第8話「盤面を整える」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
「マイトランド!言われてたヤツ、全部持って来た!」
ヘクターは部屋に戻ってくるなり、マイトランドのベッドに言われていたソレらを放り投げた。
その後ろからジョディーが、フランとポエルを連れて入ってきた。
「マイト、この2人も呼んでおいたよ。どうせ必要になるだろうと思ってね。」
フランはぱっと顔を輝かせ、ポエルは無言で小さく頭を下げた。
「ずいぶん早かったな。班長許してくれたのか?あれだけ非協力的だからそうそう許してくれるとは思ってなかったけどな。しっかり中身は確認したか?」
そう言ってマイトランドはヘクターの持ってきた羊皮紙を広げだした。
「うん、僕もわからないんだけど、班長の机の上に頼まれた物が全部置いてあったんだ。だから全部持ってきただけ。中身は2、3個確認して大丈夫そうだったから後は確認してないや。マイトランドが先に頼んでいたんじゃないの?」
「うん?あのな、ヘクター、俺のどこにそんな暇があったんだ。」
マイトランドは手を止めた。
「過去記録、編成表、地図……。作戦を考えるのに必要な物が、全部揃っている。」
ヘクターに頼んだのはつい先程の話だ。それが既に班長の机の上に揃っていたとなると——。
「……班長が、俺達の動きを読んでいたということか。」
マイトランドはそう呟くと、羊皮紙を一枚一枚確認し始めた。
「まずは中身が本物かどうか確認しよう。」
マイトランドはジェイクとの一件の後、それぞれの班員に頼みごとをしていた。
ヘクターには、模擬戦の過去記録、今回と過去の模擬戦の編成表、戦域の地図を班長を口説き、持って帰る事。
ジェラルト、シュウ、クリスにはマイトランド以外の全員の異能チェック。
フィンとアルベルトには、全員分の青銅装備を利用してのアイテム、武器の作成。
ジェイク、ロブ、エリオット、ダンにはマイトランドの寝具を利用してのアイテムの作成。
フォルカンとスナイダーにはマイトランドの麻製の作業服を使ってのアイテムの作成。
アダムスとイブラヒムには竹製の避難梯子を利用してのアイテムの作成。
ドワイト班長が禁じたのは、あくまで「その武器以外の使用」だ。今から作ったものについては何も言われていない。規則に書いていない事はやっていい——それがマイトランドの解釈だった。
ジョディーと、ジョディーの同室で班員のフランとポエルにはマイトランドの補佐を。
ルークとトッドには、他班への情報操作を。
ルークが発端で情報が漏れる可能性がある。ならば逆に利用すればいい。だがルーク1人では何をするかわからない。トッドをつけたのはそのためだった。
流す内容はシンプルでいい。47号室は弱い。武器は全員が錆びた青銅装備で、持ち込みの武器を持つ者は誰一人いない。班員同士のコミュニケーションも取れておらず、喧嘩や決闘が絶えない。作戦を立てられるリーダーも不在。——そう思わせれば十分だ。
この情報操作がうまくいけば、最初に47号室とぶつかるのは功を焦った弱い班ということになる。
アツネイサにはルークとトッドの監視を頼んだ。
念には念を入れる。それがマイトランドのやり方だった。
マイトランドは羊皮紙を広げながら、フランとポエルに目を向けた。
「今まで罰則ばかりで少しも話せていなかったからね。ちょっとだけ2人の事を聞いていいか?作業しながらで悪いけど。」
フランとポエルは顔を見合わせると、マイトランドに頷いてみせた。
「じゃあまずは、フランのこと聞いていいかな?異能のこととか、なんでもいいんだ。」
フランは少し顔を赤らめながら答えた。
「私、フラン・ファルメル今年で16になります!マイトランド君の村の近くにあるキュイジ村から来ました!今までは家業のひよこの選定をしてました。オスかメスか分けるんです。異能は、初級だけど火魔法が使えます!あとは……ありません!目が少し良いくらいです!」
マイトランドは作業を止め、フランに振り返った。
「ひよこの選定?オスかメスかわかる物なの?」
「はい、お尻の穴で判断するんですよ。ちょーっと難しいですけどね。」
フランが長い茶髪の前髪をかき分け自慢げに語るのも無理はない。
卵を産む雌と、食肉用の雄。育て方が違う以上、ひなの時に分けてしまう方が合理的だ。一見地味に見えて、実は誰にでもできる仕事ではない。
「ありがとう。でも同い年なんだから、敬語はやめてくれよ。」
マイトランドはそう言いながら、頭の中で何かが引っかかるのを感じた。
ひよこの選別。オスとメスをお尻の穴で見分ける。双子も簡単に見分ける——。
「フラン、一つ聞いていいか?双子とか、そっくりな人間でも見分けられるか?」
