第120話「あんた結婚してたのか」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
翌日になって、マイトランド達は早速行動を始めた。
「ジェル、俺の帝国軍の軍服を着て、3日ほど帝国軍正面の敵軍団を、色々な場所で敵に見つかるように偵察してくれ。交戦は絶対に避けてくれ。これは危険な任務だ、お前にしか任せられない。頼まれてくれるか?」
「いいけどよ、なんでだ?」
「気休め程度ではあるが、敵に帝国軍の大規模攻撃を匂わせる為だ。帝国軍正面の敵部隊を、帝国軍に張り付けておこう。」
「ああん?実際に帝国が動かないんじゃ意味がねえだろうよ。」
「その辺は大丈夫だ。昨日お前の名前で、仲間に手紙を送っているからな。ああ、後、言い忘れたが俺とポエル、アツネイサ、それにアダムに支援魔法を付与しておいてくれ。」
「なんで俺の名前なんだ?まぁいいか。手は打ってあるんだな。ならすぐに出発するぞ。」
昨夜、兵舎の隅で、マイトランドは一通の手紙を書いていた。
ランプの灯りの下、差出人の欄には、自分ではなくジェラルトの名を記した。帝国の砦に「マイトランド」の名で手紙が届けば、余計な詮索を招きかねない。ジェラルトの名であれば、国境を越えた兵士同士の、ただの私信で済む。
”親愛なるフリッツへ
先日は世話になった。砦で過ごした日々のことは、まだ昨日のことのように覚えている。
こちらは相変わらずだ。近いうちに、こちらの第2軍が南へ大きく動く。12月27日だ。
そちらの正面にいる連中が、その頃こちらへ顔を向けないでいてくれると助かる。
無理な頼みなのは承知している。できる範囲で構わない。
追伸
第18軍団の山菜は、足りているだろうか?
ジェラルト・ランズベルク”
帝国の砦で、マイトランドは「山菜の坊主」と噂になっていた。
追伸の一行を読めば、フリッツには本当の差出人がわかるはずであった。
手紙は、国境を行き来する軍の連絡便に、私信として預けた。返事がいつ届くのか、そもそも届くのかどうかも、わからなかった。
「ああ、頼んだ。遅くとも3日で戻ってくれ。」
マイトランドがそう言い終える前に、ジェラルトは準備の為かその場から立ち去ってしまった。
ジェラルトが出て行くのを確認すると、マイトランドはポエルとアツネイサの方を向き、それぞれに任務を伝えた。
「ポエルは異能を使いつつ敵情の観察、アツネイサは主戦場となるトレーナの平原のチェック、俺はトレーナ城を直接見に行く。アダムは少し離れたところで待機して、アツネイサ、ポエルが戻ってする報告を、逐一イブに羊皮紙に書き写させてくれ。」
「了解。」
「リョウカイ。」
「了解だ。」
ポエルと、アツネイサ、アダムスが次々に返事をすると、今度はミシェル、トーマス、セリーヌの方を向き、任務を伝えた。
「ミシェル、セリーヌ、トーマスは、今日と明日で、今回の攻勢作戦に参加する各部隊、各師団を、協力して巡り、訓練の内容と司令官の人となりを、じっくりと詳細に調べてくれ。准将から聞いた話の、裏を取りたい。それともう一つ、戦線前面に配置される、重装歩兵師団の各連隊及び大隊の練度を見てきてくれ。実戦経験の浅い重装歩兵だ、最後の最後まで訓練をするだろう。俺が明後日に戻るまで観察しといてくれ。」
「「「了解した。」」」
同じ新兵であるが、ドワイト分隊で言えば、3名は新参であった。もちろんのこと分隊加入までマイトランドの事は全く知らなかったが、先の敵連隊規模の撃破で、マイトランドの事を認める様になっていた。
「俺は何をしたらいいか?昇進の為には、なんでもさせてもらうぞ?」
イブラヒムを除き全員に指示が終わると、ドワイトがマイトランドに嬉しそうに尋ねた。
「分隊長は……。そうですね。最悪はこの兵舎になりますが、イブが待機できる場所を探して下さい。その後は、そうですね。キスリング連隊の射撃練度の確認、それからキスリング大佐との渡りをつけて下さい。」
「わかった。それで?今回成功したらどれぐらいの功績になって、俺はどれくらいまで昇進できるんだ?准将を味方につけたんだ、前回のお前の功績と合わせて、大尉ぐらいまではいけそうか?」
「はい?帝国の様に、十字賞がもらえる訳ではないんですよ。そんなに一気に昇進できるわけがないでしょう。さしづめ少尉がいい所でしょう。あとは成功してみて、准将の裁量の範囲内ってとこですよ。分隊長が新兵教育で一階級上がったのも奇跡だっていうのに。」
「そうか。うん。少尉か。ドワイト少尉か。良い響きだ。30で少尉なら、あの方に言われて騎兵兵科に兵科転換した甲斐もあったってもんだ。妻もきっと喜ぶぞ。」
そう言うと、急に笑顔になり、マイトランドの肩を掴んだ。
マイトランドには、あの方が誰なのか、おおよその見当がついていた。だが、そんな事よりも、こんな性格のドワイトが結婚していた事に驚き、強く掴んだ腕を振りほどくとドワイトに尋ねた。
「あんた結婚してたのか。」
「お前、隊長に向かって、あんたとはなんだ。」
「いや、ちょっとびっくりしたんで。新兵教育を終えたあたりから、分隊長なんかおかしくないですか?こんな性格だったかなと思ってはいたけど、変わりすぎじゃないですか。」
「厳しかっただろう?新兵教育とはそんなもんだ。」
マイトランドが納得できずに、2人が話し終えてからしばらくすると、連絡員が兵舎に入って来た。
「ドワイト曹長、ラッセル2等兵は、至急同行し、旅団司令部へ参られよ。」
ドワイトは先ほどの笑顔とは打って変わり、真剣な表情になるとマイトランドと共に、旅団司令部へと向かった。
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