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三度目の長生き!  作者: ゴトーゼスタ


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第19話 ピヨピヨ勝利の方程式




 飛竜で皇宮の発着場に降りた瞬間、オレと母上はもう最強無双状態だった。


 てかさぁ、オレ、すっかり忘れてたけど――前世で『精霊避け魔法』なんてものを開発してたんだよね。


 理由? 酔っ払いの相手って、めんどくない?

 オレ、十八歳ループだからお酒飲んだことないし、当然酔っぱらったこともないのに、髭のおっさん(※前世の父親)が、


『ルクは可愛いなぁ。この柔らかいほっぺたちょんとするだけで、酒がうまいぞ!』


 とか酒臭い息で寄ってきて母上に潰される(※どことは言わない)のと同じノリで、精霊たちもわんさか、しつこく(たか)ってくる。


『あな、幽馨(かそけきかをり)充溢(みちみ)つるさま、天饌(あまづら)にも勝さりて(たふと)し。いとし子や、そちが妙霊(めうれい)()、更に垂賜(しづたま)ひて寄せ給へ。そちが希求(こひねが)ふところ、(ことごと)成就(じょうじゅ)せしめ奉らん』


 言ってることも、母上よりさらに歌っぽくて、単語と単語の区切りもわからなくて意味不明。

 しかも普通の人には見えない聞こえない。

 皇族レベルの魔力があれば存在を感じ取れるし、母上とか高位神官は強い精霊と意思疎通ができるらしい。さすが。


 でもオレは人間と精霊の区別がつかないくらい、最初から精霊がふわふわ漂ってるのが見えてた。声も全部聞こえてた。

 だから異世界転生もすぐ確信できたけど、他の人がスルーしてる酔っ払いを、オレだけが相手する必要ないよね?


 人の魔力は精霊にとって食事みたいなもので、特にオレの魔力はおいしいらしく、匂いを嗅ぎつけると群がってくる。


 だから前世のルクくんは考えた。

 魔力の匂いを消せば、精霊が寄ってこなくなるんじゃね?


 匂いっていっても、よく見れば、精霊はオレの魔力の波に混ざる特有の振動に反応してた。

 そこで、その振動を別の揺れ方に組み替えて、さらにその通り道に細かい網みたいなフィルタを張るイメージで科学魔法。


 具体的には、魔力の波形を生体ノイズに近い形に再構成して、精霊が読み取れない雑音に変換する。

 そのうえで、魔力核の外側に精霊由来の波だけ遮断する膜を重ねて、外からの信号をそもそも拾わないようにする。

 つまり、発信も受信もどちらも精霊には意味のないノイズに置き換える仕組みだ。イメージばっちり!


 結果、精霊とオレは完全にお互い不可視の状態になった。

 これが『相互遮断モード』。別名、酔っ払い精霊対策。

 ちなみに、この機能を使っても、オレの科学魔法には一切影響がない。

 遮断しているのは精霊とつながる外部の感知チャンネルだけで、科学魔法は体内の魔力回路――いわば別ラインの内部処理で動いているからだ。


 で、これが転生後の灰ネズの魔力核に標準装備として最初から組み込まれてたらしい。

 初期設定はもちろん【ON】。

 だから灰ネズ時代、精霊が寄ってこなかった。

 でも、魔力自体はダダ漏れだから、魔物への威圧は普通に効く。魔物は強い魔力=強者と判断して避けるからね。


 もしこの『相互遮断モード』がオフだったら、児童管理院に来る神官が『この子は精霊に愛されている!』って騒いで、もう少しマシな生活になってたかもしれない。

 だけど、神殿は神殿で経典丸暗記とかいう地獄があるから、どのみちオレは挫折してた。

 いや、挫折どころか心折れて粉々だ。漢語だか古語だか外国語みたいな経典なんて、オレはぜってー読まねーぞ!


