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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第二章 裏社会編

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第46話 麻酔と麻薬

「プルムさんというのですか! 素敵なお名前ですね!」


 勇者が、ニコニコと満面の笑みを浮かべた。


 白衣に下に、オフショルダーの白いシャツを着ている。ボトムスはグレーのチェック柄で、斜めにカットされたフリル付きアシンメトリースカートだ。


 足元は黒いブーツに、黒いモコモコのレッグウォーマーをつけている。


 セミロングの金髪は、テール付きでツインのシニヨンヘアにしていた。


 どうやら、少し前に初めて見たイシュメイルのは存在しないファッション──亜麻仁(あまに)の地雷系(の出来損ない)に、勇者は衝撃と感銘を受けたらしい。


 首元の黒いスエードコードのチョーカーといい、各所に影響が見受けられる。


「ありがとっ」


 お姫様の時とは、意図的に喋り方を変えてプルムが言った。


「勇者ちゃんも普段の甲冑とはまた雰囲気が違う、可愛らしい恰好だね」


 本心ではあったが、別の本心を抑えるための声だった。


(勇者ちゃんって、プライベートでオシャレとかするんだ……)


 何気に失礼なことを、プルムが勇者本人を前にして考えた。


 似合っているし可愛いと正直思う。

 しかし、何故かプルムは微妙にショックを受けていた。


「それにしてもプルムさん! マリーナ姫様そっくりなのですね!」


 ショートカットになり、伊達メガネで変装しているプルムの顔をまじまじと見つめながら「驚きました!」と勇者が目をキラキラさせて言った。


「あはは……私みたいな平民は、超絶美少女で天才的な頭脳を持つと噂の、超素敵なマリーナ姫様をお近くで見たことがないから、知らなかったよ」


 なんのためらいもなく自画自賛をしながら、プルムがすっとぼける。


「…………」


 この中で唯一真実を知っている太郎は、いろんな意味でプルムに感心した。


        〇


 そのあとも、勇者と少し雑談をしながら、プルムが考える。


 私の嘘に騙されてくれたのはありがたいけど、少し寂しいわ勇者ちゃん!


 うう、私って気付いてくれないなんて……でも気付かれたら困るし。


 しかし逆に、勇者ちゃんは本当に勇者ちゃんなのかな?

 プライベートで会ったことなくて、イメージと違ったからなんだか別人みたいに感じて、これはこれでちょっと寂しい。


 そんなことを考えてた時、ロロがビネの『処置』を終えてやってきた。


「浄化完了であります。これで、感染症の心配はありません」


 自慢の角を光らせながら、ロロがちょっとドヤ顔をする。

 ロロ・ユニコーン少尉候補生は名前の通り、ユニコーンの魔族だ。

 その角は、あらゆるものを浄化する。毒や菌も消し去ることが出来た。


 医療現場にとってはありがたすぎる人材で、傷を治療できる勇者とのシナジーは凄まじかった。現在、ロロは特別()(りょ)としてこの闇医院で働いている。


 ハーグ陸戦条約で捕虜は、戦後は母国への速やかな帰還が保障されるが、イシュメイル法では違った。戦後でも、一定期間の()(えき)労働をしなければならない。


 もっとも、ここで働くことはロロ自身が望んだことであり、お給料も出ている。


(勇者ちゃん……捕虜の可愛い男の子を囲っているんだ。やるじゃん)


 プルムがロロの顔を見て「お前が言うな」的なことを考える。

 これもまた、今までの勇者に思い描いてたイメージと少し解釈違いであった。


 もっとも、この勇者とロロの間で行われた命がけの戦いを知っていれば、プルムの思う勇者像とは(かい)()したものではない──のだが、プルムは知らなかった。


「ですが……」


 ロロが少し言いにくそうな顔をする。


「ビネさんの体内に『異物』が残っている可能性があります。その場合、体内に(うみ)が溜まったり、体調がおかしくなるであります。その時は、すぐ来てください」


 ビネの身体には、銃弾の破片が残っているかも知れない。

 しかし、この世界にはレントゲンやCTやMRIがないため、残っているのか、位置はどこなのかがわからなかった。


「その時は、どんな治療をするの?」


 プルムが素朴な疑問を口にした。

 破片の位置がわからないなら、手の出しようがないのではないか?


