第14話 覚めた夢
目が覚めて、1番に目に入ったのは見覚えのある木目だった。毎朝、起きるたびに見ているその加工された木の並びはいつもの朝の始まりを表す。
しかし今日は何かが違っていた。
身体がありえないほど重く、気だるい。病気……ではなさそうだが、とにかく簡単には動けそうにない。
出せる全ての力を両腕へ込めてなんとか上体を起こし、ベッドに座ったまま壁に身体をもたれ掛けさせる。
理由のわからない頭の中のもやに額を抱えながらも、今自分が何をするべきなのかを考えた。
まずは誰かに話を聞くのが1番だろうか。僕だけではどうも、思い出せることが少ない。
だが、こんな気だるさではまともに歩くことさえ出来ない。
そんな中で、ふと目に入ったのは枕の先の壁に立てかけられている木の剣。あれを使えばとりあえずは身体を支えられるかもしれない。
手を伸ばして取ったその剣を床に突き立て、重心をゆっくりとかける。そうすると不格好ではあるが立つことができた。
村の最年長であるユーリスおじさんやバライスおじさんでさえまだ杖を必要としないほど元気であるのに、15に満たない僕がこんな姿なんて情けない。
そんな考えが頭によぎったが、今は仕方がない。とにかくドアへ、足を進める。
リビングへ出てきたが、それまでの間で家の中で誰かが動いた様子はない。みんな、どこかへ出かけているのだろうか?
いつものイスに座り、背もたれに寄りかかる。身体を酷使したせいか、わずかなめまいが襲ってきた。
それを少しでも和らげるために目を閉じる。が、逆に睡魔に襲われるきっかけになってしまう。
そこでまた、意識が薄れる。僕は睡魔に捕らわれる瞬間を全く認識できなかった。
「────。────!」
誰かが話している声がする。同時に、身体が激しく揺さぶられている……?
「────ム! カルム! 起きてってば!!」
その声が自分を呼んでいるものだと気付いたのは、薄ら開いた目に再び映像が流れ始めた後だった。
真紅の髪を後ろで2つに結び、髪と同じ色の瞳の少女。そんな少女の表情は、焦りと不安の様子が入り混じっていた。
「……ん。レン?」
やはりまだ寝ぼけている。自分でも驚くほど拍子抜けした声が聞こえた。
「もう大丈夫……なの?」
僕が目をこすって眠気を払っている最中にも、彼女は心配そうに話しかけて来てくれる。
「うーん……。まだ少し頭が痛いかも」
「それだけなの? 本当ならあと3日は安静にしとかないとってサー姉が……」
そうだ、どうして────。
「どうして、僕はそんな長い間眠っていたの?」
その言葉を聞いた時のレンの顔は、あくびをしていたせいで見えなかった。だがその途中も、出た涙を拭っている時も、彼女から言葉は発されなかった。
「……?」
不思議に思った僕は目から手を離して、彼女の方へと視線をやる。
レンは、俯いていた。
その姿に、僕はなぜかそれ以上を聞くことに言い表せない恐怖を感じた。
わずかな沈黙の後、レンが口を開く。
「本当に……何も覚えてないの?」
頭を抱えたまま頷く。さっきから、いや、目が覚めてからずっと考えているがさっぱり思い出せない。
「……ついてきて」
またしばらく黙りきってから、レンは僕に手を伸ばし、そう言った。見上げた位置に伸ばされた手がある、という風景が凄まじい既視感と不吉な予感となり背筋を震わせる。
手を取って連れてこられた場所は、家のすぐ外。しかしその光景は、いつもと比べるまでもなく無残であった。
その瞬間、脳裏に消えていた記憶が全て蘇った。
突如現れたガイコツ、破壊された家々に、元凶の魔術師。
そして目の前で攫われたメイ──。
「……あ、あぁ」
言葉を失うどころではない。身体から力が、精神が、抜けてゆく。
もう何度気を失おうとこの現実が変わらないということを察した身体の目は、完全に光を失っていた。




