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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第二章 裏社会編

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第54話 帝国から来たる者

「ガニュメデス……だと?」


 そう甲冑姿の、金髪の女が呟いた。

 年齢は18歳前後。凛々しい顔をしており、意思が強そうな瞳である。


 女騎士。


 その言葉自体に手足を生やして、具現化したとしか思えない存在だった。


 肩甲骨ほどまで伸びた金髪と碧眼(へきがん)で、凛々しくも美しい顔立ち。


 帝国調査騎士団所属、極西部担当官のアルヴィ・ルディアである。


 彼女は今、自分の親くらいの年齢の目立たぬ風体の男と『帝都』にある調査騎士団の秘密事務所で、膝を突き合わせていた。

 小さなテーブルをはさんで、お互い安っぽい木製お椅子に腰かけている。


「スキルにより、異世界から持ち込まれた薬である可能性が、高い……と」


 仲間からはアルルの愛称で呼ばれる女騎士が、男からの報告にそう呟いた。

 そして、リード王国でスパイをしていた男に尋ねる。


「首謀者は?」


「第三王女マリーナ・リード殿下の可能性が、高いかと思います」


 スパイがそう告げた。


「第一王子ルアム殿下は現在魔王領ですし、第二王女ルナリア殿下は魔王軍との壮絶な戦いで、お隠れになりました。王都に残るのはマリーナ殿下のみであるのに、次々とガニュメデスが供給されております」