「私が殴ります!」


 怪力の勇者が、笑顔でそう答える。

 そして、ぐっと右の拳を握りしめて見せた。


「ええっと、先生が患部とその周辺を殴って、肉を異物もろとも吹き飛ばすのであります。そして死ぬ前に、すぐに治す……というやり方であります」


「うわぁ……」


 ロロの解説に、プルムがドン引きする。

 脳内イメージで、勇者のダイヤモンドすら砕くクレイジーなパンチを食らって、ビネが左わき腹をごっそり吹っ飛ばされる姿が見えた。


 そして、先ほどの地下の防音室の壁に、どうして血や肉片が飛び散っていたかを理解する。あれは勇者パンチで吹っ飛んだ、患者の身体の一部だろう。


 そしてドアを開けた時に聞こえた悲鳴は、治療されてた患者の声だ。


 かわいそうに……とプルムが思う。


 もしかして、ビネちゃんの言ってた「出来れば世話になりたくないんだが」ってこのことなのかしら……この世界って麻酔ないし。


 えっ、麻酔無しで勇者ちゃんパンチ食らわなきゃいけない場合もあんの?


 でも、体のどこに異物があるかわかんなきゃ、そうするしかないわよね……


 そう考え、先ほどのビネの『怯え』の正体がわかった。


(サンキュー、レントゲン! そりゃノーベル物理学賞も受賞するわ)


 プルムが現代医療に、様々な非破壊検査法があることに深く感謝する。

 肉を切り裂き、骨に穴を開けなくても身体の中身がある程度わかることの、なんと素晴らしきことか。


 そして、「この手に限る」と言わんばかりに、握りしめた拳をかかげドヤ顔をする勇者を見て────


 そうそう、これよ!

 これこそが、私が知ってる勇者ちゃんよ!


