第9話「盤面は整った」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
ジェラルトは全ての異能を話し終えると、羊皮紙を覗き込みながら言った。
「まぁ、こんなところだな。こう見ると俺達先生が良かったと思うよ。」
自分達の異能の良さを師に感謝する、ジェラルトの報告によれば、班員の異能はマイトランドが予想していたよりもはるかに優れていた。
——異能は自己申告だ。本人が気づいていない異能もある。フランがいい例だ。ひよこ選定と言っているが、あれは職業スキルじゃない。微細な差異を瞬時に見抜く力——本人はまだそれが異能だとわかっていない。
マイトランドはそう思いながらも、リストに目を落とした。
「ジェル、俺達は仲間に恵まれたな。これだけ揃っていれば——あとは地形次第で勝てる。」
フィンは土木、初級鍛治、船大工、設計、茶葉選定。
シュウは初級槍術、馬上槍術、俊足、初級雷魔法、樹上作業。
フランはひよこ選定、裁縫、初級火魔法。
ポエルは隠密、初級弓術、特殊弓術、初級馬術、樹上作業。
クリスは中級水魔法、中級雷魔法。
ジョディーは初級大剣術、初級弓術、初級馬術、初級馬上弓術、初級土魔法、薬の知識、初級神聖魔法。
アルベルトは投擲、初級薬草学、状態異常耐性。
ヘクターは初級斧術、初級棍棒術、初級伐採術、痛覚鈍化、初級操盾術、初級神聖魔法。
スナイダーは種の知識。
フォルカンは裁縫。
アダムスは木工、念話、初級片手斧術。
イブラヒムは木工、念話、掘削。
ジェイクは、タウント、鉄壁、攻城、中級斧術、異能ブースト。
ダン、エリオット、ロブはなし。
アツネイサは初級槍術、初級剣術、水中移動、隠密、中級水魔法、鉄壁。
トッドはなし。
ルークは、欺瞞、健啖家。
一部異能とは呼び難い物も散見されたが、それ以外はマイトランドにとって収穫は大きかった。
マイトランドが異能の情報を纏め、編成を考えていたところで、ジョディーが全ての班員を集結させた。
マイトランドは一旦作業を中断し、皆の前に移動すると、作戦会議に移行した。
「まず聞いてほしい。この作戦計画は俺が考えた事だが、不安に思う事、わからない事があったら、その都度質問してくれ。作戦の変更も大いにアリだと思ってる。」
班員全員が頷くと、マイトランドは続けた。
マイトランドの説明は非常にわかりやすくされていた。
要点はこうだ。
模擬戦の戦闘地域は初回に限り首都近郊のファルマース演習場を使っている。
この演習場は概ね4つの地域に分類される。森林、岩場のある小高い丘、湿地、平野があり、マイトランドの班は森林に布陣する。
例年、平野では平民班が騎兵に蹴散らされ、岩場では足が止まったところを魔導砲撃で一網打尽にされる脱落班が多い。つまり湿地や森林のように騎兵の足が止まりやすい場所でなければ、平民班は生き残れない。
森林への布陣はマイトランドが決めたことだが——果たしてドワイト班長が演習場の地図を用意していたのは偶然だろうか。
そして今回の模擬戦は2日間の大将戦であるということ。マイトランドの班のリーダーはヘクターで、ヘクターの負けは敗北を意味する。
次に、模擬戦の編成は、
貴族1班 フリオニール・フォン・グレッテ 重装騎兵20名
貴族2班 グレンダ・フォン・ロンメル 軽騎兵20名
貴族3班 エルンスト・フォン・ベルナー 騎兵20名
新貴族1班 フレデリカ・アルドリック 騎兵20名
新貴族2班 ライナー・クリシュマルド 騎兵20名
新貴族3班 ヨーゼフ・アルファイマー 魔導砲撃騎兵20名
新貴族4班 ゲシュハルト・エルドナーレ 弓騎兵20名
その他平民班53班 歩兵21名から24名
