岩場の攻防⑤
(人間どもにまんまとしてやられた)
ピピンは自分の直属の部下たちを率いて岩場にやってきたのは、30分前のこと。ピピンの思惑どおり、ターゲットは第1軍の捜索するエリアにいた。ところが、このターゲットは思わぬ行動を取った。
3つに分かれて1つがまだ数がそろっていない小部隊を撃破。それを救援しようと周辺のオオカミたちが急行したが、その隙を突いて本体が中央突破。さらに別働隊が大きく迂回したために、この動きに翻弄された。
この迂回部隊を陽動だと錯覚した第1軍団長のジャギは、本格的に包囲しようとしなかったので、まんまと逃がしてしまった。実はこの迂回した方が本命の羊の群れだったのだ。
(ピピン様、申し訳ありません。不覚でした)
第1軍団のジャギが顎を地面につけて平伏した。オオカミの服従の態度である。ジャギが功を焦り、本軍に知らせなかったことが獲物を岩場に逃げ込ませる原因ではあったが、ピピンはジャギに厳しい罰は与えなかった。
(よい。まさか、まるまると太った羊の群れが陽動に回るとは、余も思わぬ。一度の失敗は一度の成功で塗り替えればよいのだ)
ピピンは圧倒的な強さで群れを率いるオオカミではあるが、このような温情を見せることで、カリスマ的な面でも他のオオカミを従わせてきた。ジャギは昔からの側近で、この森へ流れてきたときも付き従ってきた股肱の臣である。
(ピピン様、第2軍団のデオウ様が到着しました)
(うむ。これで120頭を超えた。人間どもを食い尽くしてやる)
ピピンは人間たちが立てこもった岩場を半包囲する。正面は精鋭の第2軍団。これが50頭。左右に第1軍団を2つに分けた群れを配置。ここに来るまでに10頭ほど失ったので、20頭ずつが配置される。
後方には自分が老親衛隊と妃隊と一緒に待機する。後方の森の中に高さ3mほどの大きな岩があり、その上に陣取って指揮を取る。
(あの岩場は確かに攻めにくい。唯一の通路が狭いばかりか、正面に火を焚いている。だが、攻めにくい分、奴らの逃げ道もそこしかない)
ピピンは岩の上から眺めてそう考えた。確かに攻めにくいが、状況は袋のネズミにしたとも言える。
一応、岩場の側面に隠し通路があるかもしれないので、ぐるりと第1軍団で包囲はしているが、突破するのは正面である。
(しかし、ピピン様。正面に火を焚かれちゃ、突入はできないです)
第2軍団の軍団長、デオウはそう言った。火の中に飛び込めば犠牲となる仲間が多くなる。自分の配下のオオカミの損害は軍団長として看過できない。
(心配するな、デオウ。森にある枯れ落ちた大木を捜せ。できるだけ、正面に近いところでな)
(大木ですか?)
(そうだ。それを使ってたき火と柵を突破する)
ピピンは笑った。昔、人間同士の戦いを見た。城を攻める側は、大きな大木を城の扉にぶつけて破壊していた。それを実行するのだ。