 と、解釈一致の姿に、ちょっと安心感を覚えてしまった。


        〇


「先生、ありがとございました」


 先ほど地下で悲鳴を上げた初老の男性が、勇者に頭を下げた。


「また腫瘍(しゅよう)が体中に転移したら来てください! 全部、殴り飛ばしますから!」


 そう白衣姿の勇者がニッコリ笑う。


「あ……はは……次はもうそのまま大人しく死にますよ。あの痛さにまた耐えられる気がしないんで……な、なーんて冗談ですよ」


 男性が感謝と恐怖が入り混じった引きつった顔で、頭を下げながら出ていった。


「もう来なさそうであります……」


 そう勇者の隣にいた、ナース役をしている魔族の少年ロロが呟いた。


「それは困りました! どうにかしないと! 受診者も減少傾向ですし!」


 勇者と魔王軍の少尉候補生であるロロが、うーんうーんと悩む。

 二人とも苦痛に対する耐性が高いせいで、治すことを優先して患者の痛みに対するケアをあまりしてこなかったらしい。


 痛みは、気合と根性で我慢すればいいと思っているようだ。


 泣き言を言わない『勇者』と『軍人』の悪いところが出ていた。


「お酒を飲ませて、酔わせてみるのはどうかな?」


 痛みに弱いプルムが、悩んでいるふたりに助言した。


「酔っていると痛み感じにくいからね。それにちょっとヤバい量飲んでもロロくんのユニコーンの固有能力があれば、すぐ中和して急性アル中にもならないし」


「それです!」「それであります!」


 プルムの提案に、勇者とロロふたりが花開くような明るい顔をした。

 酒は昔は戦場で麻酔代わりに使われていたし、勇者のスキルがあればかなり無茶な使い方をしても、生命や健康を害することはないだろう。


 10秒間だけ、痛みを感じにくくすればいいのだ。


 通常であれば死ぬ量の酒であってもロロが中和出来るし、その肉体的ダメージは勇者が治せる。アルコールの血管注射さえも、健康を損なわず可能だろう。


「ロロくん! お酒をたくさん買ってきてください!」

「了解であります!」


 勇者に結構な量の金貨を渡され、すぐさまロロが病院を飛び出そうとする。


「ああ、太郎も連れて行って。2人の方がお酒をたくさん運べるでしょ?」


 さらり、とプルムが本心ではない言葉を言った。


 魔族とはいえ、こんな夜中に子供ひとりで買い物行かすのは危ないでしょ。

 明治時代の看()婦みたいな恰好してるから、ぱっと見は女の子に見えるし。

 あと大金持ってるし。


 そうプルムが思う。

 看病婦とは、明治中期までの看護婦の呼び方だ。


 しかし、その本心を素直に述べたら、魔族で軍人のロロ少年のプライドをひどく傷つけそうだ。年が近い太郎に『守られる』というのも、気に入るわけがない。


「大丈夫であります!」と反発され、逆効果になりかねないだろう。


 なので一緒に荷物運びさせるという名目で、太郎を同行させようとした。

 今この場には勇者がいるから、太郎不在の間になにかあってもプルムの身は守られるだろう。


「良いのですか!?」

「うん、大切な『妹』を救ってくれたお礼だよ」


 勇者の質問にそう答え、プルムがまだ眠っているビネに視線を向けた。


「では、行ってくるであります!」

「行って……きます……」


 そう言って、ロロと太郎が外へ出て言った。

 地上一階部分にある部屋には、プルムと勇者と意識のないビネが残される。


        〇


「そうだ、勇者ちゃん。私の実家は薬品を取り扱っているんだけど……」


 プルムが、いつものようにナチュラルに嘘をついた。

 嘘をつくこと自体には何の罪悪感もないので、嘘発見器も反応しないだろう。


「クロロホルム────」


 プルムが、とある有機化合物の名前を口にした。


「っていう薬品を今度持ってくるね。この薬を使えば、お酒を大量に飲ませるより早く簡単に、相手の意識を失わせて、痛みを感じさせなくするんだ」


「そうなんですか! それは助かります!」


 プルムの提案に、勇者が嬉しそうな顔をする。


 ま、クロロホルムくらいならちょい無理すれば、日本で手に入るでしょ。


 そうプルムが思った。


 漫画やドラマみたいにハンカチにしみ込ませたのを吸わせる程度じゃ、意識を失わせることは難しいけど、昔は本当に麻酔として使われていたものだしね。


 もっともクロロホルムは、毒性がちょっとヤバいけど。

 量間違えたら、わりと簡単に心臓止まるからねぇ。


 南北戦争の時、クロロホルムを麻酔として使った場合の死亡率4%だっけ。


 ええっと……南北戦争は『いや無意味』だから、1861年で19世紀(なか)ば。

 個人的には、思ったより死なないわねって感じ。


 死ぬのは25人にひとりかぁ────


 これを多いとするか少ないかとするかは、その時代の人命の価値次第ってとこかしら? もちろん、現代日本だと多すぎてアウト判定だけど。


 イシュメイルだと……考えないでおきましょう。


 クロロホルムの副作用による死者は、時代が下ればエーテルと合わせて副作用を抑えることで、25人にひとりから、2500人にひとりくらいになった。


 でもまだまだ多いし、エーテルがないイシュメイルで使ったら、南北戦争の時と死亡率は変わらないだろう。でも、勇者ちゃんとロロくんがいれば心配ない。


 クロロホルムが原因の不整脈や肝臓へのダメージあっても、ロロくんのユニコーンの固有能力や、勇者ちゃんの『超人』のスキルで中和、回復させられるから。


 もっとも、その25人にひとりの人たちは、死という悲劇から助かっても、勇者ちゃんパンチを麻酔無しで受ける惨劇からは逃げられないけどね。かわいそ。


 本当は『エーテル』────ジエチルエーテルの方がいいんだけど。


 燃えやすい以外はクロロホルムよりは、麻酔として安全だからね。

 でもエーテルは『麻薬』に指定されてるから、入手ムズいんよねぇ。

 麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関するなんとか条約に記載されてる。


 他の麻酔薬も、基本的に『麻薬』として指定されてるのばっかだし。


 デスフルランや亜酸化窒素(笑気)みたいに、麻薬指定されてない麻酔もあるけど、そいつら『ガス』だから、ここみたいな闇医院程度の設備じゃ扱いきれないし。


 イシュメイルだと、ガスの扱いに慣れた錬金術兵(アルケミーレース)じゃなきゃ、まず無理ね。


 どーでもいいけど『デスフルラン』って名前、即死技感すごいわよね……

 初めてこの名前聞いて、麻酔と思う人なんているのかしら?

