ムルナウの森へ②
結局、1時間半経ってようやく傭兵たちがナダルに連れられて集まってきた。酒の飲み過ぎで頭を抱えている者、装備をだらしなく着けて髪の毛も寝癖だらけと、うだうだ感が満載である。
そんな彼らを見るアリエスの表情は堅い。さすがに1時間を超える遅刻に怒っているようだ。
「昨日は飲み過ぎた。頭が痛い」
自分のこめかみを右手でぐいぐいともんでいるモーリス。
「ンゴ、ンゴ……お前らのせいでかなりの遅刻だ、ンゴ……」
そう言ったのは熊のような体躯のゴードン。モーリスとルードに文句を言っている。そのゴードンに入れ墨坊主のルードが腰をトントンしながら、皮肉を入れる。
「全部俺たちのせいにするなよ、ゴードン。昨日のお前の雄姿を俺は覚えているぜ。まるで熊のような体力で女に乗っかっていたじゃないか。銀貨1枚で一体何発やったんだ?」
「ンゴ……知らない、ンゴ。いちいち数えるか、ンゴ!」
「10発だぜ」
モーリスがそう答えて笑う。彼はあきれたように右手を額に当てて、芝居がかったように天を仰いだ。
「さすが森の熊さんだ。体力がパネええ。それに比べてひ弱な俺は腰が痛いぜ」
「モーリス、お前も結構な数を撃っていたぜ。ゴードンにひけは取ってない。それにお前ら、追加料金踏み倒しただろう。いいのか、罪を重ねて?」
黄色い歯をねちゃねちゃさせてルードが言った。この男が他人の罪を指摘するのは、誰が見ても場違いな役だと思うだろう。
「追加料金踏み倒したのは、お前もだろうが!」
間髪入れずに突っ込みを入れるモーリス。ルードが突っ込み待ちなのを知っての発言だ。
「そうだったか? 俺はよく覚えてねえ」
ルードとモーリス、そしてゴードンは銀貨1枚という値段で、一晩中娼婦に相手をさせたのだ。通常の相場は1回の相手で銀貨1枚。一晩なら最低3枚が相場だ。それを3人は軽く踏み倒した。抗議をする女たちに暴力を振るって黙らせてきたところだ。クズもここまでくると、もはや悪魔である。
「おい、お前らそのくらいにしろ。時間を守れと言ったはずだ」
隊長のナダルはそういって傭兵たちの卑猥な話を止めさせた。
遅れてきたのに傭兵たちはまったく反省がない。隊長のナダルも傭兵たちの私生活には口を出さない。そもそも傭兵に規律を求めるのは酷な話だ。
「おや……ヘッセンがいない」
モーリスがそういってキョロキョロと辺りを見回す。ヘッセンは寡黙な男で、いい加減な3人組とは違い、時間には厳しい。これまで遅刻したり、無断で休んだりしたことは一度もなかった。ヘッセンはこの3人とは行動を別にしている。昨晩も軽く飲んでから、すぐに宿屋へ戻っていった。
「おかしいな。奴にしては珍しい」
「ンゴ、ンゴ。あいつ付き合いは悪い、ンゴ」
二日酔いの傭兵たちは面倒くさそうに座り込んだ。仲間を捜しに行く様子はない。
「仕方が無い。ヘッセンを呼びに行く」
「僕も行きます。なんだか嫌な予感がするのです」
ヘッセンは信頼できる傭兵で、実直な性格を俺は認めていた。心配になった俺は、ナダル隊長と同行することにした。ヘッセンの泊まっている宿は、ここからさほど離れていない。ところが、宿にたどりついたが、俺の予感は当たってしまった。宿にヘッセンはいなかったのだ。宿の主人に聞くと。彼は昨晩から帰っていないことがわかった。
(変だな……。ヘッセンは堅物の傭兵。依頼された任務を放棄するなんて)
昨晩から帰っていないということは、何か急な用事でもできて任務を放棄した可能性がある。それ以外の理由は思いつかない。
これ以上、彼を捜し回る時間はない。出発時間が大幅に遅れているのだ。
俺は決断を下した。ヘッセンの捜索を諦めて出発する選択を取るしかなかった。大きな戦力ダウンになるが、ヘッセンの代わりを探す時間はない。




