ・・・。」


ロンベルトがジェラルトを称えるとジェラルトは苦笑いで答えた。


「いや、俺、新貴族じゃないんだ。平民だぜ。さっき言ってやれなくてわりぃな。」


「そうか、俺は守るべき平民にやられたのか・・・。」


それだけ伝えると、涙目になったロンベルトはゆっくりと地面に倒れ込んだ。演習場の魔道具が彼の脱落を告げるように、その体から力が抜けていった。

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