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したたかな羊飼いは、黄泉比良坂を突き抜ける  作者: 九重七六八
1章 その羊飼いはオオカミの森を突き抜ける
25/52

遭遇②

 モーリスとルードが戻ると集団は進み始めた。ルードはモーリスと交代で先頭を進む。ゴードンがナダルに変わり、後方守備。ナダルが荷馬車で休む。フェルナンドが荷馬車を操縦するというローテーションだ。

 アリエスとルードは無言で先を進む。最初の10分。ルードはアリエスに卑猥な冗談を盛んに言ってくる。しかし、それは沈黙の奇跡で声が聞こえない。それでも口の動きである程度は想像できる。しかし、アリエスの態度は変わらない。

 完全に無視しているアリエスにルードは腹を立てたが、ここは既にオオカミたちの巣窟。羊を巧みに操り、移動させているアリエスの邪魔ができないことは、この粗暴な男にも理解できていた。

 それよりも今は、遠くの方で不気味な気配を感じて、ルードは異様に流れる汗を拭って進んでいる。運動量からではない。周りから感じるプレッシャーのような威圧感である。戦場で長く時間を過ごしたルードには、それが自分に死をもたらすくらいの危険が近づいている兆候だと知っていた。

 同じく先頭を行くアリエスも気配を感じていた。羊と人間の臭いを消し、無音で進んでいるにも関わらず、オオカミたちが異変を感じて集まってきているのである。

 実はアリエスにはオオカミたちの動きが見えるのだ。森に入る前に自分に施した神の奇跡『鷹の目』の効果である。これは自分の視点上空に変えて、さらに鷹並の視力で俯瞰的に物を見ることができる奇跡だ。これは木々の枝や葉で見えなくても問題が無い。オオカミの体温を感じて把握ができるのだ。

 この視認方法と天丸、地丸の察知能力を併せて、アリエスは、ほぼ完璧にオオカミたちの位置を把握していた。

 アリエスの目には、周りから徐々に近づいてきているオオカミの小集団が確認できる。それはこちらの動きに合わせて、近づきつつあるのだ。


(おかしいです……。先ほどのように偶然にオオカミに出会うことはあっても、こちらに向かって群れが近づいてくるのは不自然だわ)


 オオカミは群れで行動するが、中には群れからはぐれて生活するオオカミもいる。多くは独り立ちして群れを離れた若い雄のオオカミだ。最初に出くわした2頭はたぶんそれであった。

 しかし、『鷹の目』で視認できるオオカミの小集団は、明らかにこちらの動きを察知しての動きのように映る。

 幸い、その動きは手探りのようで、こちらの動きを完全に掌握しているようには思えない。きっと無音と無臭の奇跡の効果だろう。そうでなければ、ごちそうが目の前を移動しているのだ。まっすぐにこちらに向かってくるか、集団で囲い込んでくる。


(オオカミたちに感づかれたようね。まだ、完全じゃないけれど……。予定より、早いわ。何かミスでも……)


 無音と無臭の加護があるとはいえ、ずっとオオカミたちに気づかれないで岩場まで行けるとはもちろん考えてはいない。徘徊するオオカミに視認されれば、その情報はオオカミたちの情報伝達網で、ボスのピピンが知るところになるだろう。そうなれば狩りの始まりとなる。それでも森に入ってから2時間で察知されるとは、想定よりも早い。


(主人様、先ほどから鉄と血の臭いがするで、ワオン)

(オオカミの血だ、ワン)


 天丸と地丸の言葉に、アリエスは隣にいるルードを見る。スキンヘッドで舌ピアスの見るからに、粗暴な格好のルードは戦斧使い。2つの手斧を使う戦士だ。その腰に見慣れぬものを発見した。


(ああ、このクズが! やるとは思っていましたがここでやりますか!)


 アリエスは杖を高々と挙げて羊たちを停止させた。


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