第28話
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ミゼリアから告白を受けたリシュアスは未だに混乱していた。
あれから三日。書斎の椅子に腰を下ろして思案に耽っている。
自分が思い描いていた計画では、ミゼリアが記憶を取り戻して不老不死の呪いを解き、普通の人間と同じように老いを重ねて死んでいくというのが筋書きだった。
しかし、その計画は根底から覆されてしまう。
「解呪の魔女じゃなくて、致死の魔女だったのか……」
リシュアスは顔を手で撫でた。
話を聞く限り、ミゼリアが致死の力を使えばすぐにでもこの世を去ることになるのだろう。ようやくこの世から去る権利を手に入れられる。
とはいえ、できることなら普通の人間として人生を全うしたかった。
それがリシュアスの当初からの願いだ。
(ミゼから告白された時、力を使うよう頼むべきだった。いや、それよりもまずは記憶を取り戻して苦しむミゼをもっと献身的に支えるべきだった)
あの時はこちらも動揺していた。気の利いた言葉をかければいけなかったのに、ただ死だけを与えられるだけと知って落胆してしまった。
ミゼリアの恐怖と絶望に染まった顔が今も目に焼きついている。
(平和祭をミゼと一緒に過ごして、久々に王都へ出て楽しかった。そこで俺は夢を見てしまった。呪いが解けたら自由を得られると。だからすぐに死んでしまう致死の力を使われるのは、踏ん切りがつかなかった)
さめざめと泣くミゼリアは最終的に過呼吸を起こして倒れてしまった。
すぐに使っていない部屋へと運んで休ませた。
ミゼリアは未だに眠り続けている。
看病をしてくれているデボラに容態を確認したところ、穏やかに眠ってはいるようだ。
問題は目を覚ましたミゼリアにどんな言葉をかけてやるかだ。
正直こちらも頭の整理はできていないし、明確な答えは見つからないでいる。
リシュアスは深いため息を吐いて席を立った。
廊下へ出ようとしていたら扉が開き、コンラッドが部屋に入ってくる。その後ろには外套のフードを目深く被った人物が立っていた。
「コンラッド、後ろにいるのは誰だ?」
その人物は前へ進み出てフードを取り払った。
白髪が交じる金色の髪に、薄紫の瞳をしたふくよかな中老女性の顔が現れる。瞳は好奇心旺盛な光が宿っていて、全体的に少女のような雰囲気を纏っていた。
「こんばんは、おじさま」
そう言って挨拶するのはロエウルム王国の君主、エリスだった。
意外な人物の登場にリシュアスが声を上げる。
「エリス、何故ここに来たんだ? バレたら非難されるぞ」
「この私を非難する者がいるなんてそれは誰でしょうか? 王太子? それとも宰相?」
「それはだな……」
矢継ぎ早に言われて言葉を詰まらせていると、エリスがフッと笑った。
「心配無用です。少しの間だけ影武者に身代わりをお願いしました。そっくりなので誰も気づきませんわ」
少女時代から活発で好奇心旺盛なエリスは行動派だ。彼女を止められる者はいない。たとえそれが夫だとしても無理な話だ。
リシュアスが肩を竦めていたら、エリスが外套を脱ぎながら言う。
「ベルダース伯爵から事情は伺っておりますわ。まさか、バーバラの孫娘の力が致死だったなんて。夢にも思いませんでした」
ミゼリアが倒れた後、リシュアスはコンラッドを呼んで情報を共有していた。
そして、この話はエリスの耳にも届けられたようだ。
エリスは脱いだ外套をコンラッドに預けると頭を下げてくる。
「こんなことになってごめんなさい、おじ様」
「これに関しては仕方ない。そもそも解呪と手紙に記していたのはバーバラだ。責めるべき相手はおまえじゃなくてバーバラだ」
リシュアスはエリスがバーバラとやり取りしていた手紙の内容を思い出す。そこには、『解呪』についての内容が書かれていたはずだ。
「バーバラからの手紙を改めて読み返してみると、解呪とは明確に書かずにそれを仄めかす内容が書かれていました。わたくしもおじ様もその意図をちゃんと汲み取ろうとせず、ただ鵜呑みにしてしまったのですわ」
手紙に致死の力があると書くのは憚られたのだろう。
考えたくはないがこの手紙が誰かの手に渡って読まれた場合、危険な目に遭うのはミゼリアだ。万が一に備えてバーバラは言葉を濁していたのかもしれない。
「バーバラと直接話ができれば良かったのですが。手紙を受け取った時には既に彼女は亡くなっていました。オーベル領の主要道路が洪水被害で麻痺し、配達に遅れが生じていなければ間に合ったかもしれない。……いいえ、わたくしがもっと早くにオーベル領の惨状を知っていれば」
「陛下のせいでもありません。仕方なかったのです」
悔やむエリスに対してコンラッドが慰めの言葉をかける。
要するに、今回の問題は様々な不運が重なって起きてしまった。これは誰のせいでもない。
「コンラッドの言うとおりだ。今回は運が悪かった。エリスが気に病む必要はない」
エリスは目を伏せる。
「励ましてくださってありがとうございます。そうですね。いつまでもくよくよしていても仕方ありません。国の安寧に努めますわ」
エリスの瞳にはもう憂いはない。君主としての威厳が再び宿っていた。
リシュアスは尋ねる。
「件の主要道路は復旧できそうなのか?」
「はい。補助金を出すつもりでいます。子爵はすぐにわたくしのところへ上奏書を出していたみたいですけれど、何者かによって握り潰されたようです。今回の件がなければ気づくのが遅れていましたわ」
上奏書を潰した相手が誰なのか、ここにいる三人とも心得顔で頷きあう。
「郵便はお隣の某領地を経由して王都に送られるので、上奏書を潰そうと思えばいくらでも機会がありますね。オーベル子爵は領地が心配でシーズン中、王都には姿を現しませんでしたから。届いているかどうか確認のしようがありません」
「リゾートホテル開発だったか? 金儲けのために裏工作をして他人の土地を手に入れようとするなんて卑劣極まりないな」
「近いうちに呼び出して、わたくしから懲らしめておきますのでご安心くださいませ」
ふふふと笑うエリス。




