プロローグ第十話「アルディマント」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
10ヶ月後、首都から帰った2人は村の異変に気付いた。
村の中央に村人という村人がすべて集まっていたのだ。
「おぉ!マイトランド、ジェラルト、最近どこに行っているかわからないと思ったら!お前達今度は何したんだ!首都から役人が来てるぞ!」
そう言ったのはジェラルトの父親だった。
不思議に思った2人は、村の中央の人込みをかき分け中心へと進む。
中心には鎧を着た兵士が2人、4頭の馬を連れて、誰かを待っているようだった。
「あのぉ、マイトランドとジェラルト・ランズベルクです。自分達に何かありましたか?」
兵士はマイトランド達に正対し、手に持っていた羊皮紙を肩の位置まで上げると、読み上げた。
「故アルドリック将軍夫人、故ベルナード将軍夫人からの感謝の馬である。拝領せよ。」
そう言って、2頭の馬の手綱をマイトランドとジェラルトに渡す。
マイトランドには茶色の馬、ジェラルトには黒い馬だった。
「続いて、故ラーム将軍御父君よりの感謝の品を拝領せよ。」
兵士はそう伝えると、2人に箱を手渡す。
「続いて、故トランガ少将夫人と兄君よりの感謝の品を拝領せよ。」
兵士は、また別の長細い箱を2人に手渡す。
「私たちはこれで失礼する。目録大切に扱うように。では。」
そう言ってその場を去って行った。
兵士が去ると、村人たちが2人を囲み騒ぎ出す。
「お前達いったい何をしたんだ?」
「すごいじゃないか!感謝の品をもらえるなんて!見直したぞ!」
皆思い思いの言葉を口にする。
ジェラルトの父親も、
「少し前までは、毎日遊びほうけて、このまま軍に入って大丈夫かと心配してたんだぞ!」
そう言って涙を流す。
少し離れたところから、マイトランドの母親は静かに見ていた。
誰にも気づかれないように。ただその目だけが、息子の横顔を追い続けていた。
やがて母親は、誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「アルディマント様……。立派に成長されました……。」
静かに、涙が頬を伝った。
そんな村人たちを見て、2人は少し相談すると、ラーム将軍御父君からもらった金貨の袋を取り出し、そこから金貨1枚をそれぞれ抜き取ると、残りの金貨が入っていた袋を村長に手渡し伝える。
「これは俺達には必要ないから、村の為に使ってよ。なぁ、ジェル。」
「あぁ、今までたっぷり迷惑もかけたしな。」
2人の言葉に村長は言う。
「お前達、これから軍に入るんじゃろう。ならば金も必要じゃろうて。ここに置いていくことは無い。2人の為に使え。なぁに、子供は大人に迷惑をかけるもんじゃで、村の事は気にすることは無い。」
村長はそう言いながら袋を返そうとすると、ジェラルトが大声で叫んだ。
「クソジジイ!俺達は自分に必要な分は取った。後は村の為に使えって言ってるんだよ。わかんねーのか?ぐだぐだ言ってねーで受け取れよ。このモウロクジジイが!」
集まっていた村人を指差すと、
「お前らもさっさ家に帰れよ!そこに突っ立てると邪魔なんだよ!どけよ!」
と悪態をつき、その場を立ち去ろうとする。
これを見たジェラルトの父親が、ジェラルトに近寄り声をかけようとすると、村長はしばらく黙って2人の背中を見つめた。
やがてその目から涙がこぼれ落ちた。
「ありがとう2人とも。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ランズベルク……お前さん立派な息子を持ったなぁ。」
それからも何度も感謝の言葉を続けると、ジェラルトの父親もそれ以上は何も言わなかった。
マイトランドとジェラルトは、騒がしい村人たちの声を背に受けながら、その場を後にした。
2人が向かったのは、村近くの小高い丘だった。
ここからはトロンの村が一望できる。子供の頃から、何かあるたびに2人で来た場所だ。
並んで村を見下ろしながら、しばらく沈黙が続いた。
「なぁマイト、俺達ってさ、結構やるじゃないか。」
ジェラルトが笑いながら言うと、マイトランドも少し笑った。
「そうだな。まぁ何度も死にかけたけどな。」
「首を4つも運んで帰ってくる奴なんて普通いないだろ。」
「普通じゃないから軍師目指してるんだろ。」
ジェラルトはそれを聞いて、また笑った。
「もうすぐ軍に入るんだな。」
「あぁ。」
「怖いか?」
マイトランドは少し間を置いてから答えた。
「怖くない、とは言えないな。でも——」
村を見下ろしながら、ぽつりと続けた。
「母さん、畑仕事だけで俺を育ててくれただろ。早く楽させてやりたいんだ。」
ジェラルトは少し黙ってから、笑った。
「なんかお前変わったな。自信がついたっていうか……。」
「そうか?」
「あぁ。前のお前なら絶対そんなこと言わなかった。」
マイトランドは少し笑ってから続けた。
「他にも、行かなきゃいけない理由がある。わかるだろ?」
ジェラルトは黙って頷いた。
2人とも、あの夜のことは忘れていなかった。
夕暮れの光の中、トロンの村がオレンジ色に染まっていく。
2人は箱を抱えたまま、しばらく黙って夕暮れを眺めていた。




