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したたかな羊飼いは、黄泉比良坂を突き抜ける  作者: 九重七六八
1章 その羊飼いはオオカミの森を突き抜ける
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岩場の攻防②

 オオカミたちの隙をついて一直線にナダルとゴードンは、岩場へ最初に到達した。それは後で到着するアリエスたちのために岩場の防御を固めろということでもある。

 ナダルとゴードンは岩場の地形を利用し、今晩、オオカミたちの攻撃に耐えられるよう守備固めをする。

 今日の宿泊地である岩場は天然の要塞であった。左右が岩で囲まれ細い通路。馬車が通れる幅しかないので、入り口に木で壁を作ればオオカミの侵入を容易に防ぐことができる。

 通路の奥は突き出た大きな岩が屋根代わりとなっており、馬車が通れる通路の先には、2つの広い場所がある。手前がナダルたち傭兵の待機場所。

 一番奥が羊たちの場所になる。左右の岩と屋根の間は細い隙間があるが、この隙間からオオカミが侵入できることはない。また左の岩は直角に立っており、高さは5メートルを超す。ここからオオカミが入ることは不可能だ。

 ナダルとゴードンの仕事は入り口に設置する柵とその前に展開するたき火。そしてそれを維持するための薪の収集だ。

 この岩場を包囲したオオカミたちは火に阻まれ、近づけないだろう。それを後方の柵から矢で応戦すれば一方的な戦闘になる。

 やがてルードとモーリスが岩場に到着した。オオカミの先遣隊を全滅させてからは、背後からオオカミの集団の気配を感じつつもなんとか逃げ切った。終わってみれば、拍子抜けするくらい楽にたどり着いた。

 ルードたちを追ってきたオオカミの気配を感じるものの、森の木陰でこちらの様子を伺っているようだ。かなりの数が集まりつつあるようだ。


「オオカミたちが集まってきているようだな」


 ナダルは柵から目を懲らして、前方の様子を伺う。オオカミの姿を確認できないが、獣の息づかいを強く感じる。だが、今日泊まる砦は、数十頭規模のオオカミの群れ程度では突破できないだろう。


(こりゃ、今晩はゆっくりとできそうだ)


 ルードはナダルたちと協力して、砦の補強をしつつ、砦の防御力を計算した。そしてそう結論を下した。

 入り口を守る人数は2人もいれば十分だ。後は交代で休める。2時間交替制なら十分だ。奥で羊たちと休んでいるアリエスを襲う時間はたっぷりとある。

 ナダル隊長は作戦中に羊飼いには手を出すなと言ったが、問題はない。このオオカミの巣である森に中で自分たちなしでは生き残れはしない。手込めにしても自分の命令に逆らう度胸などありはしない。

 女は少し脅せば言うことを聞く生き物だと都合良く考えているルードには、何のブレーキにもならなかった。問題は雇い主のフェルナンドであるが、所詮は貴族家に仕える使用人である。自分たちに抵抗する力はない。

 むしろ、自分たちに回される羊飼い娘の露わな姿を見て、欲情して一緒に参加するに違いない。

 羊の群れを率いたアリエスとフェルディナンドはまだ到着していない。左を迂回して最も長い距離を移動していることと、足の遅い羊を引きつれていることもある。


「あいつら大丈夫か」


 モーリスが左方向を見てつぶやいた。


「ンゴ、ンゴ。出迎えに行った方がいいンゴ?」


 ナダルと共に到着したゴードンも心配そうにナダルに聞く。自分たちはアリエスの作戦のおかげで無事にここまで来られたので、感謝の気持ちもあるのであろう。ルードだけは心の中で首を振っていた。


(あの女、オオカミに食べられたら、俺の気が済まない。ここは生きてたどり着いてもらわないと)

「いや、必要ないだろう。むしろ、助けに行くことでオオカミたちの動きが変わる。その方が厄介だ。それより、ここの防御を固めよう」


 ナダルはそう判断した。ここまで順調に来られたのは、アリエスのおかげである。そのアリエスなら無事にこの岩場まで逃げ切るであろう。


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