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とある討伐隊の最後②

今の日本で怖いのは「熊」。でも、日本にも昔は狼がいたそうですよ。ヨーロッパでは狼は恐怖の対象。いろんな物語に、その恐怖が描かれている。

 20人を5つのグループに分けると4人で編成された分隊(カルテット)になる。これは騎士学校で習う市街戦での作戦で編成する最小単位だ。敵を索敵しながら進む方法である。戦術マニュアルどおりの優等生の回答である。


「ここから放射状に進む。1000歩歩いたら左へ300歩歩き、そこから引き返す。途中でオオカミどものねぐらを見つけた小隊は笛で合図を送る。その方向へ向けて他の小隊が救援に駆けつけるのだ」

「ミロ様、4人ではオオカミの大群に勝てません」


 ルイスはそう反対した。それに笛を鳴らせばオオカミたちにも気づかれる。奇襲の意味をなさない。しかしミロは冒険者の意見には耳を貸さない。


「我々は騎士だ。騎士は正々堂々と戦うからこその騎士である。それに大群と言ってもせいぜい20頭程度だろう。我々騎士が、オオカミごときに負けるはずがない。時間稼ぎをするだけで周辺から援軍が駆けつけ、包囲殲滅することができる。それとも何か。お前たち冒険者はわずかな時間稼ぎもできないのか?」


 ミロはベテラン揃いの冒険者たちを煽る。若手の冒険者はその言葉に大きく頷く。それは(我々もオオカミには負けない)という強い自信の表れであった。

 ルイスも20頭ならば、4人で対応できると思っていた。ましてや救援が駆けつける数分の間であれば、なおさらである。その自信は(あくまでも……)であった。


「20頭だとおっしゃいますが、その根拠はあるのですか。私は少なくとも50頭はいると推測しています」

「その根拠は?」


 ミロの顔は笑っていない。根拠のない意見を嫌うのだ。


「馬車には馬が2頭。そして行商人の一行は5人。それだけの人数を食い尽くしたとなれば、それだけの数はいると思います」


 ルイスの言葉に相棒のジョバンニも頷く。しかし、ミロはその推測に反論する。


「50頭だと……いい加減なことを言うな。貴様は現場周辺のオオカミの足跡を見て意見しているのか?」

「……確かに足跡の数は推測数とは合いません。しかし……」


 ルイスは自分が感じた違和感を話そうとした。確かにオオカミの足跡はそれほどの数は残されてはいない。数からすればせいぜい10頭程度だ。

 だが、足跡の付き方に不自然さを感じていた。わざと数を少なく見せる知恵をオオカミがもっているとは思えないが、それでも欺瞞に満ちた光景には違和感しかない。


「貴様らもベテラン冒険者ならば、敵の数は証拠で現実的に見積もるだろう。おい、そこの冒険者。お前はレンジャーだろ。お前の見立てはどうだ?」

 

 ミロはレンジャーの男にそう尋ねた。レンジャーとは、冒険者パーティーで斥候を務めることが多い職業だ。残された痕跡から、罠や敵の種類や数をおおよそ知ることができる。


「騎士様、足跡はかっきり12頭分です」


 レンジャーの男はベテランらしく、複雑に地面に残された足跡を分析し、正確に数を割り出していた。


「それみろ。たかが12頭だ。見つけることさえできれば、我々で殲滅できる数だ」


 そう言われるとルイスは仲間の冒険者たちを見る。ルイスほどの経験がない冒険者は、ミロの意見と同調するかのように頷いている。もはや説得できる雰囲気にない。ならば、せめて若い指揮官の立てたセオリーどおりの作戦を実戦面で修正した方がよい。


「……分かりました。それでは騎士様方を隊長にして、我々冒険者が3人ずつ入ります。中央の2班を司令塔として、ミロ様と副隊長のジョン様の班を配置。それぞれに私とジョバンニが入って補佐させていただきます」


 隊の編成の方針を説明したルイスは、さらに進み方についても説明をする。


「よかろう」


 ミロはルイスの意見を素直に取り入れた。冒険者のリーダーとしての面子を立ててやろうと配慮したようだ。こういうところは、中央のエリートの中でも、部下の信頼を得て出世していくタイプの人間だと思わせた。

 しかしながら、ミロの態度は作戦の細かい立案は、実行部隊の下士官が行うものであるという騎士学校の教えに忠実であったからであった。彼は根っからの武闘派であり、戦略眼に欠けていた。

 それが家柄がよいにも関わらず、出世コースである中央軍勤務から外れた原因であった。しかし当の本人は、最前線で戦えることをむしろ喜び、地方で大手柄を立てて中央軍に返り咲く計算をしていた。


 ルイスはミロの許可を得ると手早く冒険者たちの班割をする。自分とジョバンニの班を指令班として中央を行き、あとの4班を左右に2班ずつ配置し、放射状に展開するのだ。

 各班の間は300歩の間隔を置いている。それぞれの班が1000歩前進し、その後、右手方向に300歩移動し、そこから左方向に300歩移動する。そしてさらに1000歩前進する。小隊5隊が左右にジグザグに移動しながら、およそ1200歩幅のエリアをしらみつぶしに捜索するのだ。

 また合図の笛の音にも工夫をした。ただ鳴らすだけでは、反響で場所も方角も分からない。ミロの作戦を成功させるには、発見した隊にどれだけ早く救援に行けるかにかかっている。分からなければ混乱する可能性があった。

 そこで中央から右は長音を3秒鳴らし、つぎの短音で何番目かを告げる。『ピーッ~ピ、ピ』なら右から2番目のカルテットがオオカミと遭遇したことになる。左の舞台は短音を先に3度鳴らし、長音の数でカルテットの番号を示す。『ピ、ピ、ピ』で左。『ピーッ、ピーッ』で2番目というわけだ。

 ルイスは笛役の冒険者にこの任務の重要性を念入りに説明した。遭遇した小隊が支えている間に戦力を集中し、オオカミどもを圧倒するのだ。


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