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したたかな羊飼いは、黄泉比良坂を突き抜ける  作者: 九重七六八
1章 その羊飼いはオオカミの森を突き抜ける
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ジャギの野望

 川を迂回したピピンはやがてジャギとデオウが率いる軍団と合流した。昨晩の人間の魔法攻撃で何頭かの兵隊を失ったとはいえ、到着したオオカミの数は本拠地に待機していたオオカミを加えて、150頭以上に膨れ上がった。

 先に行かせた偵察のオオカミから、人間たちが廃村で迎え撃つ準備をしていることを聞いたピピンは、これからの作戦を幹部に伝えた。デオウとジャギ。そしてハクヒである。

 150頭のうち、廃村に突撃する数は50頭。残りは森を抜けるルートに配置した。人間たちが廃村を捨てて脱出することを防ぐためだ。ここの指揮をデオウとハクヒに任せる。


(ピピン様、村を包囲して全軍で襲いかかった方がいいのでは?)


 デオウはそう進言した。昨晩も攻めにくい岩場の砦で苦戦した。今晩も廃村とはいえ、建物に立てこもられては同じことになりかねない。


(いや、あそこは人間どもの領域だ。建物が邪魔をして数の多さは不利になる。火でも付けられたらそれこそ被害は甚大だ)


 ピピンの言葉にハクヒも頷く。


(デオウさん、羊を抱えた人間があの村に立てこもるなら、あの壊れかかった建物の中で、まだマシなあの建物しかないでしょう。あそこなら50もいれば制圧できるでしょう)

(……確かに姐さんの言うとおりだ)


 デオウは納得して引き下がった。ピピンの命令通り、村の外の包囲網と森への出口への道をふさぐようオオカミたちに命令する。


(デオウ、生憎だったな。ここは俺様が手柄を立てる)


 突撃部隊の指揮を任されたジャギがデオウに声をかける。150頭あまりのオオカミたちは村のすぐそばで休んでいる。デオウも包囲する任務を与えられたオオカミたちの配置が済んだら休息を命ずるつもりだ。


(ジャギよ、まだピピン様に成り代わる野心を捨てないのか?)


 デオウはピピンを遠目に見ているジャギの本心を知っている。ジャギは隙あればピピンを倒し、このオオカミたちのボスになろうと野心を燃やしている。


(俺は諦めないぜ。ここで手柄を立てて、他のオオカミたちの信頼を勝ち取る。そして近いうちにボスを追い落とす)

(お前もピピン様の偉大さに忠義を尽くせ。あの方は偉大だぞ)


 デオウはいつもジャギをそういさめる。ジャギは同じ軍団長として仲間意識もあり、またジャギがピピンを倒したい理由も知っているので、彼を嫌いにはなれないでいた。

 ジャギがピピンを倒したい理由は、ハクヒに惚れているからだ。もし、ピピンが褒美としてハクヒをジャギに下げ渡すのなら、きっとジャギは死ぬまでピピンに忠誠を誓うであろう。しかし、ハクヒは一番の寵妃であり、ピピンが下げ渡す可能性は全くないだろう。

 だからジャギはピピンに成り代わる野望を抱いている。オオカミの雄として、そういう気持ちは分からなくはない。


(俺がボスになったら、お前は俺の片腕にしてやるぜ。ハクヒ以外の気に入った雌はくれてやるぜ)


 ジャギはそう言って野心を隠そうとはしない。ピピンもジャギの本心を分かった上で手下としている。手下がボスの座を狙ってくること自体、歓迎している節がある。それがピピンのボスとしての威厳をさらに高めていることになっているのだが、ジャギはそれには気づいていないようであった。


(分かった。その時はそのようにしてくれ。俺はボスには向いてない。だが、ジャギ。今回ピピン様の期待に応えられなくては、群れの連中はお前を支持しないぜ)

(そんなことは承知だぜ。人間どもを皆殺しにして、まるまる太った羊どもをもんなで食う。)


 オオカミたちはそれぞれの配置につくと、まずは体を休めた。昨晩から休息を取っていない。日のあるうちは眠り、動き出すのは夜中である。



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