第3話「300回」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
その笑顔の軍人は、マイトランド達18名のちょうど中央付近に2歩ほど離れて立つと、別の場所で指示をされたのだろう、プラスアルファのジョディー達3名が来るのを待って、21名のちょうど中央に立ち、口を開いた。
「注目!俺は今日からお前達アヒルの班長であるドワイト軍曹だ。これからは班長と呼べ!返事はイエッサーだ!それ以外は返事と見做さない!わかったか!」
「「「イエッサー!」」」
「よし、それでは部屋長を決める。部屋長とは俺の指示を部屋全体へ伝える伝令係だ。リーダーでもなんでもない、俺の使い走りだ。右から三番目のでかいアヒル!お前だ!」
右から三番目はヘクターである。ヘクターは気弱な性格だ。当然返事が遅れた。
するとドワイトは、
「おい、貴様、俺の声が聞こえなかったのか?」
そう言ってヘクターに近寄り、拳を握ると、いきなりヘクターの顔面を殴りつけた。
「い、い、イエッ……あ、い、その……。」
ヘクターは何を言えばいいのかわからず、口をぱくぱくさせるだけだった。ドワイトはそれを見て続けた。
「貴様、俺への返事がわからんか!」
「イ、イエッサー!」
殴られたヘクターは恐怖からか、訳が分からないといった感じで、つい先ほど教えられた返事をしてしまった。
「そうか、わからんか。連帯責任だ。全員腕立て伏せの姿勢を取れ!」
「「「イエッサー!」」」
そう言うとドワイト自らも腕立て伏せの姿勢を取り、マイトランド達全員に腕立て伏せの姿勢を促した。
「俺が数を呼称する。貴様らはその呼称に続き腕立て伏せをしろ!」
「「「イエッサー!」」」
皆で10回終えると、腕立て伏せの姿勢を解除され、班長に正対した。
「いいか、何かある度に罰則だ!全員で腕立て伏せをする。わかったか!」
「「「イエッサー!」」」
「部屋長は貴様だ!デカ物!」
「イエッサー!」
ヘクターも皆には迷惑をかけられないとばかりに大声で返事をした。
これを見ていたジェラルトがマイトランドに話しかけた。
「あの班長さ、ちょっとヤバイ気がするわ。他の班見てみろよ。どこも腕立てとかしてないぜ。」
ジェラルトの声に気付いたのか、ドワイトが、
「おい!誰が私語を許した!今喋ったやつは一歩前へ出ろ!」
「イエッサー!」
ジェラルトが返事をして一歩前へ出ると、ドワイトは再び拳を握り、今度はジェラルトの腹へと殴りつけた。
「貴様、俺は私語を許していない!勝手に口を開くな!全員腕立て伏せの姿勢を取れ!」
そう言ってまた自ら腕立て伏せの姿勢を取った。
また全員が腕立て伏せの姿勢を取ると、腕立て伏せを始めた。
「1、2、3」
丁度3までドワイトが数え終えると、ドサッという音と共にルークが地面に吸い付いた。
「も、もうできませーん。」
ルークは控えめに言ってデブだ。ありていに言えば脂肪の塊だろう。先の10回すらも、まともに熟せてはいなかった。
「おい、クソデブ!貴様が続けない限り、腕立て伏せは終わらんぞ!」
ドワイトがそう言うと、ルークはしばらく地面に頬をつけたまま動かなかった。
やがてゆっくりと顔を上げると、その目には涙でも怒りでもなく、純粋な諦めが浮かんでいた。
「僕もう帰る!軍隊もやめる!」
それだけ言って立ち上がると、走ってその場を後にしてしまった。
「貴様ぁぁぁぁ!」
ドワイトはそう言って、鬼のような形相で立ち上がると、
「貴様ら!俺が戻るまでその姿勢でいろ!」
そう言い残し、ルークを追って行った。
ドワイトがマイトランド達のいる場所を去って少しすると、ジェイクが腕立て伏せの姿勢を解き、その場に座った。
「おい、お前ら、いつまでその姿勢でいるんだ?班長殿が帰ってくるまで適当に座ろうぜ。あのデブ連れてくるまで結構時間かかりそうだしよ。」
ジェイクの言葉に反応して、エリオット、ダン、ロブの3人もその場に座り込んだ。
ジェラルトは目でマイトランドにどうするか確認した。
マイトランドは無言で前を向いたまま、微動だにしなかった。
ジェラルトにはそれで十分伝わった。
ジェラルトは小さく舌打ちしながら、姿勢を継続した。
また少しすると、トッドも脱落、続いてアルベルト、フィッツロバートも腰を下ろした。
どれくらい経っただろうか、マイトランド、ジェラルト、ジョディー以外の全ての班員達が諦め、その場に座った。
あの班長の声がした。
「早くしろ、このクソブタ!」
3人以外の班員が慌てて腕立て伏せの姿勢に戻ると、顔を腫らせて痣だらけになったルークを引きずり、ドワイトが帰ってきた。
「よしよし、しっかり姿勢を取っているな。」
ドワイトがそう言うと、投げ捨てるようにルークを列に戻した。
「よし、腕立て伏せを再開する。」
ドワイトが腕立て伏せを始めようとすると、
「ドワイト軍曹、少しお待ちください。」
ドワイトの腕立て伏せを遮るように、マイトランドの後ろ辺りで声がした。
その声はこう続けた。
「私から見て、左から7番目、8番目、20番目以外は休んでました。厳密に言えば最後まで同じ姿勢でいたのは7番目と8番目だけです。20番目は片手を後ろに回して休んでましたね。」
「本当か?コリンズ伍長?」
「はい。最初から最後まで見ていました。間違いありません。」
「よし、よろしい!7番目8番目、名前をその場で言ってみろ!」
ドワイトがそう言うと、2人はその場で名前を名乗った。
「マイトランド・ラッセル2等兵です!」
「ジェラルト・ランズベルク2等兵です!」
2人がそれぞれ名前を言うと、ドワイトはにやりと笑い、
「貴様らがマイトランドとジェラルトか。」
「「イエッサー!」」
2人が返事をすると、ドワイトはニヤリと笑い大声で叫んだ。
「よし!他の者は腕立て伏せの姿勢を解け!2名には他の者の分を実施させる!本来この班は30名のはずだった。欠員が出たのはお前達の責任だ。10回×30人分、300回実施せよ!」
連帯責任とは名ばかりだった。
普通に考えれば、姿勢を保てなかった者がやるべきではないのか。
結局のところ、最後まで姿勢を保った2人に全ての責任を押し付けただけだった。
ジェラルトは、なぜこうなったと言わんばかりの顔でマイトランドを見た。
マイトランドはただ頷き、2人は300回分の腕立て伏せを終了した。




