ルードの最後②
「痛え……。あの女、神の奇跡とやらで、俺様を飛ばしやがった」
ルードは気がつくと岩場の外にいることを知った。場所は岩場の右方面。距離は50mほど。戻れない距離ではないが、不用意に近づくことはできない。外はオオカミだらけである。
「あの女、戻ったらやっぱり犯す。絶対に犯す」
ルードは悪態をついたが、その声は押し殺したものになっていた。ここで不用意に音を立ててオオカミたちに見つかるわけにはいかない。
ルードは体を小さくし、茂みに隠れた。傭兵稼業で何十年と過ごしてきた男だ。サバイバルには慣れている。
(オオカミなんて怖くないぜ。いざとなったら、木に登ればいい)
ルードは近くに手頃な大きな木を見つけていた。最終的にはそれに登り、オオカミたちの襲撃をかわし、明日の朝に出発するモーリスたちを大声で呼べばいいのだ。それまでは静かにここで過ごそうとルードは考えた。
しかし、気配がした。地面の臭いを嗅ぎながら、複数のオオカミたちが近づいてくる気配だ。
ルードは戦利品のナイフを抜いた。黒いめのう石がオオカミの目のようだ。今日はこれで1頭のオオカミの息の根を止めた。血なまぐさい臭いが辺り一面に漂う。これではこの場所にオオカミが来てしまう。
(仕方がねえ……)
本当は隙を見て、岩場の砦に帰ろうと思ったが、オオカミたちの包囲網は厳重なようだ。ならば、安全策を取る。木に登れないオオカミは自分を襲うことができない。確実な手段だ。
最初に目を付けていた木にスルスルと登る。あっという間に地面から5,6メートルの高さまで登った。木の幹にはツタ植物がびっしりと絡みついて、登りやすかった。
ルードが登り切ると間一髪でオオカミが5頭現れた。臭いを嗅いでから木の上を見上げる。
「へへへ……残念だったなお前たち。獲物はここだ。悔しかったら、登ってきて見ろや!」
ルードはオオカミたちに悪態をつく。(そういえば……)アリエスは自分の戦争犯罪を裁くと言っていた、神様が罰を与えると。
(神様は厳しいってか?)
「はははっ……。ということは、俺の罪は許されたということだな。どんなに悪行を行っても誰も罰することはできないのさ。あの母親も最後は恨んだ目で俺をにらみつけていたが、所詮は何もできなかった。俺に食われて死んでいったさ。はははは……。この世は弱肉強食。弱いものは奪われて死ぬのみ!」
ルードはズボンを下げると放尿した。下にはオオカミたちがいる。
「ははは、お前たち、俺の小便でも飲んでろ!」
その時だ。空気が凍り付くような感触を覚えた。ビリビリと震動が伝わったかと思うと、どーんと激しい振動が木を揺らした。岩場の砦の正面に何か巨大なものが森に向かって進んでいく。それに巻き込まれたオオカミたちが小石のように飛んでいく。
ズボンを下ろして用を足していたルードは、不安定な体制で木の枝の上に立っていたので、バランスを大きく崩した。慌てて枝を掴もうとするが、それは枝に絡んだツタ。ツタなので枝から剥がれ落ちる。
「うっ!」
頭から落下しそうになる。ツタが両足にどういうわけか絡まった。
「うわああああっ!」
ツタが絡まったせいで地面に衝突ぎりぎりで宙づりになった。ぶらんぶらんと頭を下にしてつり下がっている。体にもツタが絡みついて両腕が動かせない。
「た、助かった……俺は運がいい。頭か落ちていたら死んでいた……」
さあああっ~と血の気が引いた。オオカミたちのことを忘れていた。オオカミたちから見れば、今の自分はつり下がった肉の固まり。いっそのこと、頭から落ちて即死した方がマシであった
オオカミたちが舌なめずりをして近づいてくる。
「ま、待て、来るな、悪かった、小便かけて……ま、待て、そこは!」
ズボンを下ろしていたので、下半身は丸出し。これまで凶悪な犯罪に使用していたものが丸出しである。オオカミたちは、真っ先にそれに噛みつき、簡単に食いちぎった。
「ぎゃああああああっ~」
その叫び声を合図に、次々とオオカミたちが身動きできないルードの体を食いちぎる。目の前に身動きできない肉の塊がぶら下がっているのだ。まずは美味しい内臓から食べるのはオオカミの習性だ。
ルードは神の裁きを受けた。その罪にふさわしく。生きたまま、オオカミの餌となったのだ。




