羊飼いの少女⑥
「あのお嬢ちゃん、本当に羊飼いか。胡散臭い宗教家の手先かなんかじゃないのか?」
「罪深い俺たちの命の保証はないそうだ、ンゴ。」
「まあ、俺たちは傭兵だ。これまで卑劣なことをしてきたといえば、そのとおりだけどな。特に女関係ではいろいろ罪を重ねてきたよな、ルード」
意味ありげにモーリスがルードを茶化す。ゴードンもニヤニヤしている。
「ふん、てめえたちも同罪だろうが。その点、隊長やフェルナンドさんは無罪だろう。あと、ヘッセンもだ。故郷の奥さんに義理立てて、女に手も出そうとしないからな」
いじられたヘッセンは反応を示さない。黙って聞き流している。隊長のナダルは3人の傭兵をにらみつけている。
俺はアリエスの言葉を聞いていて、自然と下を向いていた。
(黄泉比良坂……。人は選別されて生き返るか、地獄に落とされるか選別される場所。ムルナウの森は黄泉比良坂か……不吉な作り話だ。ありえない)
俺は頭を振ってアリエスの言葉を強く心で否定した。それに変な空気で傭兵たちの士気を落としたくない。
「この世界で罪を犯さない人間などいませんよ。人間は生きるだけで罪なのです。だから我々は、教会で神様に祈って罪を許してもらうのです。今回もみんな生き残れますよ」
そう俺は傭兵たちをなだめた。傭兵稼業を生業にしている人間は、基本、ろくでもない人間が多い。特にこのルード、モーリス、ゴードンの3人は極悪人の部類だろう。欲に忠実というか、理性にかけて本能のままに動く。特に女性や弱い者への態度は目に余る。黄泉比良坂があるのならば、100%傭兵たちは生還できないというものだ。
そんな俺のフォローを無視して、3人の傭兵たちはアリエスの話に戻っている。
「黄泉比良坂だと。あの娘、可愛い顔して怖いことを言う」
「まあ、死地なら俺たちは何度も遭遇し、その度に生還してきたぜ。あんな小娘の力などあてにはしないぜ」
「ンゴ、ンゴ……。娘は羊の世話だけをすればいいで、ンゴ」
3人の傭兵たちは、口々に先ほどのアリエスの言葉に悪態をついている。
「それにあの小娘。俺たちに時間を守れと?」
「時間を守るも何も、俺たちは時計を持ってない。腹時計でいいなら、時間は守れるぜ」
この世界では時計は貴族かお金持ちの装飾品であった。高価で壊れやすいので、外の活動が多い傭兵が持っているはずがなかった。
傭兵たちは口々にアリエスのことを卑猥なネタにした。彼女の容姿の美しさやまだ男を知らないであろう無垢な体をネタに酒を飲むようだ。
ビールのお代わりを次々と注文する。羊飼いが見つかって心おきなく酒を飲むつもりなのだろう。気楽な傭兵たちの姿を視界に入れつつ、俺はアリエスの言葉を思い出した。
(羊は守るが罪深き人間は守らない……。あの娘、兵士たちの顔を確認していた。まるで誰かを捜していたかのような感じだったが……)
なぜだか知らないが、俺は首筋に冷たい汗が流れていくのを感じた。気のせいだと思いたい。俺はジョッキを握った。そして生暖かいビールを一気に飲み干した。




