休息②
彼らと合流してから、ルルドの町で彼らがやらかしたことへの尻拭いを思い出した俺は胸がムカムカとしてきた。クビにするのは本気だ。これ以上、彼らを野放しにすれば、雇い主であるバインド伯爵の名誉を汚すことになる。
「そうですか。フェルナンドさんも苦労なさっているのですね」
アリエスは食事を終えるともじもじとしながら立ち上がった。
「そうですよ……。あの、アリエスさん、どうしました?」
俺はアリエスのおかしな仕草に戸惑った。
「この時間のうちに少しだけ仮眠を取ろうと思うのですが、その前に少しお花を摘みに……」
言いにくそうにアリエスはそう言葉を濁した。(お花を摘みに)は貴族令嬢の言葉で、トイレに行くという意味である。伯爵家の家令を務める俺にはそれで理解できる。
「そ、それは失礼しました。では、僕はここでアリエスさんを守りますね」
「ありがとうございます」
アリエスはそう言うと少し離れた草むらに入って行った。アリエスのような華麗な美少女が用を足していると想像するだけで、俺は少し胸がドキドキした。どうやら俺は本格的にアリエスの事が気になっているらしい。
やがて戻ってきたアリエスは、革袋から取り出した水で手を洗い、そして今度は口に含んでハブラシで歯を磨き始めた。
「貴重なお水を使ってしまうのは心苦しいですが」
そう言いつつ、手際よく眠る支度をしている。その所作が野外では不似合いなくらいに上品である。
(この娘、やはり良家出身だろうなあ。所作に品がある。生まれながらの貴族かもしれない)
そう俺は思わざるを得ない。そうこうするうちに、毛布を取り出してそれに体を包むとアリエスは目を閉じた。
オオカミが活発に活動する夜に備えて、昼間に羊飼いは眠るのだ。それは護衛の傭兵たちも同じで、この時間に仮眠を取る。当初は仮眠を取らないで進むことを俺は提案したが、アリエスとナダルに反対された。しっかりと仮眠を取らないと夜間の防衛体制が整わないそうだ。
今は2時。1時間ほど仮眠を取って、2時間でムルナウの森を走破し、安全な岩場の砦に向かうのだ。夕方の5時ならこの季節、まだ太陽の光で明るい。
「大丈夫ですよ、アリエスさんが寝ている間は僕が見張りますから……」
そう声をかけたが、返事はなかった。スースーという心地よい寝息だけである。(寝るの、早!)俺は驚いた。野外で危険なムルナウの森を前にしてよく眠れるなんてと思う。
しかし休息時間は貴重だ。ぐっすりと寝てくれれば、俺としてはありがたい。先ほどから、どうしてもやっておきたい衝動にかられている。
(やはり、確かめなければ……)
俺は立ち上がると行動に移った。
遠くで傭兵たちも交代で休む。羊たちが草を食んでいるのどかな風景がどこまでも広がっている。




