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したたかな羊飼いは、黄泉比良坂を突き抜ける  作者: 九重七六八
1章 その羊飼いはオオカミの森を突き抜ける
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陽動作戦②

コメント、評価、ブクマよろしくお願いします。

 アリエスの足下にいる天丸、地丸がコメントする。


(単純な奴でワオン)

(主人様はバカの扱いが上手で、ワン)

「はい、がんばってくださいね、みなさん」


 アリエスは傭兵たちに向かって、にっこりと微笑んだ。オオカミたちに食い殺されるかも知れない危機的状況でのこの笑みは、非常にシュールな絵面であった。俺は背中に冷たいものを感じた。


(神の奇跡といい、この作戦指示といい、年齢の割に手慣れている……。この娘、ただ者ではない……)

「隊長さん、この作戦でいいですか?」


 アリエスがナダル隊長に向かって笑顔で同意を求めている。ナダルは一瞬だけ判断を迷っているようであった。それを察した俺は彼女に質問する。


「アリエスさん、僕たちは迂回して包囲から突破できるかもしれません。しかし、オオカミの正面を突破する彼らは大丈夫ですか?」


 俺の質問は的を射ている。自分たちを包囲しようとしているオオカミたちは、この先に待ち構えているのだ。傭兵たちが強いとは言ってもオオカミの大群の前では食い殺されるだけだ。


「それは傭兵さんたちの努力しだいでしょうね。ただ、突破できる可能性は高いと思いますよ。まだ包囲されるわけではありませんから。近づいてくるオオカミの群れは小集団です。各個撃破して道を切り開き、脇目もふらず岩場を目指すなら、逃げきれる可能性もあるでしょう。迂回したわたしたちも囮として機能します。オオカミたちも50頭もの羊の群れを前に冷静な行動ができるとは思えません。そういうことで、隊長さん、フェルナンドさん、この作戦に同意できますか?」


 アリエスはそうナダルに改めて同意を求めた。説得力のある説明に傭兵隊長は頷くしかない。俺もこの作戦は悪くないと思う。オオカミたちはこちらの複雑な動きに翻弄されるだろう。そこを突けば、安全な岩場の砦まで逃げ切れる。


「ありがとうございます」


 アリエスはナダルと俺にお礼を言い、そして全員にこう告げた。


「では、みなさん。作戦を確認します。先行隊のナダル隊長は、前方に進み、5頭のオオカミたちを排除。20分以内で退治してください。もし、時間がかかるようでしたら、戦闘を放棄して岩場を目指してください。そこのクズは馬車と一緒に、ここに30分待機してから岩場を目指してください」

「おい、小娘。よく考えたが俺は反対だ!」


 ルードは怒鳴った。小娘ごときに指図されることへの怒り。そしてこんなところに30分も待機させられる理不尽な命令。そして自分のことをクズと呼ぶ失礼さへの憤りだ。ルードが怒るのも分かる気がする。アリエスは、ルードに対してかなり厳しい態度を取っている。


「なぜ、反対なのでしょうか。クズさん」

「てめえ、俺を罠にはめて殺そうと思っているだろ?」

「そんなことはありません。むしろ、ここに待機の方が安全です。馬車の移動は遅いので時間がかかるのです。一緒に行動してはオオカミたちを振り切れません。ご心配なく。音を立てずにゆっくりと進めば、簡単に岩場まで最速で到着できます」

「嘘つけ、この小娘!」


 ルードとアリエスの言い合いは収まりそうにない。俺は隊長に目で合図した。ルードをなだめるのはナダルしかいない。


「まあ、待て、ルード。確かに彼女がオオカミたちの動きが分かるというのは、どうにも信用できない。しかし時間がないことも事実だ。他に代案もない。こうしたらどうだろうか。俺とゴードンがここに残る。お前とモーリスは偵察のオオカミを迎撃してから岩場へ行け」


 隊長のナダルがそう言ってルードに役割を交代することを提案した。


「残念です。ここに待機が一番安全なのですが」


 アリエスがいかにも残念そうな表情でそんなことを言った。


「嘘つくなよ、小娘。なんで俺を安全な任務にするのだ。そんなわけないだろうが、この腹黒女め!」


 アリエスの言い方に、ルードの怒りが再燃する。アリエスの残念そうな態度に自分を見殺しにする予定だったと確信したのだ。


「あら、私があなたを待機組にしたのはクズがまた失敗して、私たちに迷惑をかけないようにしたかったからですわ」


 傷口に塩を塗り込めるようなアリエスの言葉。俺はアリエスがルードを心底嫌っていることを確信した。

 アリエスの失礼な態度に、ブルブルと体を震わせているルード。怒りが爆発して今にもアリエスに襲いかかりそうである。しかし、ここはオオカミの出没する森である。羊を扱えるアリエスをここで潰すわけにはいかない。

 それは粗暴なルードにも理解できることだ。仕方なくルードはブツブツとつぶやいて、怒りを一時的に押さえ込んでいるようであった。


(犯す、犯す、犯す、犯しまくって、最後はハメ殺してやる……)


 目線が定まらず、ブツブツとそんなこと繰り返しつぶやいているルード。元から狂気的な男であるが、今は狂犬のように凶暴な目つきでアリエスを目で追っている。


「アリエスさん、もうそのくらいにしましょう。さあ、出発しましょう」


 俺はそういって険悪なムードを断ち切った。この危険な状況で仲間割れはしたくはない。


「それでは各自、それぞれの任務を果たしてください」


 そう言うとアリエスは杖を振って、天丸、地丸たちに指示を送る。羊たちが動き出した。左に進路を取り、岩場を目指すのだ。


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