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したたかな羊飼いは、黄泉比良坂を突き抜ける  作者: 九重七六八
1章 その羊飼いはオオカミの森を突き抜ける
29/52

狼王ピピン①

だんだんと読まれる数が増えてきました。手応えが出てきた~。ありがたい。

今回もブクマ、評価、コメントよろしくお願いします。

(ボス、人間が森に侵入してきたようです)


 自分の側近である若い雄がそう伝えてきた。他の側近たちが一斉に首を上げる。両端の妃は上目遣いで主人をうっとりした目で見ている。

 狼王ピピンは耳をピンと立てた。そして命令した。


(森には偵察隊が散在している。すぐに報告を集めろ)


 ピピンはそう命令したが、その後の報告は芳しくない。相当数の羊と人間が森に入っているらしいことは分かったが、数もその進路もよく分からない。

 これまでこの森において、こんなことは初めてであった。しかも羊連れの集団でこれだけ情報が錯綜するのもあり得ないことであった。

 オオカミたちにとって、まるまる太った羊はごちそうである。人間よりもその肉は美味しい。その臭いは数キロ先でも分かる。羊の足音もだ。しかし、臭いも足音も察知できない。こんなことはこれまでになかった。

 2頭ずつバディを組ませた偵察のオオカミたちによる偵察網は、これまでも完璧に機能していた。先日も討伐に特化した人間の集団もうまく誘導して各個撃破できたのも。この偵察網のおかげであった。それが今回はうまくかわされて、森深くまで侵入を許したのだ。


(第1軍のジャキ、第2軍のデオウに知らせろ。敵の位置は不明だが、進路はおよそ2つ。西部と東部に出撃だ。羊を連れているなら広い道のあるその方面にいる可能性が高い)


 ピピンはそう命令した。軍団はそれぞれ勇猛なリーダーが率いる50頭のオオカミで構成される。第1軍も第2軍も若い雄オオカミで構成される主力部隊である。


(臭いと足音がないのは解せんが、直接目で見ればよい。見つければ、連絡を取り合いいつものように包囲して殲滅すればよい)


 森は狼王ピピンの領土だ。人間など怖くはない。2週間前に4人の人間が森を通過したが、それはわざと見逃したのであった。狙いは人間を油断させること。おかげで無警戒な行商人の馬車と食料を手に入れた。

 そして先日も武装した人間の集団を全滅させたばかりだ。ましてや羊を連れた人間など、ごちそうが自らやってきたとしか思えない。まるまると太った羊。

 ピピンは舌なめずりをした。

 第1軍と第2軍を派遣し、どちらかで発見した場合、すぐに片方の軍団とピピンが率いる老親衛隊と妃隊がとどめをさす。老親衛隊はベテランの雄で構成される20頭のオオカミ。

 ずっとピピンに従ってきた古参の部隊だ。この戦闘力は20頭で100頭分のオオカミの群れを撃破できる。そして妃隊。これはピピンの妃である10頭の雌狼で構成される。ピピンの傍を片時も離れず、ピピンを守る壁でもある。

 第1軍を任されたジャキは、50頭の自分が指揮する群れを5頭ずつに分けた。仮に自分の方向にターゲットが来た場合、森を貫くメイン道路を中心にして網のように覆い包む作戦である。

 1つの群れがターゲットを発見すれば、咆哮で知らせて駆けつける。森の中を進むスピードでオオカミにかなうものはいない。ジャキはここで手柄を立てて、オオカミたちの信用を高めれば、いずれピピンに成り代わって王として君臨できると考えていた。

 ジャギには手に入れたいものがある。そのためには現王であるピピンを倒さなければいけない。もちろん、その野望は隠している。今は忠実なナンバー2としての役割を果たすのだ。

 森の中を疾走していたジャギは、偵察隊の2頭が殺されているのを発見した。そして同時に鉄の臭いとオオカミと人間の血が混じった臭い。それが移動している。すぐにジャギは部下に攻撃するよう命じた。ターゲットの位置が分かったのだ。

 そしてその後、羊の集団の独特な臭いと人間の臭いが確認できた。どういう理由で急に臭いがしたのかは不明であるが、自分が分散させた小部隊の包囲網の中にそれはある。


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