2日目の逃走①
太陽が登り、岩壁に光が反射した。薄暗い森にも朝日が差し込んでいる。あれからオオカミたちは襲撃して来なかった。しかし、砦の外でまだ何頭かのオオカミが潜んでこちらの様子を伺っていることは間違いがない。
アリエスの神の奇跡のおかげで、昨晩はあれからオオカミたちの襲撃はなかった。交替で睡眠を取ったので、疲れは十分取れている。
「問題はどうやってここから出るかだ」
ナダルは外の様子を伺いながら、作戦計画を立てた。まずナダルたち傭兵で攻撃を仕掛けてみる。外のオオカミを何頭か蹴散らした後に、隙を見て馬車と羊たちが脱出する。
どう考えてもこれしかない。タイムリミットが迫っている。明日に森を抜けないと結納品である羊を届けることができない。
ナダルの説明を聞いたアリエスは微笑んだ。既に2頭の精霊犬を召喚し、例の無臭と無音の神の奇跡、鷹の目の奇跡を発動している。
「その作戦に一部修正を提案します。こちらの方向に向かって、神の奇跡で作り出した囮を出します」
「囮だと?」
ナダルとモーリス、ゴードンはアリエスの言っていることが理解できない。アリエスは、時間がもったいないという体で杖を掲げる。
「論より証拠。見ていてください」
「我が仕えし、裁きの神、正義の神ジャスティス。我に力を与え給え。我らを写せし、我らの分身。東に向かって突き進め。デビュアン・ザン・シュブ・トエア・ヴァンシュ・ベルト・レスト」
アリエスが神の奇跡を願うと大きな鏡が出現した。それに映し出される馬車と羊たち、そしてアリエスやナダルたち傭兵。やがて鏡は消えたが、映し出されたアリエスたちは消えない。
「うおっ、なんだこりゃ」
「俺たちの影か?」
モーリスとゴードンが驚きの声を上げた。ナダルと俺も目を見開いて、目の前の現実を理解しようと格闘していた。
アリエスが杖で東を示すとそれらが動き出す。
「そして、こちらは姿を消します」
そう言うとアリエスは自分たちに向かって、新しい神の奇跡を願う。
「我が仕えし、裁きの神、正義の神ジャスティス。我に力を与え給え。我らの姿を消し去り、敵を欺け。ランドレ・ノートル・イメジ・トラスウ・パレイト」
すううううっと、アリエスたちの姿が視認しにくくなる。これは全体を薄い膜で覆い、光の反射を促進することで見えにくくしているのだ。アリエスたちはお互いに見えるが、オオカミたちには見えない。移動すると膜がめくれ上がって、露出したところがボヤッと見えるが、森の景色の中では視認しづらい。
これに加えて、昨日遣った『無臭』の奇跡と『無音』の奇跡があれば、もはやオオカミたちが追跡することは容易ではない。
「さあ影よ。我らの代わりにオオカミたちを引きつけて!」
アリエスの命令で作られた羊、馬車、傭兵たちの囮が走り出す。外にいたオオカミたちは、この囮に向かって追跡を開始する。
上空からオオカミの動きを見たアリエスは杖を西方向に指し示した。
「出発します。オオカミたちに気づかれるまで1時間。それまでにできるだけ時間を稼ぎます」
アリエスに促されて俺は馬車を動かした。続いてアリエスと精霊犬、羊たちが続く。
ナダルもこの機を逃してはいけないと傭兵たちにも命令する。モーリスとゴードンは命令に従って馬車の後に続く。




