第7話「信じてやる」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
では修正した完全版を出力します。
信じてやる
そんな調子で、入隊初日から、毎日毎日の罰則による体力練成。
反発したり、意見具申したりすれば命令違反で反省室。
反省室に入れられれば棒で殴られながらの体力練成。それもマイトランドとジェラルトの2人だけ。
最初こそ理不尽だと思っていたが、3日も経つ頃には2人の間で妙な連帯感が生まれていた。
「マイト、今日で腕立て何回目だ?」
「数えてない。ジェルは?」
「俺も数えてない。」
2人は顔を見合わせると、なぜか笑い出した。
ドワイト班長はその様子を見て、さらに10回追加した。
違う事と言えば、体力練成のメニューが存在するという事、それに併せて棒で叩かれる部位も変わるという事。
例えば、入隊初日は腕立て伏せのみを命令されるが、2日目はスクワット、3日目は腹筋という具合で、3日で1セットとなっている。それが2回続くと、班長達も休日が必要なのだろう。完全休養の日を挟むと丁度7日で1セットになっていた。
叩かれる部位も、鍛えている部位を狙ってか、重点的に叩かれる。
マイトランドもジェラルトも、軍人に必要な体力練成を罰則に当てていると思い、あまり気にしないで罰則を受けていた。
そんな2人の様子を、47号室の面々は複雑な表情で眺めていた。
クリスはすでに消灯前にこっそり差し入れをするのが日課になっていた。
ジョディーに至っては堂々と差し入れをした。
「あたいは関係ないからな。ただ水が余っただけだよ。」
誰も信じなかった。
日々の訓練としては入隊後まだ日が浅いことから、基本教練、剣術、駆け足、服務についての座学などを中心に、それぞれ専門の教官がつき練度の向上に励んでいた。
基本教練とは、敬礼、右向け右、回れ右など軍隊での基本動作を統制するものであり、各国によりその呼称も様式も異なる。
例えば、同じ敬礼でもイドリアナ連合王国では手のひらを敬礼を受ける者に見せる様式であるのに対し、ヴェルタでは手のひらを相手に見せない様式である。
そんな日々が2週間ほど経った週末のことだった。
相変わらずマイトランドとジェラルトへのドワイト班長の風当たりは激しく、計1000回以上にも及ぶ腹筋を実施させると、終了するのを待って班員全員を一列横隊に整列させた。
「注目!」
日々の基本教練の成果か、全ての班員がその号令に寸分たがわぬ動きでドワイト班長の方向に顔を向けた。
「貴様らにとって嬉しい知らせがある。いよいよ明後日、第一回目の模擬戦が行われる。必ず優勝しろ。いいな!」
「「「イエッサー!」」」
「よろしい。それでは各員武器を受領せよ。注目なおれ!」
ドワイト班長の言葉に反応し、コリンズ伍長が班長の位置まで大きな箱を引きずって来た。
ドワイト班長がそれぞれ個人の名前を呼ぶと、箱から武器を取り出し、呼ばれた者が班長の位置まで移動し武器を受領する。
ジェラルトは最後から二番目、マイトランドは最後。
2人は自分の順番が来るまで、他の班員が武器を受領するのを観察した。
イブは青銅製のラウンドシールドと青銅製の剣、アダムは青銅製のハルバート、クリスは青銅製の短剣、ジョディーは青銅製の大剣——全員が青銅製の武器を受け取っていた。
遠目から見てもわかるほどに、それらは緑青がこびりつき青く錆びついていた。
「次ランズベルク2等兵。ラッセル2等兵。一緒に来い。」
ジェラルトとマイトランドの名前が呼ばれ、2人は一緒にドワイト班長の前に進み出た。
「貴様らの武器は足りなくてな。用意できなかった。代わりと言ってはなんだが、この剣術訓練用の木剣を用意しておいた。数は沢山あるからな。2本ずつやろう。どうだ、嬉しいだろう。俺の好意だ、喜んで使うと良い。」
ドワイト班長は受け取る2人を眺めながら、独り言のように呟いた。
「まあ……相手をよく見て考えんと、死ぬがな。」
くっ、と短く笑うと、2人に木剣を押しつけた。
2人はその木剣を受領し、ドワイト班長にはわからない程度に肩を落としながら元いた位置へと戻った。
「よし、武器は全員に行き渡ったな。それを明後日までに手入れしておくように。この模擬戦は得意武器以外を扱う訓練も兼ねておる。だから各員に異なる武器を割り当てた。ちなみに貴様ら以外の班では、持ち込みの武器を使う者もいるだろう。だがお前達はその武器以外の使用は禁止だ。わかったか!」
ドワイト班長の視線が、一瞬だけマイトランドとジェラルトの木剣に向いた。
「個人の力で優勝を取りに行くもよし、班全体で動くもよし。それはお前達が決めろ。」
「ああ、後もう一つ。他の班は班長が作戦を考えるが、俺は面倒な事はしない。部屋長が班をまとめるのは当然だろう。そうだな……。」
ドワイト班長はそう言うと横隊中央を指差し、
「デカ物!部屋長としてお前が作戦を考えろ!わかったか!」
「イエッサー!」
ヘクターは動揺しながらも罰則を恐れてか、反射的に返事をした。