「なるほどな……」


 スパイから渡されたガニュメデス──ヘロインのサンプルを見ながら、アルルが表情を変えずに(うなず)いた。が、すぐに笑顔を浮かべて、立ち上がる。


 そして、スパイの真横まで行くとその肩に、ぽんと手を置いた。


「ご苦労。貴重な情報感謝する。特別報酬を出すので、しばし華の帝都で蛮地の垢を落とすといい」


 そう言って、アルルが結構な額の金貨が入った袋をテーブルに置いた。


        〇


「二重スパイだった。リード王国側のな」


 帝都にある調査騎士団本部で、アルルが先ほどの男に関してそう報告した。


「記憶を読んだから間違いない」


 そう言って、『読心』のスキルを持つアルルが右手を開いて見せる。

 この手をスパイの男の肩に乗せた時、記憶を読み取っていた。


 あのスパイは帝国側と見せかけて、その裏では調査情報をリード王国の測量局に流している二重スパイである。それを、このスキルで見破った。


「で、どーすんだよアルル? 始末しておくか?」


 アルルと同世代くらいの女が、ケタケタ笑いながら物騒なことを言った。

 雰囲気、喋り方、見た目全てがアルルと真逆の女だ。


「オレが頭をぐちゃっと、トマトみてぇに潰してやるぜ!」


 長い銀髪をポニーテルにしており、その挑発的な目つきの中で燃えるような赤い瞳が輝いている。身長は170弱の長身で、肉付きも良く健康的だ。


 パツパツの黒いTシャツのような服を着ており、ボトムズは白いクロップドパンツだった。靴は履いておらず、上着を脱いだ空手家のようにも見える。


 黒いアウターを腰巻にしており、それが黒帯のようにも見えるからなおさらだ。


「殺すなんて、とんでもない」


 アルルが格闘家のような女にそう言った。


「むしろ、帝国側のちょっとした機密情報を与えて手柄を立ててもらおう。リード王国で出世してもらった方が、色々と助かる」

「へっ、相手の心が読めると、便利だなぁオイ」


 あのリード王国の二重スパイの地位が高まり、より重要な情報にアクセス出来る立場になれば、帝国のアルル的にはありがたい。

 記憶を読み取れば、アルルはその情報を得られるのだ。


 内心では帝国を裏切ってようが、まったく問題ない。むしろ二重スパイとして、本人はリード王国側だと思ってくれているほうが、アルル的にありがたかった。


「今回の件で、リード王国の跡継ぎたちが失脚すれば、王家の血を引くお前が新たな王になる可能性もあるな」


 アルルが、目の前にいる格闘女の髪の毛を見ながら言った。

 リード王家特有の、銀の髪が輝いている。


「へっ、冗談はよしてくれ。オレは王様って柄じゃあねぇよ」


 そう言って銀髪の女格闘家が、近くにあった瓶を手に取る。

 そして、その上部をまるでペットボトルの蓋を回して開けるように、一瞬でねじ切ってしまった。


「リード王家の血を引いてよかったことなんて、この『超人』のスキルを持って生まれてきたことくらいだぜ。王様なんて面倒くさくて、やりたくねぇよ」


 勇者に匹敵する怪力の女格闘家が、ビンの中身をがぶ飲みする。

 ワインのように見えるが、実際はぶどうジュースだ。

 オラオラな雰囲気と違って、酒はあまり好きではないらしい。


「オレがあんたら、調査騎士団に協力してやっているのは、強ぇ奴らと戦えるからだ。あんたらと組んでりゃ、スキル持ちと戦う機会にゃあ事欠かないからな」


「しかし、今回戦うかも知れない相手は、おそらく『勇者』だぞ」


 アルルが銀髪の女にそう言った。少し気遣(きづ)うような響きが含まれている。


「……戦えるのか?」


 勝てるのか、ではなく『そもそも戦えるのか』心配そうに尋ねた。


「へっ、上等だぜ。2年前から、ずっとあいつとはヤリてぇと思ってたんだ!」


 むしろワクワクが抑えられない声で、銀髪の女がそう答えた。


 このイシュメイルで、音に聞こえし勇者と正面から戦おうと思う者は少ないし、タイマンで戦うことに心躍らせる者などほぼいない。

 だが、女格闘家は心の底から期待しているように目を輝かせていた。


「勇者とやりあうかも知れないってぇことは、やっぱガニュメデスを密輸して転売してんのはマリーナって思ってんか? あいつは、あのお転売(てんば)姫の剣だからな」


 銀髪の女が勇者を「あいつ」と呼ぶ。よく知っている間柄のようであった。

 つまり、勇者のことをよく知らない阿呆がイキっているのではなく、勇者の力を知ってなお戦いたがっているらしい。


 アルルがそんな同僚に、心強さを感じる。


「マリーナ姫殿下は、元々城壁撤廃派だったルナリア姫殿下の地盤を引き継ぎ、ルアム王子殿下と対立している。だが、所詮は第三王女で勢力的には弱小そのもの。ゆえに、ガニュメデスなる異世界の薬を売り捌いて資金を得て、ルアム王子殿下との差を埋めようとしている。そんなところだろう」


 厳めしい顔でそう言ったあと、アルルがくすっと微笑んだ。


「なんて決めつけは良くないがな」

「へっ、帝国調査騎士団のアルル様とあろう者が、鈍ったかと思ったぜ」


 おかしそうに笑いながら、銀髪の女が少し安心した声で言った。


「先ほどのはほぼ妄想で補完されたストーリーだ。そんな思い込み前提で調査をすれば、認知が歪んで真実に辿り着けない。自分の思い描いたストーリーを補完する情報だけ見えて、それ以外の情報は見えなくなるからな」


 そう言ったあと、アルルがマリーナ姫ことプルムについて書かれた資料を取り出して、こう続けた。


「それはそれとして、マリーナ姫殿下が現時点で怪しいことに間違いない」

「ごもっとも」


 実際にマリーナと何度か邂逅(かいこう)したことがある銀髪の女が、同意する。


「で、マリーナ姫とか王家が密輸に関わってたら、どうするよアルル?」

「帝国への(はん)()と見なし、リード王家はお取り潰しだな」


 そう帝国騎士のアルルが答えた。


「犯人が別にいたら?」

「その場合でも、見つからなければ『国治まらず』としてお取り潰しだな」


「へっ、流石お目付け役のアルル。厳しいこって」


 淡々と国一つ終わらせることを宣言するアルルを見て、銀髪女が笑った。 


「ひとまず、マリーナ姫殿下とその周辺から調査を開始しよう。とりあえずリード王国の『王都』まで行かねばな。ええっと、距離は……」


 アルルがイシュメイル大陸の地図を開いて、確認する。

 西海岸沿いの『帝都』と、東海岸にあるリード王国とはかなり距離があった。


「直線距離で、8200キロメートルと少しか……」


 東京から東に進めばアメリカのサンフランシスコ、西に進めばイラクのバスラやバグダッドまでの距離とおおよそ等しい。シルクロード以上の距離だ。


 馬に乗って進んだとしても半年以上かかるし、実際の道は直線でもなければ山脈や大河にぶつかって、遠回りする必要もある。船でいけばもう少しだけ早いが、結局それでも大陸を大回りするので、数か月以上はかかってしまう距離であった。


 つまり、先ほどの二重スパイの情報も半年近く前のものだ。

 まだ魔王軍との戦争中の、4月くらいの情報である。

 すでに裏社会では、その頃からガニュメデスが広まっていた。


「空から行けば、10日の距離か。結構遠いな」


 そうアルルが呟いた。一日800キロメートル以上の移動が可能らしい。

 自動車も飛行機も存在しない、イシュメイルでは異常な移動速度である。


 アルルが銀髪の女に視線を向けた。


「ああそうだ。私たちが一緒にリード王国へ降り立ったら、繋がりがバレてしまうから最後までは乗せていけない。でも、隣国くらいまでなら送り届けるぞ」


「必要ねぇよ、アルル」


 アルルの申し出を、銀髪の女が断った。

 そして自分の太ももを、右手でパンパンと叩く。


「オレは、自分の足で走っていくさ」

「大丈夫か?」


 アルルが心配そうな声で尋ねる。いくら超人でも、8000キロを超える距離を自らの足で駆け抜けるのは大変じゃないかと思っていた。


「おいおい、オレを誰だと思っていやがる」


 銀髪の女が、心外とばかりの顔をする。そして、自信満々のドヤ顔をした。


「オレは勇者パーティーの『武道家』。走るのが仕事の、騎兵中隊相当官だぜ」


 魔王軍との戦争終結から、一か月も経っていない。

 なのに、西の果ての魔王領から東の果ての帝国にこの銀髪の武道家がいるのが、彼女の移動速度の速さを証明していた。


「ふっ、それもそうだな」とアルルが納得したように(うなず)く。

 すると武道家が「どっちが先に着くか競争しようぜ」と言ってきた。


「いいだろう。負けた方がご飯をおごるとしようか」


 アルルが、女武道家の提案した勝負に乗る。


「それでは」「よーいドン!」


 その言葉と同時に、二人の女が同時に駆けだす。


 帝国調査騎士団で、『読心』のスキルを持つ女騎士アルヴィ・ルディア。

 勇者パーティーの一員で、実は帝国の協力者だった『超人』の武道家。


 リード王国の存亡を左右するふたりが、麻薬ガニュメデス──ヘロインの調査のために西の果てを目指した。

ようやく女騎士アルル再登場。


面白かったらモチベと励みになりますので

ブクマや★評価してくださるとうれしいです。

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