「え?当たり前じゃないですか。というか、どんな人でも初めて会った瞬間から顔の違いとか雰囲気の差がわかりますよ?」
——これは別の異能だ。
ひよこの選定は職業スキルに過ぎない。だがその根底にあるのは、微細な差異を瞬時に見抜く力だ。人間相手でも同じことができるなら——戦場で化ける。
「……次はポエルいいか?」
表情は変えなかった。しかし頭の中では、すでにフランの使い道を考え始めていた。
狸獣人のポエルは二度頷くと、
「ポエル。苗字は知らない。弓が得意。孤児院で育ったの。だから孤児院の手伝いくらい。異能は弓術。特殊弓術、あと隠密。馬も乗れる。あと忘れたけど2個くらいわからない異能あった。」
「そうか、ポエルありがとう。特殊弓術って何かわかる?」
「矢が無くなっても魔力あれば矢打てるの。でもいっぱいは無理。あと、音が出る矢打てるの。」
音が出る矢というのは、いわゆる蟇目鏑矢のことだろう。合戦の合図や味方への連絡で重宝される。
「ポエル優秀すぎるな。頼りにしているよ。」
マイトランドがポエルを褒めると、フランがマイトランドの前に出てきた。
「あーっ!マイトランド君、ポエルちゃんだけズルいです!私も褒めてください!さっきのジェイクとの戦い、すごかったです!私、あの瞬間からマイトランド君のファン1号になっちゃったんですから!」
フランの勢いに負け、マイトランドは冗談交じりで答えた。
「フランもすごいよ!ひよこの鑑定ができるんだからね!他の人には真似できない!うん!」
「ですよね、ですよね。」
フランはそう言うと機嫌が良くなったようで、鼻歌を歌いながらどこかへ行ってしまった。
マイトランドはため息をつきながらジョディーに尋ねた。
「はぁ、ジョディー、フランっていつもあんな感じなのか?」
「ああ、あたいにもあんな感じさ。」
「ファンはやめてくれと言っておいてくれ。俺はそんなにすごい男じゃない。」
マイトランドはそう言うと書類に目を通し終わったようで、ジョディーに全員の集合を任せた。
「ジョディーすまない。みんなを集めてくれるか?」
「あいよ!——って、ポエル、またいつの間に入ってきてんの。」
ジョディーが呆れたように言うと、ポエルは無言でにこりと笑った。
ジョディーが全員を集めに出て行くのと入れ違いで、全員の異能の聞き取りを終えたジェラルト、シュウ、クリスが部屋に戻ってきた。
「マイトランド、すげえの発見したぜ?やばいって!」
ジェラルトは帰ってくるなり、大声で叫んだ。
「どうした?そんなすごい異能があったのか?」
「聞いて驚くな?念話だ。アダムスとイブラヒムが使えるんだよ。と言っても2人の間だけだけどな。それ以外にも大豊作だぜ?ジェイクがタウント持ちとかな。マジで最優秀班とれるぜ。」
「そりゃすごいな。」
マイトランドは表情を変えなかった。しかし頭の中では、すでにその2つの異能の使い道を組み合わせ始めていた。
「後で実際戦力になるか、一緒に確認してみるか。」
タウントは挑発の異能で、これを受けた者はタウント使用者に釘付けになってしまう。
「それはそうと、マイトランドよ。耳貸せよ。」
そう言うと、ジェラルトはマイトランドに小声で話しかけた。
「なんでジェイクとやりあった時、俺に魔法付与なんて頼んだんだ?ありゃマイトランド1人で余裕だったろうよ。」
マイトランドは少し困って答えた。
「誰にもその話はしてないだろうな。」
ジェラルトが首を縦に振ると、マイトランドは続けた。
「あれは2人で勝ったことに意味があるんだ。ジェイクは見た目が明らかに強そうだろ?それに俺達が2人で戦って勝てば、班員の士気も上がるだろ?」
そこまで言うとマイトランドの後ろから、
「マイトランド悪いヤツ。孤児院で言ってた。どんな相手にも本気で戦わないとダメ。」
まさか聞かれていたとは。マイトランドは思わず顔を片手で覆うと、ゆっくりと振り返った。怒ったポエルがそこにいた。
「ポエル。頼むからジェイクには内緒だぞ?ジェイクの名誉に関わるからな。それと……内緒話は隠密を使って聞かないようにな。」
「ジェイクの名誉守る。わかった。貸し1。」
「わかったよ。今度埋め合わせするよ。だからお願いな。」
ポエルは嬉しそうに頷くと、鼻歌を歌いながらどこかへ行ってしまった。
「これからは、ポエルに気を付けよう。あの子は危険だ。」
「ああ、そうしよう。でも埋め合わせってどうするんだ?」
「うーん、2ヶ月目に外出ができるってジョディーが言ってたろ?その時になんか考えることにするよ。食い物で釣って拝み倒すしかないだろ。」
「それで許してくれるといいけどね。ありゃそんな感じじゃなかったぞ。」
「ジョディーがいるんだ。なんとかなるだろ。それより他の班員の異能教えてくれよ。」
ジェラルトが話し始めると、マイトランドは羊皮紙に書き留めながら一つ一つ確認していった。