 そんなわけで、オレの平和な生活に欠かせない『相互遮断モード』――だけど、大陸ごとに一体いる大精霊には通用しない。


 幸か不幸か、大精霊たちはルクレオンの誕生前後から精霊酷使の影響で弱っていて、半分寝てるような節約モードだった。

 で、六大陸巡りの旅のとき、オレはこれらの大精霊の気配と対峙した。姿が見えたわけでも、声が聞こえたわけでもない。

 ただ――胸の奥に感情の塊みたいなのがぶつかってくる。


 火の大陸では胸がズキズキして「怒ってる……?」

 水の大陸ではひんやりして「悲しんでる……?」

 風の大陸では頭がざわざわして「混乱してる……?」

 土の大陸では胃が重くて「絶望……?」

 闇の大陸では背中がぞわっとして「怖がってる……?」

 光の大陸では胸がスカスカして「元気が抜けてる……?」


 自分が感じたものの原因らしきものを、オレはオレの魔法で整えていった。

 火の大陸では火山の熱を逃がす風を。水の大陸では濁った湖を浄化。

 風の大陸では乱れた風の流れを整え、土の大陸では地脈の偏りを直し、闇の大陸では闇の濃さを薄め、光の大陸では光の通り道を作った。

 そうして世界は少しずつ元気になっていったけど、最終的なラスボスは聖光樹の森に現れた。


 どす黒い瘴気に侵された森は、まさに世界の病巣。

 六大陸で感じた怒りや悲しみや混乱が、全部ひとつに固まったかのような――負の精霊王。

 そこで初めて、聖光樹の森の聖の大精霊(セラフィ=アーク)が、はっきりとオレの前に具現した。


『ルクレオンよ、六洲にてそなたが鎮めしは、ただ余波の微響(かすめ)に過ぎず。この影の(しょう)は、久遠の世に積もりし人の営みの(おり)より自ずから凝り集ひて成り出でしものなり。もし人滅びなば、精霊の嘆きもまた元の(しず)けきことわりへと還らん』


 ……ニュアンスしかわかんなかったけど、それでも大精霊さん、いきなり“人類滅ぼせば解決”みたいなのやめて!?

 原因が人間でも、人間を消すんじゃなくて、魔素とか魔力の流れを変えたらなんとかなんない?


 だからオレは、負の精霊王をなだめすかしつつ、世界中に散っていた魔力の余波を魔素の循環へ戻す仕組みを作り直した。

 風の道、光の道、水脈、大地の脈動――。

 自然そのものを魔力の回収路に組み替え、世界の流れを丸ごと再起動。

 その世界規模の魔素循環システムを再構築した瞬間、オレの肉体は魔力核とともに光に溶けていった。

 あのとき――負の精霊王も、なんかオレと一緒に光に包まれて消えてったような……。


 ふと、肩の黄色い鳥が目に入る。

 謎の生物。

 オレが記憶を取り戻したらやってきて、たぶんオレのイメージでお風呂のアヒルみたいな黄色い鳥になった未確認生命体。


 ……うん、まあ、でも、どうせ謎の異世界転生、よくわかんないことは考えないのが一番!


