羊飼いの少女①
「あの……羊飼いを捜しているフェルナンドさんという方はあなた様ですか?」
名前を呼ばれた俺は振り返った。そこには自分の顔をまじまじと見てくる大きな瞳があった。
「えっ、嘘だろ!」
俺は思わず驚きの声を上げてしまった。一緒に出迎えた隊長のナダルも声こそは上げなかったが驚いているのは同様。他の傭兵たちは驚くと同時に卑猥な笑みを浮かべていた。
宿屋の女将に連れられて俺の前に立ったのは、どう見ても10代後半の超絶美少女であった。俺は生まれてこの方、美しい女を何人も見てきたが、この少女は別格。ダントツで一番だ。その美貌はとても羊飼いのような外仕事をしているようには思えない。
「アリエスと言います。グレゴリオ教皇庁公認羊飼いです」
美少女はそう言った。透き通るような金髪の髪は光沢で輝いている。顔立ちも白くて美しく、職業柄、日焼けをしてしまう羊飼いとは思えない顔つきである。 小柄な体形で足首まであるロングワンピース。足には革のサンダル。そこから覗く足の爪はきれいな緑色に塗られている。麻糸で編まれたカバンを斜めに体に掛けている。
首には牧羊犬に指示を送る犬笛。そして羊に合図を送る角笛を下げている。腰には2本の筒状のものがぶら下がっている。それが何なのかは俺には分からない。
右手には羊飼いが持つ杖。多くは樫の木でできたものであるが、この少女の杖は一風変わっている。
金属でできているのだ。月を象った三日月型の飾りにガラス玉と思われる色合い豊かな石が埋め込まれている。もし本物の宝石であるならば、国宝級の代物であろう。
(流しの羊飼いがそんな杖を持っているわけがない。ということは、この娘は本当に教皇庁公認の羊飼いか)
(教皇庁の役人というなら、この娘もそれ相応の家柄だろう。下級貴族か、官吏の娘ということか)
俺はそう推測した。詐欺師には見えないが、羊飼いにも見えない。貴族の園遊会で談笑している年頃の貴族のお姫様という気品ある風貌だ。
「僕がフェルナンドです。それにしてもお嬢さんは本当に羊飼いなのですか?」
素朴な疑問をフェルナンドはぶつけてみた。羊飼いという職業は経験値がものを言う。たくさんの羊を自由自在に動かし、日程や地形を読みながら移動する。手助けする牧羊犬の訓練や扱いもしないといけない。
「はい。私は正真正銘の教皇庁公認の羊飼いです。これがその証明書です」
そう少女は言い、首にかけたカバンのポケットから小さな金属プレートを取り出した。それは革ひもで鞄につながれている。