 本当、どうでもいいけど。


 それに対して、クロロホルムは麻酔効果があるのに、麻薬扱いされてない。

 そして19世紀(なか)ばの、野戦病院でも取り扱えるくらいだ。

 ユニコーンの固有能力と、『超人』のスキル前提なら、最高の麻酔薬になる。


 もちろん、クロロホルムも劇物に指定されて、規制を受けている。


 それでもやっぱり『麻薬』ほどは厳しくない。

 中高の理科部程度でも、クロロホルムは自作も出来るし。


 薬品は『麻薬』かそうでないかで、日本での入手難易度は大違いだ。


 日本じゃ可愛い女子高生にすぎない私でも、『麻薬』ではないクロロホルムは、ちょっとの無茶で手に入るだろう。それも大量に。


 だからこそ、不思議なのよねぇ。


 ガニュメデス──ヘロインをイシュメイルに持ち込んでる連中は、日本で仕入れてるってことよね? でも、日本で麻薬を入手すること自体難しいのでは?


 犯人は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



        〇


「……ムさん! プルムさん!」


「あっ……」


 プルムが勇者に名前を呼ばれていたことに気付く。

 考え込んでいて、勇者の大きな声すら聞こえていなかったようだ。


「ああ、ごめん勇者ちゃん。ボケーっとしてて」


「考え事の最中、申し訳ありません!」


「いーの、いーの。そんな大したこと考えてたわけじゃないから」


 そんなプルムの言葉を素直に受け取り、「ならば、よかったです!」と勇者が安心したような顔をした。


 そして、ずいっとプルムに近付いて、その手を取って握った。


「プルムさん! 私とお友達になってくれませんか!?」


(おおおおお、近い近いッ?)


 真正面から間近に顔を寄せる勇者に、プルムがそう思った。


「ここでは勇者であることを秘密にしていて! でもプルムさんが気付いてくてて嬉しかったです! だから友達になってください!」


「え、ええ……いいけど」


 私、陰キャだからよくわからねぇけどさぁ……

 友達ってこんなアッサリなるもんなの?


 そうプルムが思いつつも、勇者の申し入れに対して(うなず)く。


 ってか、勇者ちゃんってプライベートだと、こんな積極的なんだ。

 普段の私に対しては、お姫様ってことで遠慮していたのかな?

 マリーナ姫の私に対して、触ることすら控えていたしね。


 自分の手をぎゅっと握る勇者の手に視線を落とし、プルムがそう考えた。


(まぁ、私もイシュメイルに友達いないし、実はちょっと嬉しいかな)


 プルムからも、軽く勇者の手を握り返す。


「そうだ! 今日は泊まっていきませんか!」


「……え?」


 勇者の提案に、プルムがぽかんとした顔をする。


「もう夜で外は危ないですし! ベッドが2つしかないので、子供たちと私たちで分かれて一緒になりますが! 友達だから大丈夫でしょう!」


「えっ? えっ? えっ?」


 普段は判断力に富むプルムが、どうしていいかわからない顔をした。


 えっ、会ったその日なんですけど?

 いや、姫と勇者としては前から会ってるけどさぁ……


 プルムが混乱した思考の中で、必死で考える。が、普段なら何事にも素早く答えを出す自慢の脳は、今日は古いOSのようにやたらフリーズしてしまった。


 わかんない、わかんない、わかんない!?


 こ、これって女の子同士だと普通なの?

 私、藤海以外に友達いねーから、女子の距離感わかんないのよ!

 あいつとはお互い陰キャだから、距離詰めるの3年くらいかかったし。


 いや、男の人との距離感なんて、なおさらわからんけどね!


 ってか、もしかしてこれ勇者ちゃんはそっちの『()』があるの?

 で、でも聞いたら失礼だし……


 ってか、勇者ちゃん力つよっ!


 作業機械のごとく、その力でじわじわプルムを引き寄せる勇者の手に、プルムが命とは別の危機を感じる。


 自分からは男女問わずわりとセクハラじみた行為が出来るのに、自分が攻められるとプルムは急にヘタレて何も出来ない女であった。

面白かったらモチベと励みになりますので

ブクマや★評価してくださるとうれしいです。

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