 オレは目の前の光の柱に視線を向ける。

 大精霊って自分の守護地から離れられないみたいだけど、聖光樹の森の聖の大精霊(セラフィ=アーク)からしたら、帝都内は自分の領域。

 だから、オレが第七円環の上空に近づいたあたりで魔力を察知して、飛竜の発着場まで出迎えに来たみたい。


 他の人には、ただの聖なる光にしか見えてない。金白色の柱が立ち、光が空に広がり、神聖な現象が起きてるように見えるだけ。


 でも、オレの目に映るものは違う。

 光の中に浮かぶ人の形。すらっとした体つきで、背は大人の男くらい。肌は光そのもの。服も着てるように見えるけど、布じゃなくて光が形になってるだけ。

 顔もちゃんとある。目も鼻も口もある。でも輪郭が少し揺れてて、まるで光でできた人間って感じ。

 背中には翼。羽根じゃなくて、光が羽根の形に伸びて、風もないのにゆっくり揺れてる。


 母上に抱かれて飛竜を降りたオレに、聖の大精霊(セラフィ=アーク)はまっすぐ近づいてきた。


「──あな、光胤(みついん)還来子(かむかへりご)よ。久遠環(くをんのわ)、いま再び綴結(つづゆ)ひぬ」


 その声は人間みたいなのに人間じゃない。低い声と高い声が重なって、胸の奥に直接響く。

 光の指先が懐かしそうにオレの頬を撫でた。


「そちが息脈(いきみゃく)(りち)、まこと古響(いにしへのおと)のままにて候ふ」


 相変わらずなに言ってんのかわかんないけど、こういう時は必殺技だ。

 肩のキイロと呼吸を合わせて、同じタイミングで小首をかしげる。そして、にこやかに発動するのは――、


「ルクはね、ななちゅなの。よろちくね!」

「ピピッ!」


 最高に可愛いけど、舌っ足らずなしゃべりが最高におバカっぽい、ピヨピヨスマイル! 

 母上からも太鼓判を押された完璧な出来栄えだ。

 しかも今日は、上から下まで完全黄色コーディネート。金糸の刺繍が光を受けてきらきらして、キイロと並んで見事なシンクロ。

 鏡に映る自分を見ても、「誰この天使?」って思うくらい、ラブリーさが限界突破。

 頬はふわふわ、目はうるうる、口元はちょこん。


 見た目は極上美幼女なオレがキイロと同時に首を傾げると――破壊力、神話級。

 大精霊だろうが皇帝だろうが、この“キイロ連携スマイル”の前では無力。


 なのに七歳とは思えないほど身体も精神もとっても幼い。すごくすごーく可哀相な子だ。

 あまりに幼すぎて、この先も貴族の学校に行けないくらい! ←ここ重要ポイント!!


 これこそまさに、世界の理すらねじ伏せる、平和のための最終兵器――。


 聖の大精霊(セラフィ=アーク)はふわっと微笑んで、

「──うむ。そちが光、まこと健やかならむこと、我深く祈り奉る」

 そう言い残し、聖光樹の森へと帰っていった。


 一方、その場に慌てて駆けつけてきた神殿トップの面々やお偉い貴族たちは、オレの笑顔に一瞬ほころんだものの、次の瞬間には瞳の色を二度見し、幼い発言に完全に言葉を失っていた。


 そして――ここから始まるのが、皇太后ティエルシアの『勝利の方程式』のターンだ。


「大精霊自ら迎へ現れ給ふとは、まこと吾子の愛でられやる(しるし)にてあらむ。妾は久しく俗世を離れ、この幼き御子と静謐のうちに暮らし続けむと覚悟せしが、次代皇太子いまだ定まらずと聞き及び、帝統の乱れを看過すべからずとて、かく帰参仕りたるなり」


 前世のオレの父親サルヴァリオンを例外として、この国じゃ偉い人ほど母上みたいな喋り方をする。たぶん、精霊の言葉が難しい古語だからだろう。

 ぽっと出の貴族とか成り上がりは古語教育を受けてないから、母上の謡うような文語を聞いても理解できない。


 その点、今ここに駆けつけた神官や官僚は地位も教養もある超エリートばかりで、母上の言葉を聞いた瞬間に意味を理解し、どんどん顔色を悪くしていった。


 ただし皇帝は除くっていうか、兄上も来てくれてるよ! オレがにこっと手を振ると、兄上もにこやかに振り返してくれる。


 ちなみに母上の言葉はオレも一応理解できるんだよ。

 オレが精霊に愛されてて、だから北の離宮で暮らしてきたけど、次の皇太子問題があるから帰ってきた――ってことだよね。


「見ての通り、吾子ルクレリアは聖光樹の瞳を宿し給ふ。されど、精霊の寵を受けすぎて、生誕の刻より命の灯は風前の焔のごとく危ふく、七年の歳月を費やして、ようやくここまで育ち給ひし脆き御身なり」


