第5話「裏切り者」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
マイトランドが検査場の外で待っていると、ジェラルトが出てきた。
「終わったぜ。」
「どこの兵科を希望したんだ?」
「あぁ、馬を貰ったろ?馬術の異能が発現してたぜ!だから騎兵科だ。マイトランドはどこにするんだ?」
「俺もジェルと同じにしようと思う。参謀本部は基本的にどの兵科からも所属できるしな。騎兵科は馬が使える分、歩兵科よりも生存率が高い。遠距離攻撃や、パイクを警戒すればの話だけどな。」
パイクとは歩兵による待ち構え戦法のことだ。騎兵は突撃時このパイク攻撃に非常に弱い。その反面、フランキング——翼包囲——や速さを生かした側面攻撃などにより、他の兵科と違い、決戦を左右しうる戦力であるため、基本的な生存率は高い。
そんな2人の会話にジョディーも参入してきた。
「あんたら、よく調べてるんだね。あたいも、あんたらと同じ兵科を希望するよ。」
「いや、お前馬乗れるのか?無理だろ。」
「あんたらで乗れるなら、あたいだって乗れるさ。少しは乗ったこともあるんだ。」
ジョディーとジェラルトがまた言い争うと、マイトランドが神妙な顔になり、
「ジェルと同じ意見になってしまうが、ジョディー、今は歩兵科を希望したほうがいい。俺達の様に、命令違反を犯す必要はないだろ?弟の事だけを考えるんだ。」
そう言ったマイトランドにジョディーは怒ったように大声を上げた。
「あんた!あたいらに死ねって言ってるのかい!」
マイトランドは両手をジョディーの肩に置き宥めながら言った。
「どうしてそうなるんだ。」
「あんた、さっき生存率が低いとか、どうのこうの言ってたじゃないか!」
「それはあくまで平均の話だ。戦場となれば後方兵科以外、どの兵科だろうが死ぬものは死ぬ。そんな事よりも、教育期間満了までに、俺達以外の仲間が目をつけられて欲しくない。」
「あ、うん、わかった。あたいに任せな。」
このジョディーの生返事が本当にわかっているのかと疑問に思うマイトランドだったが、その疑問はこの後的中することとなる。
ジョディーが検査から戻ってくると、マイトランドに耳打ちした。
「あたいも、クリスも騎兵科にしたよ。」
やってくれたといった感じで、両手で顔を覆いため息をつくマイトランドに、ジェラルトが笑いながら、
「俺は、なんとなくだが、騎兵科を希望するんじゃないかって気がしてたぜ。あいつ絶対お前に気があるわ。」
ジョディーが歩兵科を選んでいたら、得られる情報もあったのに——マイトランドはそう思いながらも、何も言わなかった。自分の思惑と逆の事をされ、検査の順番が来るまでうなだれる結果となった。
班の最後だったマイトランドの順番がやってきた。
身体測定を終えると、筆記試験だ。読み書きと基礎的な計算が中心だった。資料館で読み漁った知識のおかげで、苦もなくこなせた。
それが終わると異能検査だ。
マイトランドは紙に向かい、アランから習ったことを一つ一つ思い出しながら書き出した。
双剣術、特殊双剣術、馬術、馬上双剣術、中級剣術、特殊剣術、馬上剣術、情報操作、気配察知、初級土魔法。
全てアラン先生から教わったものだ。書き出しながら、マイトランドはふとアランの顔を思い出した。あの変わり者の先生は、今どこにいるのだろうか。
紙を試験官に提出すると、試験官は一覧に目を通し始めた。最初は無表情だったが、途中で眉がわずかに動いた。
「……情報操作、気配察知。新兵でこれを持っている者は珍しい。どこで習った?」
「はい、先生から習いました。」
「その先生とは何者だ?」
「アラン・ウォルキンスといいます。今はどこにいるかわかりません。」
試験官はしばらくマイトランドを見つめてから、何も言わずに紙に記入した。
「ラッセル2等兵、希望兵科はどこだ?」
「はい、騎兵科を希望しています。」
「お前もか。この班は何人目だ?」
試験官が別の試験官に確認すると、
「16名です。」
ジェイク、ロブ、ダン、エリオットの4名以外は全員騎兵科を希望したことになる。マイトランド達の話を聞いていたからだろう。
アツネイサが騎兵科を希望したと聞き、リザードマンと人間のハーフが馬に跨る姿を想像し笑いをこらえながら、マイトランドは試験官に尋ねた。
「あの、全員適性があったという事ですか?」
「それなんだがな。機密にあたる事項で新兵の諸君には伝えることができんのだ。」
なんだか含みを持たせるような言い方だったが、自分の適正結果が気になり、試験官に尋ねた。
「あの、自分の適性はいかがだったでしょうか。」
「ラッセル2等兵、騎兵科適正有!」
羊皮紙に書き込まれるのを確認すると、マイトランドは試験官に対し丁寧に一礼し、部屋を出た。
マイトランドを最後に、班全員の検査が終わったので、班は建物の外に出た。
建物の外には笑顔のドワイトが待っており、当然の様に大声で叫んだ。
「お前達!全員歩兵科を選択しただろうな!」
「「「イエッサー!」」」
班全員で答えると、よほど嬉しかったのか、ドワイトは更に上機嫌になり、
「そうか!班長の様になりたいだろう!よしよし!素晴らしい!デカ物!隊舎まで引率せよ!罰則は無しにしてやる!」
事情を知っているだけに、マイトランドは内心複雑な気持だったが、罰則が無いことはいいことだ。そう思い、少しホッとすると、
「班長!マイトランドとジェラルトは騎兵科を選択していました!2人の話を聞いていたから間違いないです!」
そう声を上げたのは、マイトランドの予想では歩兵科のどちらかを選択したであろう、ルークであった。




