第4話「今日はまだ初日だ」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
腕立て伏せが終わると、班員たちはそれぞれ疲れた様子で肩を回したり、腕をさすったりしていた。ルークは地面にへたり込んだまま動かない。ジェイクは涼しい顔で腕を組んでいた。
しばらくして、班長のドワイトはマイトランド達全員に聞こえるように言った。
「いいか、これからはマイトランドとジェラルトの罰則を2倍とする。腕立て伏せができない、できなくなったものは代わりに2人に押し付けることを許可する。これは決定事項だ。いいな!」
「「「イエッサー!」」」
「それでは、これから身体検査、異能検査、希望兵科の調査を行う。よって検査場所まで移動する。部屋長は俺の位置まで駆け足で前進せよ!」
「イエッサー!」
ヘクターは大声で返事をすると、その大きな体を懸命に動かしてドワイトの元へと駆けた。顔には緊張が滲んでいた。先ほど殴られたばかりだ。また何かやらかすのではないかという恐怖が、その背中から伝わってくるようだった。
ドワイトの位置まで辿り着いたヘクターに、ドワイトは続けた。
「貴様が検査場まで班の行進を引率しろ!1、2、1、2と大きな声でハッキリと呼称し引率せよ!」
「イエッサー!」
ヘクターが元気よく、1、2、1、2と呼称し始めると、班員たちが一斉に歩き出した。だが揃っているとは言い難い。右足から出る者、左足から出る者、そもそも足と手が一緒に出ている者まで、てんでバラバラだった。列もみるみるうちに蛇行し始め、ルークに至ってはまだ動き出してすらいなかった。
「違う!左足が1だ!全員腕立て伏せの姿勢を取れ!」
言われるがまま、班は腕立て伏せの姿勢を取った。
こんな説明不足の状態で開始される新兵による行進は、指摘できる部分が山ほどあり、検査場と呼ばれる建物まで、実に42回の罰則を科せられた。
ルークの分、脱落者の分をマイトランドとジェラルトで半分にし、1000回以上にも渡る腕立て伏せを実施し終えるまでに、開始時、頭の上にあった太陽は傾き、日も暮れようとしていた。
検査場の入口でドワイトが待ち構えていた。
一人一人に検査の札を渡すと、去り際に、
「貴様ら!希望兵科は俺と同じ歩兵科か重装歩兵科にせよ!いいな!」
「「「イエッサー!」」」
そう強く言い残すと、建物の外に出た。
マイトランド達が検査場に到着した時には、他の全ての班はすでに検査を終えた後だった。おかげで検査場はガランとしており、マイトランド達だけがその場に残されていた。
「おいマイトランド。ありゃねーぜ。俺達だけ目の敵にされて。俺はもう腕が上がらないぜ。」
ジェラルトがドワイトの文句を言うと、マイトランドは苦笑いで答えた。
「あぁ、全くだ。でも俺は命令に従おうと思う。希望兵科以外はな。実際こんなもんでへばってたら、首席なんて夢のまた夢だろ?いい訓練ぐらいに思うさ。」
「わーったよ。付き合うぜ。」
ジェラルトがしぶしぶといった感じでマイトランドに同意すると、マイトランドの後ろから小声でジョディーが話しかけた。
「あんたら、何したんだ?初日から目を付けられるなんてさ。ルークなんかは嬉しいだろうけどさ。あたいは複雑さ。」
マイトランドはまた苦笑いで答えた。
「何もしてないさ。でも想像はできる。まぁ気長に行くよ。」
「こんなこと言うのもアレなんだけどさぁ、あんたら根性あるね。腕大丈夫かい?気休めにしかならないけど初級でよければ、回復魔法かけようか?」
「心配してくれてるのか?ジョディーは優しいな。ありがとう。でも大丈夫だ。これぐらい何ともない。」
マイトランドが答えると、ジョディーは顔を赤くして、
「そうかい、ならいいんだ。だけど本当にキツくなったら言っておくれよ。それとさ、さっき首席がどうのって言ってたけど、本当に狙ってるのかい?」
「ああ、狙ってる。」
「貴族や新貴族もいるのにどうするのさ。」
「そんなの簡単だろ?勝てばいいだけだ。」
マイトランドの平然と言い切る態度に、驚きを隠せないといった顔でジョディーは尋ねた。
「どうやって?方法でもあるってのかい?」
「そうだな。あるよ。まぁ見てな。」
「わかったよ。それならあたいも協力するよ。あんたが首席ってことは弟の進路もなんとかなりそうだしね。」
「あぁ、そうしてくれると助かるよ。仲間は多いほうがいい。ありがとう。」
こうしてマイトランドとジョディーの間に、暗黙の同盟が結ばれた。
そんなマイトランド達の会話に入れなかったジェラルトがジョディーに尋ねた。
「おい男女、なんでお前顔が赤いんだ?まさかマイトランドの事好きなのか?」
ジェラルトは恋愛に関しては子供である。恋愛経験など皆無に等しい。したがってこの様な発言しかできない。
「あんたねぇ、いい加減にしなよ。あたいはただ、自分が恥ずかしくなっただけさ。班員を見て無理だと決めつけてた自分自身がね。本当に恥ずかしい。」
「なーーーんだ。そうか。つまんねーな。」
「うるさいね。あとあたいはジョディーだ!女だ。次言ったら殴るからな。」
「わーったよ。うるせーな。」
そんな会話をしていると、ジェラルトの番がやってきた。
「じゃあマイトランド、お先!」
「あぁ。」
ジェラルトが検査場に入っていくのを見送ると、マイトランドは壁に背をもたせかけて待った。
静かだった。
1000回以上の腕立て伏せをこなした腕は、じんじんと痺れていた。だが不思議と嫌な気持ちはなかった。
フルブライトの言葉が頭をよぎった。
「首席で修了せよ。」
マイトランドは目を閉じ、自分に言い聞かせた。
今日はまだ初日だ。
まもなく、ジェラルトが検査場から出てきた。
身体検査は基本的な身体測定だ。身長、体重、肺活量、脈拍などを測定し、軍人として健康であるか、また正常であるかなどを検査する。それが終わると筆記試験があった。読み書きと基礎的な計算が中心だった。資料館で読み漁った知識のおかげで、苦もなくこなせたとジェラルトから聞いた。
続いて異能検査、最後に兵科調査という流れだとも教えてくれた。
ジェラルトが書き出した異能は——
初級風魔法、中級剣術、特殊剣術、初級短剣術、特殊短剣術、初級槍術、隠蔽、隠密、偽装、初級馬術、初級馬上剣術、馬上槍術。
以上であった。
兵科調査でジェラルトは騎兵科を希望した。試験官は異能の一覧に目を通すと、少し眉を上げてからペンを走らせた。
「ジェラルト・ランズベルク2等兵、騎兵科適正有!」
入れ替わりで、マイトランドの番がやってきた。




