とある討伐隊の最後③
ルイスはミロを隊長とした放射状に進む部隊の一番中心部分を進んでいた。ここからならば、左右どちらかでオオカミ発見の合図があればすぐに駆けつけられる。
自分たちのところへ来ても左右からの援軍が期待できる。隣にオオカミ殺しの異名をもつジョバンニがいることは、ルイスにとっても心強い。問題はオオカミたちをいち早く見つけることができるかどうかだ。
部隊は整然と1000歩の距離を進んでいる。800歩を超えた辺りだろうか。生い茂った樹木で既に隣の隊は視認できていなくなった。
「この武装した集団の統率が取れた行軍を見れば、賢いオオカミなら逃げ失せるだろう。できれば奴らの巣を見つけてリーダーとやらを退治してやりたいものだ」
切り株や根が覆う地面を進みながら、隊長のミロは豪語した。確かにオオカミの数が10頭かそこらならば、人間の勝ちは決定している。ルイスは森に入ってから妙な胸騒ぎがして落ち着かない心境であった。
森は異様な静けさに覆われている。夜行性で今は寝ていると思われるオオカミたちの姿は全く見えない。
(何かがおかしい……。この落ち着かない気持ちはなんだ)
「ミロ様、オオカミは狡猾な生き物です。こちらの作戦を読んで裏をかくこともできます」
そう言いながら、ルイスは最初から感じていた嫌な予感がさらに現実味を増しているように感じていた。
(オオカミどころか、生き物の気配がない……。まるで死の世界に来たようだ)
静寂に包まれた森は神秘的ではあるが、それは別の見方をすれば死を予感させるものでもある。実際に方角を間違えて迷えば、待っているのは『死』であるからだ。
ルイスは未だに、オオカミの数はこちらの想像以上の可能性があると考えていた。それにエリート騎士であるミロは、競技剣術では優秀な成績を収めたのであろうが、実際にオオカミと戦った経験はない。所詮は下等な生き物だと見くびっていては、足下をすくわれる恐れがあった。
「裏をかくだと……面白い。だが、裏を書いたところでこの戦力。知恵では人間に及ばない犬ころに一体何ができるのだ?」
ミロの言葉に一緒に行軍している仲間の冒険者の2人も笑う。ルイスは笑った冒険者たちをにらみつける。ベテランではあるがオオカミの群れと戦ったことがないのだろう。オオカミを犬と区別できない人間は、この任務にふさわしくはない。
ルイスはミロの問いに答えようと口を開けたときに、笛の音が聞こえた。
『ビイイイイイイッ~、ピ、ピ、ピ』
長音の後に三つの短音。あらかじめ決めておいた部隊を示す音だ。最初の長音は向かって右を示す。そして単音は中央からいくつ目を表す。笛を吹いた部隊は右から3番目の部隊だ。
「よし、8分隊が遭遇した。すぐに救援に向かおう」
そうミロが言ったと同時にまた笛の音がなった。
『ピイイイイイイイイッ~ピ』
右から1番目である。これはすぐ隣を行く副隊長のジョバンニの分隊だ。
「複数か?」
ミロがそうルイスの方を見て尋ねた。しかし、ルイスの答えはすぐにかき消された。なぜなら、オオカミに遭遇した分隊が2隊だけではすまなかったのだ
左右からけたたましい笛の音が聞こえてきた。その数は7つ。つまり、全分隊がオオカミに遭遇したことになる。
「ど、どういうことだ!」
隊長のミロは立ち尽くした。同時に7つの部隊からオオカミ発見の合図がなされることは想定外であった。2人の冒険者も剣に手を添えて、次にどう動くべきか戸惑っていた。
その中でもルイスだけは薄暗い森の前方に目を向けた。(やられた……。やつらは我々の作戦を見抜いていやがった)
ルイスは剣を抜いた。自分たちの目の前にも大きなオオカミの群れが唸り声を上げながら近づいてきたのだ。うなり声と気配で20頭はいると想像できた。想定外を超えた数である。恐らく、どの部隊も同じだけの数のオオカミと遭遇しているであろう。
「ミロ様、撤退命令を……。恐らく、それぞれの分隊にも目の前の数と同じだけのオオカミと遭遇しているに違いありません」
ルイスは前から現れたオオカミの数を数える。視認できる数は15頭。そしてこういうときには、既に死角に何頭か隠れている。ざっくり見積もっても20頭はいる計算だ。
すでに包囲されていると考えていい。とても4人では捌ききれない数だ。
「全滅」という文字が頭に浮かぶ。