新貴族とは金を払って貴族の称号を得た者達のことだ。主に商人や地主といった富豪の家系が多い。
なぜ彼らが騎兵を率いているのか。答えは単純だ。馬も装備も金で買える。平民には到底用意できない騎兵を揃えられるのは、金を持つ者だけだ。
名前を見た瞬間、マイトランドの目が止まった。
アルドリック——軍人家系の名だ。名誉貴族位により新貴族となった者の中でも、その出自は異色だろう。
マイトランドはそれ以上考えることなく、視線を次の行へ移した。
この内、気を付けなければいけないのが弓矢の効果の薄い重装騎兵と、他の騎兵よりもフットワークが軽く速度を重視している軽騎兵、射程を生かし一撃離脱戦法の弓騎兵であり、どれも歩兵に対してはかなり有利であること。
さらに騎兵グループは普段から平野で訓練しているのか、平地における練度が恐ろしく高いだろう。証拠に毎回初回模擬戦の優勝は騎兵を指揮している班のどこかだ。
魔導砲撃騎兵に関しては、前衛がいないため、大した脅威にはならないこと。
「ちなみに俺達の班の人数は?」
誰かがそう尋ねると、マイトランドは苦笑いを浮かべた。
「18名に女性部屋から3名の計21名だ。30名の予定だったんだがな。どこにも書いていない。」
しばらく沈黙が続いた後、ジェラルトが口を開いた。
「ちょっと待てよ。30名のはずが21名って、足りない9名分の腕立て伏せまで俺達がやらされてたんじゃないのか?」
どっと笑いが起きた。
森林地域に布陣したらすぐにフィンの指揮で陣地構築し、馬防柵、パイク、落とし穴などの罠を配置する。土木と設計の異能を持つフィンにしかできない仕事だ。
森林入口2カ所にジェラルトとアダムス、ポエルとイブラヒムを配置し、騎兵、敵兵の発見を鏑矢の方向により知らせる。
平民班が森林に侵入した場合は、2度連続で鏑矢を侵入方向に射出し、遊撃隊をもってこれにあたる。遊撃隊の編成はマイトランド、ジョディー、ジェイク、アツネイサ、シュウの5名。
演習場は何かの魔道具なのか、全ての人員が、どんな攻撃を受けた場合でも、瀕死の状態で体力が残るため、各班の班長がそれぞれの班の新兵の安全を守り、危険だと感じた場合、すぐに危険な新兵を救出する手はずになっていること。
そこまで説明し終えると、マイトランドは班員達を見渡した。
「ここまでわからないことや、質問はあるか?」
マイトランドの説明に班員達は沈黙をもって異論がないことを示すと、それを確認したマイトランドは続けた。
「ではフィンとアルベルトから新しい装備を受領して解散しよう。今夜みんなで手を動かして作ったものだ。使い心地は保証できないが——信頼は保証する。」
そう言うと、皆と同じ装備受領の列に加わった。
全ての班員が装備を受領すると、マイトランドは解散の指示を出した。
騒がしかった47号室が、久しぶりに静かになった。
その静寂を破るように、消灯前にルークがマイトランドのベッドにやってきた。
「マイトランド。伝えるか迷ったんだけど、どこかはわからないけど、新貴族の班がマイトランドとジェラルトのことを聞き回っていたみたいなんだ。」
マイトランドは編成表にもう一度目を通しながら、頭の隅でルークの異能を思い出した。
——欺瞞。嘘をついても動じない異能だ。だがこの消灯間際に、わざわざ迷いながら報告しに来た。それは欺瞞ではない。
新貴族の班——4つある。どこかはわからない。
マイトランドはにやりと笑った。
「ルークありがとう。ルークのおかげで、最優秀班はほぼ決まったよ。明日も引き続き頼む。」
そう伝えると、何のことかわからないルークを尻目にその日は就寝した
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