第17話「レディの誘い」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
マイトランド達は、森林出口に到着すると、警戒に付いていたポエルを呼び、状況の確認をした。
「ポエル、状況を教えてくれ。」
「うん。重装騎兵が弓騎兵をやっつけてる感じ。まだ残ってるけど、もう最後の1人か2人。重装騎兵は損害ないと思う。」
「そうか、ポエルとアダムスは警戒をそのまま続行してくれ。重装騎兵が通り過ぎたのが確認できたら、装備の回収を頼む。他の者は兜を被ったらベンテールを下げろ!視界は悪いが、絶対に顔を悟られるなよ!フレデリカ、ここからは指揮を代ってくれ。作戦通りに頼む。」
ポエルは二度マイトランドに頷くと、警戒場所まで戻って行った。
ポエルの姿が木々の影に消えると、フレデリカの表情が変わった。
さっきまでの恥ずかしそうな顔はどこにもない。部隊の先頭に立つと、凛とした声で命じた。
「私に続け!」
そう部隊に命令を下すと、右手の拳を握り、常歩で前進し、兜を着用した残り19騎もそれに続いた。
マイトランドは気配察知の異能を使いながらフレデリカにぴたりと追走し、一行は貴族1班を遠目に捉えるまでに、そう時間はかからなかった。
フレデリカは作戦通り、貴族1班に自分の部隊の全てを見せるため、高台になっている場所まで移動すると、自らの部隊全員の姿が捉えられるよう、一列横隊になるよう指示を出した。
新貴族4班と思しき班を壊滅に至らしめた、貴族1班は当然このフレデリカ達の部隊を目視により確認した。
フレデリカは貴族1班に捕捉されたのを確認すると、わざと大声で命令した。
「撤退!撤退!逃げるぞ!」
フレデリカ達はお互いの馬をぶつけるなど、馬に乗れない様子をアピールすると、頭を来た方角へ向けた。
それを見た貴族1班の、巨大なランスを持った男が声を上げた。
「フリオニール様!もう一隊獲物が自らやって来ましたよ!チャリオットが無いところを見ると、アルドリックの部隊でしょう。こちらに損害はありません。このままヤツらを追いましょう。」
巨大なランスを持った男とは別の座高の高い騎兵がフリオニールに進言した。
「フリオニール様、敵は20名。残る班の戦力を考えれば、斥候の必要はないかと愚考いたします。」
フリオニールは更に別の騎兵に目を向けた。
「アーシュライト、残る騎兵班の数は?」
「クリシュマルド隊、エルドナーレ隊は我が隊が、ベルナー隊は別の部隊が壊滅させましたので、残るはロンメル隊・アルドリック隊・アルファイマー隊となります。」
フリオニールはアーシュライトの報告を聞き終えると、しばらく沈黙した。
視線はフレデリカ達の背中を追いながら、頭の中で状況を整理しているようだった。
やがてゆっくりと座高の高い騎兵に向き直って言った。
「クリスト、甘い。」
フリオニールは静かに、しかし確信を持った口調で続けた。
「戦闘直後の隊列が整っていない我々を攻撃してこない。それだけならば臆病と見ることもできる。だが我々重装騎兵相手に、自らの全容を晒して見せたのはなぜだ。誘っているのだ。策があるに違いない。」
一呼吸置いてから続けた。
「あの騎兵班が単独で動いているとは限らぬ。他班と連携している可能性も十分ある。あの丘の向こうには砲兵が待っているのではないか?いずれにせよ、罠と見て動くべきだ。」
フリオニールは口元に僅かに笑みを浮かべた。
「だが——フレデリカ嬢がわざわざ策を用意してくれたというなら、それに乗ってやるのも武人の礼儀というものだ。それにレディの誘いを断るわけにはいかぬだろう?予定通り斥候を出せ!クリスト、前衛を任せるぞ!慎重に行動せよ!」
「ははっ」
基本的にどの戦場にあっても、斥候は出す必要がある。敵の規模が不明であったり、待ち伏せ、増援などが予測されるからである。だがこの場合、フリオニールの貴族1班が、フレデリカ班を除いて全滅させた以上、残る新貴族班はフレデリカ達20名になる。したがって斥候を出す必要がない。このように通常であればクリストの言は正しい。
クリストは馬を出し、前進を開始した。
フレデリカは、貴族1班の進軍を合図に撤退を開始した。
「2人には殿を頼む!」
フレデリカの命令を受け、マイトランドとジェラルトは無言で後方へ下がり、フレデリカ達は全速力で離脱した。
全速力と言っても、馬術の異能がある者が少ないので、当然貴族1班の2/3程のペースでの撤退となった。
フレデリカ達と距離を開けながら撤退するマイトランドとジェラルトは、馬に上手く乗れない者達を逃がすため、交互に妨害を仕掛けながら森へと向かった。
マイトランドが土魔法で前方に土壁を生み出し、クリスト達の進路を塞いだ。迂回する隙にジェラルトが風魔法で向かい風を叩きつけ、馬の速度を削いだ。
土壁を越え、向かい風を押し切ったクリスト達が再び速度を上げる頃には、フレデリカ達は森の中へと消えていた。
そうして、2人以外の全ての騎兵が、森へと侵入できる距離まで来ると、妨害をせず徐々に迫るクリスト達の到達を待った。
クリストは馬の速度を少し落とすと、フリオニールに向かって進言した。
「フリオニール様!敵先頭集団と、後続との差が開いております。捉えられそうですが、いかがいたしましょうか。」
クリストは前衛、先方を任されるだけあり、状況判断は的確であった。
フリオニールはクリストを信頼しているのだろう、静かに答えた。
「クリストお前に任せる。もう森林地域だ、分が悪くなることもあるだろう。私の見えない距離までは先行するな。くれぐれも深追いはするなよ。」
「はは、お任せください。」
そう言うと、前衛5名の速度を上げ、マイトランドとジェラルトに迫った。
「もう少しだ!このまま一気に捉えるぞ!」
あともう少しで、マイトランド達2騎をランスで串刺しにできるという距離まで迫ると、クリスト以下前衛重装騎兵5騎は絶叫することとなった。
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