 オレは金緑色の皇帝の瞳を持つけど、虚弱で七歳なのにまだかなり小さい。


「そも、この国の皇帝たる者、聖光樹の色の瞳を持つを以て正統と為すにあらず。皇統の本義とは、聖光樹の森を護り、その理を曇らせぬ力を備へ、万民の安寧を揺るがさぬ器量を有すか否か――ただそれのみぞ肝要なる」


 そもそも皇帝は瞳の色じゃなくて、聖光樹の森と民を守る力があるかどうかで決めるべきだろって。


「されば妾は、ここに(おごそ)かに問ふ。そなたら、まことに申すか。このやうに幼く、か弱き御子に、皇帝の重責を負はせよと? この御身は、生まれながらに精霊の光を引き寄せ、命すら危ふき者にてあった。その御子を、ただ瞳の色のみをもて、皇位へ()(いただ)かんとするが道理と、そなたらは真に思ふての言葉か。それが精霊の御心に(かな)ふと、そなたらは胸を張りて断じ得るのか」


 まあ、つまり、瞳の色だけでオレみたいな頭も体も弱い子どもを皇帝にするなんて、ありえないだろって叱り飛ばしてるんだよね?


 オレの名演技(?)と母上の健在っぷりだけでも十分だっただろうけど、最初にガツンと聖の大精霊(セラフィ=アーク)のお出迎え付き。


 もうこうなったら、どんな偉い神官や伝統と格式の貴族だって勝ち目はない。最終的にはその場に座り込んで祈り始める者まで出てきた。


 オレがだれの子どもかとか、本当に今年で五十一歳の母上が産んだのかとか、そんな疑問を抱くことなど許されない。


 聖の大精霊(セラフィ=アーク)のいとし子で、皇太后ティエルシアが秘かに育ててきた金緑の瞳のルクレリア――その存在はただ尊い。だれもが全面的に守るべき、か弱く幼い美少女だ。


     ◇◇◇◇◇


 ヴェルサディス兄上を悩ませてきた問題は、あっという間に片がついた。

 オレの甥っ子ディオンアールが皇太子に、正妃ルーミアが皇后として正式に認められた。


 その後、行われた兄上一家とのお茶会はとても楽しかった。

 母上が新作のお菓子を振る舞い、出席者はオレと母上、ヴェルサディス兄上、皇后ルーミア、そして皇子二人。

 ディオンアールは十歳、次男エルシオンは八歳。

 二人とも年齢のわりに背が高い。うん、きみたち……もう前世のルクくんと同じくらい……いや、もっと大きいかも。

 そんな二人は、可愛いルクレリアにメロメロだった。


「ルクレリアのことは私が必ず護りますから!  将来は皇太后陛下や父上に代わって、私が皇帝としてルクレリアを全力で庇護します!」

「わ、私もルクレリアを護る騎士になります!」


 少年たちからキラキラした目で純粋な好意を向けられたら、ただ笑顔を返すしかない。


「ありがとう! ルク、うれしい!」


 ルクレリアはね、自分のことを『ルク』って言うんだよ。母上がそう決めたんだ。その方が可愛いからって……。

 おかげでルーミア義姉上も、オレの性別を知ってか知らずか、


「なんてお可愛らしいのかしら。このように愛らしい御子を授かっていたなんて、皇太后陛下が羨ましいですわ」

「そなたはまだ若いのじゃ。この先、授かるやもしれぬぞ」


 母上の言葉に、ルーミア義姉上も兄上もまんざらでもなさそう。この先、家族が増えるかもしれない。

 着せ替え人形役はぜひ譲りたいから、できれば女の子、生まれてきて……! 切実に!

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