ドワイト班長はヘクターの返事を確認すると、懐から丸まった羊皮紙を取り出し目の前に出した。
「よし、貴様らはさっき俺に優勝すると言ったな。優勝できた時にはご褒美をやろう。この羊皮紙にご褒美が書いてある。コリンズ伍長に渡しておくから優勝したら確認するように。優勝できなかった場合には普段の罰則を5倍に増やす。わかったか!」
「「「イエッサー!」」」
「そうそう、武器の手入れ不足や、作戦の準備不足、班長の救護遅延で死人が出る年もあるからな。もちろん俺は助けんがな。」
ドワイト班長はそこで薄く笑った。
「気をつけろよ。では解散!」
そう言い残すと、その場を去って行った。
『やって見せ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ。』
とはよく言ったもので、その真逆の行動をするドワイト班長の言葉に、マイトランド以外の全員が意気消沈していた。
「皆、よく考えてみろ。勝てばいいんじゃないか?まだ二日もあるんだ。兵站を考えなくていい模擬戦なら必ず勝てる!」
マイトランドのこの言葉に、ジェラルトとジョディー、クリス達は息を吹き返した。
「そうだ!あたいもそう思うよ!勝てる!」
ジョディーがそう言うと、ジェイクが反論した。
「馬鹿言えよ。マイトランド、お前木剣だろ?青銅武器を貰った俺達を焚きつけて、自分は楽しようって魂胆だろ。見え見え過ぎて吐き気がするぜ。」
マイトランドはジェイクに微笑むと、
「ジェイク、俺はそんな卑怯者じゃないさ。一緒に戦うに決まってるだろ?」
「じゃあ今やってみるか?俺のこの斧とお前の木剣どっちが強いか試そうぜ。」
ジェイクは両手で大斧を構えると、にやりと笑った。
「ここにいる全員、よく見とけよ。どちらが死んでも恨みっこなしだ。それが条件だ。」
マイトランドはジェイクが構えているのを余所に、ジェラルトに尋ねた。
「ジェル、あれを頼めるか?」
「あぁ、どれくらいだ?」
「そうだな、青銅だからな。1割位で頼む。ジェイクは貴重な戦力だ、怪我はさせたくない。」
「わかった。」
ジェラルトは無言で右手をかざした。
次の瞬間、マイトランドの左右の木剣の周囲で空気が渦を巻き、甲高い風切り音が走った。
木剣の刃に沿って薄く透明な風の層が纏わりつき、刃先が僅かに歪んで見える。
それはほんの数秒の出来事だったが、周囲の班員達は思わず息を呑んだ。
「オッケーだ。」
そう言ってジェラルトはその場から立ち去った。
ジェラルトが目の前から立ち去ると、マイトランドは木剣を構えてジェイクに合図した。
「ジェイク、いいか?」
「俺はいつでもいいぜ!」
ジェイクはマイトランドの準備が整ったのを確認すると、大斧を突き出しながら距離を詰めた。
ジェイクが一歩前に出ると、マイトランドが半歩下がる。
得物が大きい分、マイトランドはすでにジェイクの間合いの中にいた。
横薙ぎの一閃。
マイトランドはその軌道を読んでいたかのように身を低く沈めると、頭上を薙いだ刃をやり過ごしながらそのままジェイクの懐へと飛び込んだ。
ジェイクは大斧を素早く上段に構え直すと、間合いに入ったマイトランドめがけて振り下ろした。
マイトランドはその振り下ろされた大斧の持ち手に近い柄の浅い部分めがけて木剣を振るう。
2人の武器が交差した瞬間、甲高い音が響いた。
マイトランドの木剣が叩きつけたのは斧刃ではなく、持ち手に近い柄の浅い部分だった。木剣の力が最も乗る中ほどでそこを打ち抜いた瞬間、スパーンという音と共にジェイクの斧刃が宙を舞った。
手応えがなかった。振り下ろしたはずの大斧が、気づけば柄だけになっていた。
次の瞬間には、マイトランドのもう一本の木剣がジェイクの喉元手前で止められていた。
周りから見れば圧倒的なマイトランドの勝利だった。
「マジかよ。嘘だろ。俺の負けだ。」
ジェイクはそのままがくりと地面に膝を落とした。
誰もがジェイクの青銅の大斧の勝利を信じていた。もちろんジェイク本人も。
だが結果は誰が見ても圧倒的なマイトランドの勝利だった。
マイトランドは無言で手を差し出した。
ジェイクは無言でその手を取ると立ち上がった。
しばらく2人は無言だった。
ジェイクはマイトランドの手を借りて立ち上がったまま、自分の手の中に残った大斧の柄をじっと見つめていた。
「……お前、本当に木剣だけで勝つつもりだったのか。」
独り言のような呟きだった。
「ジェルの異能があったからだよ。俺一人じゃ無理だった。」
マイトランドがそう答えると、ジェイクは少し間を置いてから口を開いた。
「……わかった。信じてやる。」
それだけ言うと、ジェイクはぶっきらぼうに視線を逸らした。
マイトランドは小さく笑うと、他の班員達を見渡して言った。
「皆の異能についても教えてくれ!もちろん教えてもらうだけじゃない。一緒に最優秀班になれる方法を考えよう!」
マイトランドがそう言うと、ルークを除く班員達全員が息を吹き返し、マイトランドの傍に集まった。




