ムルナウの森へ①
みなさんは、雨大丈夫でしたか。私は昨日、電車が止まって死にました〈笑)昨日、投稿できずにすみません。
朝の7時。俺が中央広場に行くと、もう羊飼いの少女は自分の管理する羊たちと共に待っていた。その羊はパルフェ産とは違う黒い顔と黒い毛をもった羊である。
全部で6頭。この可憐なグレゴリオ教皇庁公認羊飼いが最初から連れ歩いている羊なのだろう。大人しくアリエスの後ろにたむろっている。
(おや?)俺が不思議に思ったのは、アリエスが犬を連れていないこと。羊飼いは通常、1頭ないし、2頭以上の牧羊犬と行動を共にしていることが多いのだ。
俺の訝しげな表情にアリエスは笑顔で挨拶をしてきた。
「おはようございます、フェルナンドさん。私の顔に何か付いていましたでしょうか?」
「いや、普通、羊飼いは犬を連れているからね。アリエスさんの犬はどこにいるのです?」
俺の質問にアリエスはクスクスと笑った。
「あ、すみません。私の相棒はここにいますので……」
そう言って腰に装着している2本の筒を軽く左手で叩いた。俺にはアリエスの意図が掴めない。その木の筒が犬の代わりになるのだろうかという疑問しか沸いてこない。そんな困惑している俺にアリエスは笑顔で応えた。
「犬の精霊を使うのです」
「犬の精霊?」
俺は予想外の言葉に思わず聞き返してしまった。
「はい。町では人を驚かせるので呼び出しませんが、町を出れば召喚します。本物のワンちゃんも優秀ですが、精霊のワンちゃんも優秀ですよ。本物と違って餌も食べませんし、筒に待機させれば宿泊にも困りません。宿屋に本物の犬は連れて行けませんし」
「グレゴリオ教皇庁公認羊飼いというのは、みんなその犬の精霊を使うのですか?」
「いえ、全員ではありません。使えるのはA級以上ですよ」
そうアリエスは答えた。そういえば、アリエスのライセンスにはA級と刻まれていた。精霊まで使えるとなるとA級というのはかなり高度なレベルなのだろう。やはり、教皇庁直属の羊飼いは、別格である。
「それにしても、傭兵さんたちはまだ集まっていないようですね。時間が大事だと昨晩申し上げたのに緊張感がないです」
アリエスにそう言われて俺は謝るしかない。傭兵たちは昨晩、飲み過ぎて寝坊しているのだ、中には女を買って娼館に泊まっている者たちもいる。
隊長のナダルはそんな彼らを集合させている最中なのだ。
「彼らの素行は悪いですが、傭兵としての腕は確かです。このまま行くと1時間は遅れますが、それくらいなら挽回はできます。もう少し待ちましょう」
俺はそう言うしかない。傭兵たちを雇っているのは、主人の伯爵ではあるが、自分は伯爵の代理人。彼らは俺の命令を無視できないはずだが、年若い自分の命令に素直には従わないことは十分に予想ができた。今回も元来の怠け癖に早朝という出発時間が彼らを遅刻させているのだろう。そもそも傭兵に時間を守れというのが、無理な話だ。
「……分かりました。ズーデンの戦いで活躍した兵隊さんですものね。その戦闘力は折り紙付き。この間に移動させる羊たちを見てよいですか?」
俺の気苦労を知らないアリエスはそう言うと13番囲いの羊たちのところへ入って行って、一頭一頭の健康状態をチェックするといっていなくなった。
(まただ……。この違和感)
これは昨日も感じたものだ。さりげなく話すアリエスの言葉には、皮肉めいた印象と何か隠しているような気配がするのだ。
(なぜ、ナダル隊長たちがズーデン戦役帰りなのを知っている。それに今思えば、昨日はオオカミの群れのボスの名前を知っていた。ピピンという名はまだ広く知られているわけじゃないのに……)
もちろん、ズーデンの戦いに参加した傭兵は多いだろうし、ピピンの名前も知っている人は知っている。羊飼いのアリエスが耳にすることはおかしなことではない。また傭兵といえばズーデンの戦いに参加しているものだという思い込み故かもしれない。




